幕間4 野外授業こぼれ話
本編からカットしたエピソードその3
まだ小物が溢れている自然公園周りを、お掃除する為に出動した時だ。
わたしはある気配を感じ取ったので、ビビとミアとは別れ、自分独りでそちらへ向かう事にした。
そこに居たのは、轍に車輪が嵌って動きが取れずにいた馬車が1台。
馬車の側面には自然公園の名前が刻まれていたので、公園関係者の物なのだろう。
多分、避難する最後の公園職員を乗せているのかな。
しかし、困った事にその馬車の周りを魔獣が囲んでいる。
轍に嵌った車輪を外そうと作業する職員さん達と、それを守るように剣やら槍を構える人々。
囲んでいる魔獣は、テラードッグとかナイトベアとかの小物ばかりだけど、衛士でもない戦闘力の無い一般職員が対応するのは、ちょっと無理ゲーかな。
おっといけない。ナイトベアが槍を持った人を弾き飛ばして、馬車に一撃を入れてしまった。
弾き飛ばされた人はナイトベアの一撃を槍で受け止められたようだが、吹き飛びはしたものの大きな怪我はない様だ。
槍は真っ二つになってるけどね。
馬車の方は大きく角が抉り飛ばされてる。中から女性の悲鳴が響いて来た。
これ以上は不味いか。
地面を蹴って一息ナイトベアまで飛ぶように接近し、そのままスコン! とベアの顎の下を蹴り上げた。
ナイトベアの頭が水風船みたいに弾け跳び、その身体が縦回転しながら森の奥へと吹き飛んでいく。
直ぐに森の奥から、何かが破裂したような湿った音が響いて来た。木々が大きく揺れ騒ぐ。
更にベアによって職員さん達のガードが開いたトコから、馬車に飛びかかろうとしたテラードッグを抜いたシルバーソードでサクッと乱斬った。
そのまま馬車周りをグルリと走り、そこを包囲していた犬共も同じ様に血肉に変える。
コイツらも体内にウニョウニョを飼っているから、こうやって刻み込むのが手っ取り早いんだよね。あ、軽く氣を纏わせれば乱斬らなくても行けるのか。
お? 小猿が木々の間から飛びかかって来たぞ。
グリムマカクか。
なのでコイツにはナイフシースからスローインナイフを抜き出し、そのまま流れる様にアンダースローで投げ放つ。
わたしの手により、仄かに氣を纏ったスローインナイフは空中のグリムマカクに接する瞬間、ソイツをやはり水風船の様に弾け飛ばす。
高速回転するスローインナイフはそのまま背後の木々を切り払い、そこに取り付いていた他の小猿達も同時に爆ぜさせる。
更に腰のスローインナイフを引き抜いて、木々に紛れている魔獣共に向け、間を置かず次々辺りに投げ放った。
バキバキ! バサバサ――ッ!! と、幹を割かれた樹木が枝を折りながら何本も倒れて行く。当然、辺りに居た魔獣共も全部綺麗に爆ぜ散った。
「もう大丈夫です、よ」
「……………………」
「…………あ、は、はい」
周りに居た魔獣共が片付いたので、職員さん達に声をかけた。
皆さん言葉もなく、何故か唖然としておられるが、とりあえず大きな怪我もない様なので問題はないだろう。
ま、そりゃ一般人がこんな風に魔獣に囲まれたら、精神的にも大変な負担があるだろうからね。
言葉を無くすのも無理はないよね。うむ!
「車輪が抜けません、か?」
「え? ……ぁ、は、はい!」
見れば馬車の車輪は、道に出来た轍にかなり深く嵌りこんでいた。
何度も前後に動いて、余計に深く轍を刻んじゃった感じかな?
「ちょっと持ち上げちゃいます、ね」
「は?」
いつまでもこのままじゃ埒が明かないだろう。
職員さんに言葉をかけながら車体の後ろ側を持ち、ヒョイっとばかりに持ち上げて横にずらして差し上げた。
「「「!!!」」」
お? なんだ? なんか周りがどよめいた気がするぞ。
ま、良いや。
それよりも車内に居る子が気になる。抉れた車体の破片で怪我などしていなければ良いのだが……。
車内に入ると案の定、女子が独り中で倒れ込んでいた。直ぐにわたしに気が付き目を見開いた。
ふむ、怪我はない様だね。だけど……。
「ちょっと失礼」
「え? な、なに?!」
わたしは腰のポーチから毛布を取り出し、車内に転がっていた彼女……ルゥリィ嬢の身体を手早く毛布で包んだ。
そう、馬車の中に居たのは第2組のルゥリィ嬢だった。
彼女達の気配を感じたので、取りあえずビビ達と別れてこっちへ飛んで来たワケなんだよね。
多分避難するのが遅れたのだろうけど、事情はまあ後で聞けばいい。今は安全な場所に移動するのが先決だからね。
それにしても何と言うか……。今日1日で3人も女子を毛布ミノムシにしているな。一体どう言う日なのであらうか?
ンで、そんなミノムシにされて戸惑うルゥリィ嬢。
ま、無理もないのだが取り敢えず安心する様にと微笑んでおく。
「心配ありません、よ。このままわたしが運びます、から」
「え? …………ぁ、はい」
わたしが何に配慮したのか分かったのだろう。ルゥリィ嬢は頬を染めながら頷いた。
あのクマ、馬車の角を削り取った後、中を覗き込んでいたからね。
きっとルゥリィ嬢、この近距離でベアと目が合っちゃったんだろう。
普通のお嬢さんなら、そりゃ粗相もすると言う物よ。
こんな状態、野郎なんかにゃ見られたくないよね!
そんなワケで毛布で巻いたルゥリィ嬢を、お姫様抱っこで抱き上げて馬車から降りた。
ミノムシ言うても腕は自由にさせているので、ルゥリィ嬢はわたしにしがみついている感じだ。
「彼女に怪我はありま、せん。安心してくだ、さい」
馬車から顔を見せたわたし達を見て、外で待機していた人達が驚いた顔をしていたが、心配は無いと伝えておく。
特にロングソードを持って呆けた顔してるお前!
ニヴン家の次男! お前だよ!!
「アンタは職員さん達をちゃんと護衛しながら来な、さい。わかった?!」
「……あ、ハ、ハイッ!!」
おや? 思ってたよりも素直な返事が返って来たぞ?
なんかあったのかな?
ま、どうでもいいか。
どっちにしてもこの辺の魔獣は殆ど片付いている。
居ても精々スタージラットが1~2匹だ。
そのくらいならこの次男でも何とかなるだろ。
…………なるよね?
しょうがない。道すがら、進路に侵入して来そうなのが居たら、積極的に潰すか。
ルゥリィ嬢にはシッカリと掴まっているよう言い含めて走り出す。
走り出した瞬間、小さく息を呑んだようだが、まあ大丈夫だろう。
走りながら指パッチンで衝撃波を飛ばし、比較的近距離に居る魔獣を爆ぜさせて行く。
わたしが指を鳴らす度、木霊の様に森の中から何かの破裂音が響いて来る。
「な、ナニ?! 何の音?!」
「大丈夫です、よ。ナニも問題ありま、せん」
ルゥリィ嬢は、木々の奥から響く音に驚いた様だ。
だけどわたしは安心させる為、大丈夫だとニコリと笑顔を向ける。
ン? 更にピクリと身体が跳ねた? 顔も気のせいか引き攣っている?
なんでだ?
で、なんだかんだでマグナムトル市に作られた、学園の避難場所までルゥリィ嬢を連れて来た。
そして無事、アーシュラ先生に彼女を引き渡す事が出来たワケだ。
そこで先生に聞いたんだけどルゥリィ嬢達、本当は生徒達が避難する最後の馬車に間に合っていたそうな。
でも、座席が埋まっていた事と、職員さん達の馬車に護衛かいないと知った次男が、職員さん達の馬車で行くと言い出したらしい。
自分が護衛代わりになるとか何とか言ったそうな。
ルゥリィ嬢は、それに付き添う様に一緒したのだとか。
ほほぅ……。
なによなんだよ次男クン! レイリーくん! ちょっとは良いとこもあるじゃないかい。
ノブレス・オブリージュ的な精神かい?
そう言うの嫌いではないよ。
結果はともかく、そう言う気概とか行動力は評価出来るからね。
ウン、ちょっとだけ……、少ーーしだけは見直してあげようか!
とまあ、そんなオマケな事がキャンプ地での最後にあったワケなんだけど……。
それと関係あるのか、なんだか最近この人達が妙な具合なのですよ。
学園に戻ってから、ウチの走り込みに参加する様になったレイリー君。
彼が妙に体育会系の後輩ムーブかまして来るんだよね……。
ハキハキとした返事は良いんだよ……。良いんだが、わたしを『姐さん』呼ばわりしようとするのはヤメロよ。
それとルゥリィ嬢。
あれ以来、コチラも角が取れて大人しめになったのは良いんだよ。
良いんだが、何故かわたしの前に来るとこの子、妙にキョドり出すんだよね。
わたしが挨拶すると、大抵目をアチコチ泳がせてしどろもどろになる。顔も赤いか?
彼女を怯えさせるような事、わたししたっけか?
更にそんな時にはいつもミアが傍に来て、ルゥリィ嬢に笑顔で圧をかけ始める。
だから素人相手に止めて差し上げなさいってば! ホーラ、涙目になって逃げちゃったじゃん。
ホントにね! 何だって言うんでしょうねこの人達はね!!





