幕間3 黄金の海のラヴィニア
『女キャラで異世界転移してチートっぽいけど雑魚キャラなので目立たず平和な庶民を目指します!』のコミックス第1巻発売中です!
どうか皆さま何卒よしなに!!
あれは夏の始まる頃。
今でも目を瞑ればあの日々の光景が浮かんでくる。
見えるは遥かに広がる黄金の海。
夕陽に照らされた麦の穂は金色に染まり、見渡す限りどこまでも続いていた。
起伏のある麦畑の中では、子供の背丈など穂の中に簡単に埋まってしまい、まるで黄金の海の中を泳いでいる様だった。
「みてみてライダー! ぜんぶきんいろ! きんいろのうみ!!」
ラヴィがその海の中を飛び跳ねる。
自身も夕日を浴びて輝きながら、金の光を辺りに振り撒く様に。
俺たちはラヴィを追いかけ、その金色の海の中を我先に走っていた。
それがどこまでも、いつまでも続くものだと信じて疑わずに……。
「ラヴィ! ヘレン! はやい! はやいよ!」
「なによ! ライダーがおそいのよ!」
「ちがうって! アリアがおくれてるんだよ!」
「まって……まってよラヴィ! ヘレン!」
「だいじようぶ? アリア」
「アリアはもっとたいりょくつけないとダメね!」
「ヘレンとラヴィがおかしいんだよ! だいじょうぶかアリア」
「まあいいわ。ここからなら森も見わたせるもの!」
「ラヴィ……、ほんとうにあしたいくの?」
「いくわよ! あしたおとなたちは、つめしょでえんかいだもの! ぜっこうのきかいよ!」
「ま、あたしのやりなら、スタージラットくらいはいちげきだし!」
「アリアあきらめろ。ラヴィもヘレンもやるきだ」
「アリア! あんたはあたしのやりでまもってあげるから、あんしんして!」
「ライダー! あなたはたてをもってきて、みんなをちゃんとまもるのよ!」
「わかってるさラヴィ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
――子供たちの様子はどうだ?――
――アリアが酷かったが持ち直した。御頭首の所のラヴィと、ハッガード家のライダーは問題ない。話も出来る――
――まさかこんな浅層にオークが湧くとはな……――
――本当にあの子達だけでオークを1匹屠ったのか?――
――そうだ。だがマッケイン家の長女が攫われた――
――どうだ? 助かりそうか?――
――もう無理だ。状態が酷い――
――オークの巣はどうなった?――
――潰されたよ。パーン1人でやったらしい――
――マッケインの長男か?! まだ2ndになったばかりの小僧っ子だろう?!――
――ああ、だが100匹余りの巣を1人で潰した。狂乱状態だったそうだ。アーサーがやっとの思いで止めたと言っている――
――まだ16だろう? 末恐ろしいな――
――あの子供達もだ。あの歳でオークを撃退したんだからな――
――……ああ、つくづく残念だ――
◇◆◇◆◇◆◇◆
「アリアはだいじょうぶだって、とうさんがいってたよ」
「……うん」
「ラヴィもぶじでよかった」
「……でも、ヘレンが…………」
「…………うん」
「……あたし、つよくなる」
「…………」
「みんなをまもれるように、だれよりもつよくなるから!」
「……うん! オレもつよくなる」
「ライダー! 2人でつよくなろう! みんなをまもれるように!」
「うん! やくそくだラヴィ! いっしょにみんなをまもろう!!」
――――★★★★――――★★★★――――
2人で約束を交わしたのは、やはり夕陽に照らされ黄金に染まるこの景色の中。
だが彼女は、約束を果たせぬままいってしまった。
この風景を見れば、あの日々を思い出さずにはいられない。
もう10年以上、まともにこの景色を見る事が出来なかったが、最近また落ち着いて見る事ができる様になった。
これもあの子のお陰なのか……。
久しぶりにこの場所で、風に身を委ねるのが心地良い。
「どうした? 半年ぶりの帰郷だろうに。こんな所で夕涼みか?」
珍しい事に、親父が俺の脇に立ち声をかけて来た。
そう言えば遠征の報告がまだだったな。
「この景色を見ていると、自然とアムカムに帰って来たって実感が湧くんだよ」
「ふむ……そうだな」
そう言うと親父は黙って、目の前に広がり揺れる黄金の麦の穂に目線を向けた。
成程、親父たちの時代も同じなんだな。アムカムでの子供時代は、どの世代でも皆一緒か……。
やがて親父は、風に揺れる金色のさざ波を眺めながら静かに口を開いた。
「夏が終わればお前は、バート。マッケイン家のパーン。ダレス家のラバンに続いて、今の世代4人目のエクシードだ」
「実質5人目……だろ?」
「ふは! お嬢はカウントには入れられんさ」
当然か、あの子の実力はアムカム秘中の秘だからな。
「夏の間……、ミリアに行くまでの間、アーヴィンを鍛えてやるんだろ?」
「ああ、時間の許す限り見てやるつもりだよ。逆に教わる事も多いしね」
「なるほど、『お嬢効果』か」
あの子は子供達に、我々の知らない新しい技術を教えている。お陰で子供達の実力は、信じられない程底上げされた。
我々もそこから学ぶ事が多い。
アーヴィンと手合わせすると、毎回少しばかり面白い事をしてくるので中々に楽しい思いをさせて貰ってる。
親父も、最近はよく相手をしていると言っていた。
アムカムの人間は、全く幾つになっても強さに貪欲だ。
少し強めの風が頬を撫でた。
すると金のさざ波も大きく広がって行く。
今の季節、山々から降りて来る風は心地が良い。
夕日に染まる麦畑を見れば、今でも思い出さずにはいられない。
子供の頃のあの景色を。黄金の海を。あの思いを。
ラヴィと過ごした胸が詰まる様な想い出を。
お読み頂き、ありがとうございます。
どこかで書こうと思っていたエピソード。
コミックス発売記念で投下します!
ラヴィのオークに対する憤りや悔しさ。
黄金の麦畑に対する思いなどを知って頂ければ幸いで御座います。
因みに……
新作のTSモノなどを始めております!
【ボクが『たわわ』になったので、彼女のヨメになりました。】
https://book1.adouzi.eu.org/n3367jy/
TSユリラブコメにございます。
宜しければ此方もあわせてお楽しみください!





