219話 エピローグ 夢見るままに待ちいたり
一通り事の顛末を報告した後、ボーナ・レイヴン・キャスパー卿と、理事長ことドルトン・バンジョー様は顔面蒼白になってしまった。
まあ、無理も無いよね。
真っ白な顔のままコーディに近付くキャスパー卿。
その手は小さく震えていた。
恐ろしく強張った表情のままコーディの前に立った卿は、下におろしていた手をゆっくり上げて行く。
コーディは打たれると思ったのかな? その時、眼をギュッと閉じた。
でもキャスパー卿は次の瞬間、膝が崩れる様にしゃがみ込み、コーディに抱き着いたのだ。
そしてそのまま小さな声で「無事でよかった……本当に、無事で……」と何度も何度も仰っていた。
キャスパー卿の想いが伝わったのか、コーディもキャスパー卿にしがみ付き、涙をポロポロ零しながら「ごめんなさいお父様! ごめんなさい!」とコチラも何度も繰り返す。
理事長様もカレンの前に跪き、その肩に手を乗せて「よく……帰って来てくれた。本当に……本当に!」と涙をボロボロ零しておられる。
カレンもやはり涙を零して「も、申しわけありませんでした。……ありがとうございます! ……ごめんなさい!」と声を詰まらせ返している。
うん、2人共ちゃんと反省した方が良いと思うよ。
沢山の人を救う為とは言え、自分達の命を投げ出そうとしたんだ。
そんな事をしたら親御さんがどれほど心を痛めてしまうか……。それをシッカリと理解した方が良いと思う。
うんうん、お父様方に心配なんか掛けちゃいけないよ? うん、かけちゃいけない……。
そう貰い泣きをしていると、ビビが横から胡乱な眼を向けて来る。
な、なにさナニよその眼は……。え? わたしがハワードパパにどれだけ気苦労をかけているかって?
う゛……。そ、そんな事も無いんじゃないかな? ちゃんと自重はしていると思うし? 思うしぃ!?
え? 今回もまたまた山を吹き飛ばしたんじゃないかとヒヤヒヤした?
や、やめてぇ!! ちゃんと無事だったでしょ?! またまたとか! そ、そんなトラウマ刺激するような言い方しないでぇぇ!!
おっとそうそう、山と言えば鉱山にモリス先生を迎えに行ったら、またアルマさんに抱きつかれた。
「おかげでスッカリ片がついたわー!」とか言われたが、何のこっちゃ? である。
錫の採掘は、理事長様とキャスパー卿が指揮を取り、しっかり時間をかけて計画的に行なうそうだ。
将来的に、カレンが安心して管理運営できる様にして行くと仰っていた。
そういえば、カレンの叔父様という方が見つかったそうだ。近々ムナノトスに戻るとカレンに連絡があったとか。
学園内では、スッカリ双子ちゃん達も落ち着いた様だった。
大神殿に連なる幼児舎は、例の怪しい管理人の施設とは比べるべくも無い、しっかりとしたモノなのだから当然だ。
カレンも、1日に一度は顔を見る事が出来ると言っていた。
そんでもってアニーってばスッカリ2人の保護者気取りで、毎日学園内を案内したり、同級生達に2人を紹介しているとか。アニーもスッカリお姉さんしていて、何ともホッコリしてしまう。
これでカレンと双子ちゃんの事は、ひとまず安心かな。
そう言えば、例の次男がウチの走り込みに参加する様になった。
これは理事長様にお願いされての事なのだが、本人も見た目が随分変わってたんだよね。
チャラさが無くなって、髪も短髪に刈り上げてまるでスポーツ少年みたいだった。
でもカレンに失礼な態度をとりよう物なら、瞬間ぶっ飛ばすつもりでいたけれど、そんな事も無く。カレン本人も全く気にしている様子が無かったからね。
走りはウチの誰にも到底追いつける物では無いのだけれど、それでも食いついて行こうという気概だけはあるようだ。
何か色々思う事があったのだろう。
そんな気概があるウチは、せめてそれには精一杯応えてあげようと思う今日この頃だ。
ルゥリィ嬢もちょっと変わっていた。
何と言うか、ケバさが無くなったって言うの?
普通に周りの女子と比べても浮いていなく、自然に溶け込んでいる感じ?
言動にも刺々しさが無くなっていた。
でもミアと向き合うと、スッゴイ怯えた感じになるんだよね。
ミアってば、なんか強力なトラウマでも植え付けたんだろか?
何かしたのかと聞いても、特に思い当たる節は無いと言う。
それでもきっと何かしたのだろうけど……。この子の自覚の無い所が何ともコワイデスヨネ。
そうだ、今夜は手紙を書かなくては。
ミリアに来て直ぐの頃は、三日に一度は手紙を書いていたのに、ココの所色々あってもう半月以上手紙を出していない。
ソニアママとハワードパパに、最近の出来事を報告するのだ。
この半月の間に本当に色んな事があった。
初仕事の事。アニーのパーティーの事。野外授業の事。
短い間に色々あり過ぎだわよね!
でも昼間やったお茶会も含めて、楽しい事が沢山あったのも事実。
だからお2人にはちゃんと報告しなくては。
いろんな事があり過ぎる位にあっけれど、それでも!
わたしは今日も元気なのです。
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「トール……ごめんね。ここに来るまでに随分な時間が経ってしまったわ」
「この魔法道具をまた使えるようにする為に、10年近くかかってしまった。コレには貴方からの呼びかけの記録がちゃんと残っているよ」
「遅くなってごめんなさい。大丈夫、わたしは無事です。心配しないで」
「先日、あの子が来ました。貴方が養子に取ったわたし達の孫にあたるあの子」
「ふふ……不思議だよね、初めて会ったのにすぐに分かった。貴方に目がそっくりだったわ、トール・バンジョーさん? うふふ」
「…………貴方の事を探しているって。ずっとずっと探しているって」
「貴方は無事ですか? わたしだったら大丈夫だよ? 無事です。だから心配しないで。苦しまないで。泣かないで」
「わたしは大丈夫。大丈夫だから……ね? 貴方も無事でありますように。この記録を見てくれますように。貴方の無事を祈っています。そして貴方も大丈夫だと言ってください」
「貴方はこの世界を許せないと言うけれど……、それでも貴方は守ってくれた。わたし達の大切な物を、ちゃんと守ってくれました」
「だから大丈夫、わたしも守ります。わたし達の……貴方の大切にしたものを」
「大丈夫だよ……。大丈夫だよ、亨。……アナタの事をずっとずっと愛しています」
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その日は星が沢山見えていて、とても綺麗な夜だった。
昼間の鍛練による程よい疲れと、スーちゃんやコーディ達との楽しいお茶会のお陰で、その日は心地よく眠りについた。
恐らくは日を跨いだ頃。
何かいつもとは違う空気を感じて目が覚めた。
そして、向かいのベッドで寝ていた筈の彼女に気が付いたのだ。
「……スーちゃん?」
彼女はベッドから身を起こし、窓から差す月の明かりを見ている様だった。
その特徴的なルビー色の髪が、月の明かりを受けてキラキラと光を辺りに振り撒いている。
「どうしたの?! なんで? なんで泣いてるの?!」
でも、その眼からは堪え切れぬと言いたげに、ハラリハラリと大粒の涙を零している。
その事に驚き、思わず声を上げてしまった。
「……え? 泣いてる? ……何でだろう? わかんない」
「大丈夫……なの? 人を呼ぼうか?」
「……うん? ……大丈夫だよ?」
窓から差し込む月の灯りに浮かぶ彼女は、まるでその身の内から光を溢れさせているようだった。
彼女の周りには小さな光が次々と零れ落ち、その身を薄暗い部屋から浮かび上がらせる。
彼女は優し気な笑みを浮かべ、その目はとても深い慈しみに満ちていた。
同い年とは思えない大人びた表情をする彼女が、その時とても美しいと思った。
彼女は、心配をする私を安心させる様に、ただ静かに何度も何度も言葉を繰り返す。
「……うん、大丈夫。大丈夫……だよ」
お読み頂き、ありがとうございました!
これにて3章終幕に御座います。
いつも誤字脱字のご指摘、ありがとうございます!
ブクマ、ご評価もありがとうございます!いつも励みになっております!!
本日中に『第3章登場人物』を投下して3章の終了とさせていただきます。
コミカライズも好評連載中です!
7日に今年最初の更新がございます。教室のバタバタ回ですよ!!
何卒よしなに!





