幕間6 スージィ・クラウドの海賊退治
2章と3章の間にあったエピソード。
それは昨年、夏にコリンやダーナをミリアに送り出して最上級生になり、収穫祭を終えた秋の事。
その頃のわたしは定期的にヘンリー先生の所に通い、勇者について教えてもらっていた。
そこで分かったのは、恐らく例の200年前の勇者とその随行者は、わたしと同じプレイヤーでは無さそうだと言う事。
その根拠の一つが、勇者が残したと言われる魔法の系統。これがわたしの知る物とは全くの別物だったからだ。
勇者の残した魔法の多くが、現代でも『精霊魔法』や『直接魔法』として伝わり使われている。
これはわたしも使っているから、元から持っている魔法と違うと言う事が、ハッキリと分かるのだ。
やはり彼らは、わたしとは少し違う系統でこの世界に来たのではなかろうか? と今は思っている。
だからと言って、高レベルプレイヤーが居ない、来ないとは限らないので気を抜くワケには行かないのだけどさ!
勇者と呼ばれた人物は、大陸戦争時に南へ行ったきり戻ってはいない。
なので詳しい所はやはり分からないままだ。だけど、ヘンリー先生が示して下さった資料には、随行者の痕跡と思われる物が幾つもあった。
何と言っても凄かったのは、マーシュさんが持っていた物だ。
それは、40年程前に亡くなったマーシュさんのお父様の遺品の中にあったと言う。
見せられたのは、数冊のボロボロになったノートと、丸められた図面らしき物の束。それらには、画期的なアイデアと発明品の数々が記されていると言う。
どうやら件の随行者が遺した物らしい。
マーシュさんのお父様は、勇者……或いは随行者とお知り合いだったって事なのかな?
マーシュさんが仰るには、この図面に書かれた品は、ある程度再現可能なんだそうだ。
実は数十年前から趣味と実益を兼ねてこれを地道に再現していて、既に幾つか実用化されているそうな。
『チドリ』なんかは、そのひとつなんだってさ。
既に数十年前からマーシュさんは、趣味と実益を兼ねてこれを地道に再現していたそうな……。
この随行者の残した図面を解析再現する事は、マーシュさんにとって『ライフワーク』みたいな物だと仰っていた。
だが、走り書きされている文字が意味不明で、再現を進められない物も多いとか。
解読出来ないと言って見せられたノートに書かれていたのは……コレ、日本語だ。
薄々そんな気はしていたのだけど、やっぱり勇者達は自分と同じ世界から来たのだと、突き付けられた思いだった。
そんで、マーシュさんが再現した成果品の数々を見せられたんだけど……。
最後に工房の奥に鎮座する、何やら高さ2メートル程の円柱状の品を発見してしまった。
……これひょっとしてロケットかミサイルの類じゃね?
何やってんだこの人……。
そんなこんなで、随行者の出自のヒントになる物が見つかるかもと、マーシュさんの研究のお手伝いもする事になったのよさ。
そんなある日の事、護民団からあるお仕事を言いつかった。
アムカムの南、グロールスカ郡で大規模盗賊団が暴れ回っていると言う。
それを皆んなで討伐に行くぞー! と言うお仕事だ。
討伐はビビやアーヴィン達と行なった。
盗賊団は小さな集落を丸っと人質にしようとしたり、バラバラに逃げ回ったりと、幾らか面倒なことはあったが討伐自体は無事完了した。
丘が幾つか平地になったり、森が更地になったりしたけど……。まあ千人規模の盗賊団だったからね! 許容範囲内だよね!
…………範囲内……だよね?
まあ、おかげで盗賊団って奴らがどんな物か良く分かった。
襲った人間までも収穫物扱いするコイツらは、情けをかけて良い相手では無い。見逃せばより以上の被害者が生まれてしまう事になる。
要するに豚の類いと同類だ。放置しちゃ駄目だ。見つけ次第駆除するに限る。
それをわたし達の胸に強く刻んだ一件だった。
だが、盗賊団を片付け颯爽とアムカムに戻ったと思ったら、今度はオセアノスに大規模な海賊船団が現れたとの知らせを受けた。
海賊団ってのもろくな物ではない。盗賊団と同じような外道の集団だと思って間違いない。
間違いなくこいつ等も見つけ次第殲滅対象だ。
更にこの海賊団、あろう事か「オセアノスの港を開け渡せ」とか言い出しているらしい。
なんでも沖合から、艦砲射撃を街に撃ち込んで脅しているとの事。
既に船舶や町の一部に被害が出ているそうだ。
ふざけた話だよね! オセアノスの港町は曲がりなりにも郡の首都だ。一地方都市とは言え、その中心地の港を渡せとか、とても海賊行為の範疇では収まらない。
コレが外国籍の行いだったりしたら、完全に侵略行為だよ! もう戦争案件になってしまうよ?! 分かってんのかな?
え? どこぞの国の海軍船団だと言う情報がある? マジかっ?!
そんなこんなで現地に着いて、オセアノスの高台から海賊船団を目視確認した。
見れば船から何やら煙が出ているっぽい。船に煙突があるのか?
アレは何かを燃やしているって事?
もしかして水蒸気船かな?
でも、だとしてもこの世界魔法があるんだから、水を直接温めれば良いワケで燃料は必要無いよね?
って言うかそれ以前に、水属性の魔法を使えば流体制御で船の移動が可能なハズ。
現にオセアノスでは、水魔法での流体制御と、風魔法で発生させた風力を帆で受ける二元式の帆船が主流なのだと、エリザベスお婆様から教えて頂いた。
そんな世界で、熱エネルギーをワザワザ移動エネルギーに変換するとか効率悪くね? もしかして、わたしの知らない謎技術でも使われているのか?
だけど大砲があると言う事にちょっと驚いた。
何でもマーシュさんの話では、火薬を使った大砲や鉄砲の技術は既にこの世界にもあるらしい。
但し魔法筐体を使った魔法道具や、攻撃魔法の方が威力や使い勝手も高いので、殆ど火薬を使ったこれらの技術は進歩していないのだとか……。
そう言えばマスケット銃(?)っぽい物を撃って来た奴が、盗賊団の中にも居たっけな……と思い出す。
海賊共の砲弾は、只の鉄の塊の丸弾では無く、凶悪な椎の実型の長弾だそうだ。
それを水平線の向こうから艦砲射撃で当てて来るのだから、彼方さんそれなりの技術力があるって事なんだろう。
でもこの辺の技術ソースって、やっぱり勇者や随行者絡みなのかな? でもアムカムにはこんな銃火器の技術残っていないしなぁ……。
て事はそれ以外から齎された? う~~~ん……ワカラン!
ンでこの海賊団に対し、オセアノス側はかなりブチ切れ気味だった。
具体的には、エリザベスお婆様とアドラー伯父様なんだけど……。
伯父様は黒いオーラを噴き上げてたし、あのお優しいお婆様の目が見開かれ、メラメラとした光を放っていたのは、ホントかなり怖かったのよさ!
お2人は大規模な奧級位魔法攻撃で、奴等を一気に海の藻屑にする! と息巻かれていた。
だがそこに、わたしと一緒に来たマーシュさんが、「コレを使ってみてくれ!」と言い出した。
マーシュさんが言う『コレ』とは、例のロケットだがミサイルだかを思わせる怪しい一品。
挙句の果てに「こんなこともあろうかと……」とか言い出したよこの人は!
でもお婆様も伯父様も、随行者の残した品だと聞くとご興味を引かれたご様子。
結局、それ一つくらいなら、魔法攻撃前に使っても良いとのお許しを頂いた。
何となく嫌な予感がしないでも無いのだが、マーシュさんは「作った物が日の目を見る」とノリノリだった。
何だろこの人、『マッドサイエンティスト』の気があるんじゃないかしらん?
そんな訳で、マーシュさんは早速オセアノスで一番の高台に、ブツの発射装置を設置し始めた。
うん、やはりロケットの発射台にしか見えぬ。
で、コイツに魔力を注ぎ込めば使える筈だと。だからわたしに入るだけ魔力を込めろと仰る。
いやいや、どうなのそれ? 魔力をありったけ込めろとか、イヤな予感ビンビンにするんですけど?!
「試作品だからこれ一発しかない。仕損じるんじゃないぞ」
とか言われたが……。コイツは宇宙恐竜でも破壊出来るんだろか?
もうどうなってもいいや! と魔力を籠め始めれば……、コレがまたかなりの量が入って行く。
はじめはドヤ顔だったマーシュさんも、段々顔が引き攣って行き、最後には紙みたいな顔色になってしまった。
コレ、このまま爆発でもしたらとんでも無いことになるんじゃね? と2人で顔を見合わせ、とっととこのヤバ気な代物をぶっ放す事にした。
結局このミサイル……。うん、ミサイルだ間違いない。
艦隊のど真ん中に着弾したら、おっそろしい結果を齎してくれちゃったワケよ!
水平線の向こう側だった筈だけど、メチャクチャ高い水柱が上がったのを、オセアノスの海岸からも観測出来たそうだ。
エート、……これ何だっけ。昔見た資料映像だかでこんなの見た覚えがあるんだよね。ワンピースだかチューブトップだかビキニだかって環礁で行われた実験?
そこで駆逐艦大好きビッグなセブンの巨体が山の様な水柱に飲まれて行くような映像?
は? キノコ雲?
ナンノコトデセウ?
結局、連中の木っ葉な艦隊はこの一瞬で蒸発してしまったっぽい。
どっちにしてもこの海賊どもは、例の暴れ回っていた盗賊団の元締めでもあったそうだから、情をかける余地は微塵も無いんだけどね!
でもその光景をオセアノスの高台で見ていたわたしは、マーシュさんと抱き合って只々震えていますたよ。
あ、だけどオセアノスにはほとんど被害は無かったそうだ。
なんでもオセアノスに住むメロウさん達の中には、海の出来事に対するちょっとした『予知』みたいな事が出来る人が何人もいるらしい。なので津波みたいな大波が発生(!)したんだけど、海の中の牧場的な物や、海岸沿いに居住して居た人達はみんな避難済みだったとか……。
すげえなメロウさんって。
ンでもわたしとマーシュさんは、エリザベスお婆様とアドラー伯父様の前で正座させられ、ハワードパパからみっちりお説教を頂く事にはなってしまったワケで……シクシクシク。
随行者! なんて物作ってくれやがんのよ!!
え? わたしの籠めた魔力量が常識外れなせいだって?
ギャーッ! マーシュさんが裏切った!!
ま、そんな事があったとか無かったとか言う話なワケなのさね。
うみゅ!
お読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字のご指摘、ありがとうございます!
ブクマ、ご評価もありがとうございます!いつも励みになっております!!
2.5章のプロットをまとめた様なお話?(≡ω≡;)
プロットがあるなら幕間で終らせないでちゃんと章として書けと……。
ご尤もです。
で、この海賊団と言うのが3章66話でローレンス・ニヴンが言っていた壊滅した、アナトリス連合国の海軍の事。結局ローレンスを立ち行かなくさせた原因。
まあ大体がスージィのせい!w





