21話 ジェイムスン教授の魔法講座
屁理屈捏ね繰り回しております!w
魔法組の研究会には、週の初めは神殿から神官が来て指導をしてくれる。
それ以外の日は、皆それぞれの課題に打ち込み、成果を改めて神官に見てもらうというローテーションを繰り返しているそうだ。
いつもは若い神官さんが来て、指導に当たってるそうなのだが、今日は…。
「こんにちはスージィさん、もうお友達は出来ましたか?」
「ヘンリーさん・・・?」
「いつもはコチラの若い者に任せているのですが、今日はスージィさんの初登校日ですからね。つい様子を見に来てしまいました」
そう言ってヘンリーさんは、わたしに笑いかけて来た。
「それに、講義の続きをするお約束もありましたし、魔法を使うには必要な知識です。この機会に如何ですか?」
「あ・・・はい・・・おねがい・・・します!」
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前回はエーテル体についてお話ししましたね。今回はその次にある『感情体』『精神体』について一通り大まかな解説をいたしましょう。
『感情体』は『アストラル体』とも呼ばれ人の『感情』を。
『精神体』は『メンタル体』とも呼ばれ人の『意志』をそれぞれ司っています。
アストラル体は良くも悪くも物質にも影響を与えます。
大きなアストラルの波は、エーテルへ干渉し物質をも変化させるのです。
世界にあまねく存在しているエーテルにも『感情体』『精神体』が乗っています。
この『意志』が乗り、大きな流れを作ったエーテル流を『マナ』と呼びます。
宇宙を覆うマナの流れはこの世界に到り、世界全体を覆う様に流れているのです。
我々は、このマナの流れ、意識の流れを『大精霊体』と呼んでいます。
『大精霊体』は巨大過ぎて人の認識域では捉える事は出来ませんが、そこから別れ細分化された『精霊体』で、人は初めてこの『マナの流れ』との交感が可能となります。
この『精霊体』も更に、大気の中、大地の中、海の中、と細かく分れて行くのですが、これらの中の、マナの量が厚く多い流れは『龍脈』や『地脈』と呼ばれている物です。
更に細分化されたマナの一部は、感情体が強く表れて個体としての性格も出て来ます。
これが我々が認識する所の『精霊』と言われるものです。
精霊は更に、あるものは『風』の、あるものは『水』の、あるものは『地』の、あるものは『火』の、それぞれ属性を付加され分化して行き、自然界の事象の理を司って行きます。
我々はこの精霊達と契約する事で、互いのエーテル体を繋ぎ、情報の交換が簡易に出来る様になります。
そして魔法力でエーテル情報に介入し、物理現象を変化させる事が可能になるのです。
これが魔法と呼ばれる奇跡を行使する為の、基本的な仕組みです。
魔法を使用する為の魔法力の強さや量と云った物は、行使する人間の持つ『感情体』『精神体』の二つに依って変わります。
『感情体』は自分の持つ魔力の大きさを。
『精神体』は魔力を使用する為の力です。
そうですね例えとして、筒状で押し出し棒の付いた水鉄砲を想像してみましょうか。
この筒の太さ長さが『感情体』の大きさです。
そして棒を押す力が『精神体』つまり『意志』の力です。
この水鉄砲に入っている水の量が、その人の持つ魔法力の大きさ。
押し出された水の量が、使用された魔法量。
押し出す力が、魔力圧です。
この使用魔法量と魔力圧の数値を掛けあわせる事で、使用した魔力エネルギーの数値、つまり魔力値が算出出来るのですが、それはまた別の講義でのお話ですね。
感情が薄ければ大きい力は使えません。
簡単に波立ち、揺れ惑う様では安定した力も使えません。
感情が豊かで大きく安定していれば、より大きな力が使えます。
意志が弱ければ折角の大きな力も使う事が出来ません。
強い意志あってこそ、大きな力を強く使う事が出来るのです。
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「ジェイムスンせんせい・・・しつもん・・・です」
「はい、何でしょう?スージィさん。…時に、何故、貴女はマティスンさんの膝の上に座られているのでしょう?」
そうヘンリーさんに尋ねられてしまい、わたしは小首を傾げて微笑んでごまかしてみた。
今はミアにしっかり抱えられ、背中は豊満な胸部に支えられ沈み込んでいる。何コノ堕肉ソファー?すっごい背中が心地良過ぎの天国なんですけどーーーっ!?
「お昼にずっとダーナとコリンが占領してたから、今はわたしが抱っこする番なんです」
と、事も無げにミアが答えると、隣でベア子が やれやれ と肩をすくめた。
部屋の端で魔法具に手をかざしているコリンが肩越しに むぅ と言う顔をしてる。
一体この子達にとってのわたしってば、どんな立ち位置にいるの?
「そうですか…早速お友達が出来たのですね。それは良かった…それで、ご質問は何でしょうか?」
ヘンリーさんが嬉しそうな笑みを浮かべながら、改めて聞いて来た。
「はい、・・・つかった・・・みずは・・・どう・・・もどる・・・です・・・か?」
「水鉄砲と言うのは比喩的な表現で、実際に魔力を使用しても消費する物はありませんよ。
自らのエーテル体を情報の媒体にするので、一時的な疲労感はありますが、直ぐにニュートラルに戻る物なので、消費されるものでは無いのです。
消耗を感じるのは精神疲労から来るものですね。
魔力を使用するために必要な集中力は大変なものです。精神力の増減により、感情体の厚みも比例して増減します。精神力の強さが魔力使用量と言って良いでしょう。
ですから、気力を使い果たしてしまえば魔法を行使するどころか、意識すら保てないでしょうし、気力が戻れば使用量も戻ります」
そか!微妙な消耗感は精神疲弊か。
確かに今のわたしなら僅かな精神の動きも敏感に感じ取れるし、消耗しても回復はあっという間だよね。
あれ?でもこれひょっとすると自分、魔法使用量底無しになるんじゃね?
…なんか一筋汗が垂れた。
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それでも『氣』とは『意識』の事だ。
『意識の流れ』こそが『氣の流れ』なのだから。
『氣』の流れ、強さをコントロールできる今は、魔法の威力もコントロールできると云う事だ。
あ、もしかして、とてつもなく強い『氣』を籠めれて念じれば、呪文とか無くてもそこに火の玉とか生じさせる事出来るんじゃないかな?
「そんなワケ無いじゃない!」
そんな事が出来ないか聞いてみたら、アッサリとベア子に否定された。
「そんな簡単に事象を改変できるほど世界は甘く無いわよ!ちゃんとした手順が必要なの!それが『魔力』を使う『方法』であり『技術』なんだから!」
「恐らくそれは、とても大きな『感情体』、屈強な『意思』、そして強い『イメージ力』があれば可能でしょう。しかしそれは大変に効率が悪い。悪戯に体力、精神力を消耗するだけです。ただ力に任せ無暗矢鱈に両手を振り回す幼子と同じです。
クロキさんの仰る様に、正しいプロセスを経て行使される『方法』ならば、もっと少ない力で遥かに大きな効果が得られます」
では精霊との契約を行ってみましょうか?
と、ヘンリーさんに促され『契約の儀式』なるモノをやる事になった。
まず、どんな精霊と相性が良いのかを調べてから『契約』を行う。
相性は『五精盤』と云う物を使うそうだ。
これは直径30センチ程の円盤で、真ん中に五芒星が刻んであって、その頂点にそれぞれ丸い刻印がある。
この五芒星の真ん中に魔力を通すと、相性の良い精霊を司る部分が光るのだそうだ。
早速やって見ようとするとミアとコリンが驚いていた。
本来なら魔力を感じて扱う所から始める物なのだが、コレを使えると云う事は、少なくとも魔力を操れると云う事になる。
この最初のトレーニングが意外と大変で、コレで向き不向きが出てしまうらしい。
この最初で嫌になって、身体を使う方へ行ってしまう子も少なくないそうだ。(ダーナやアーヴィンがそうらしい…)
まあヘンリーさんは、わたしがハワードさんに回復を行ったのを知っているから、魔力が使えるのが分ってた訳で。
でもベア子も知ってたっぽい。
クロキ家って言うのは『アムカム御三家』の一つだそうだから、お父様から伺っていたんだろか?
で、手を置いて魔力を流し込んだら(掌から息を流し込む様に…『氣』を流すのと同じ要領だね)全部光っちった。
普通は一つか二つボゥっと光る物らしいんだけど、光の柱が立ってしまいまつた。
ヘンリーさんも驚いてた…。
う~~む、少しだけ流し込んだつもりだったんだけどなぁ。
ヘンリーさんは直ぐに納得した様に頷いてたけど、周りの子達はみんな目を見開いて固まってた。
あれ?ワタクシ……なんかやらかしました?
で、直ぐにヘンリーさんからどの精霊と契約するかを聞かれた。
全ての精霊と契約する事が出来るそうだけど、まずは自分が欲しいと思う属性の精霊を選んでみては?と言われ、『水』にしてみた。
サバイバル生活の時に、水は必要だよなと改めて思ったからで、あの時結局水場から離れなかったけど、あれで水が無かったらと思うとゾッとする。
なので『水』に感謝を籠めて契約させて貰う事にした。
五つの属性は其々『風・緑』『火・赤』『地・黄』『水・青』『無・白』となっていた。
五大元素って事なのかな?これで更に『光』と『闇』とか出てきたら実に厨二っぽいよね!
『契約の儀式』は直ぐに始められた。
今使った『五精盤』の上に、角を金属で縁取られた5角形のガラスだかアクリルで出来た様な透明なケースを置いて、その上に右の掌を乗せて行った。
ケースの中には青い光球(?)が浮いていて、これが水属性の精霊との媒体になるらしい。
手を乗せると、ケースの中が淡く光を帯びた。
その状態でヘンリーさんが何か祝詞の様な物を唱えると、五芒星とケースの縁の金属が光を放ち、掌が暖か味を帯びるのが分った。
程なく光が消え 儀式は終わりです とヘンリーさんに言われた。
これで、わたしのエーテル体に精霊との繋がりが出来たのそうだ。
ただ、これだけで魔法が使える訳では無く、使う為には術式が要る。
それは呪文であったり魔方陣であったりと、精霊へオーダーを伝えるための鍵が必要なのだそうだ。
では試しに使ってみましょうか とヘンリーさんにタクトの様な物を渡された。
練習用の魔法の杖だそうだ。
をを!ハリポタ的なアレだねっ!!
そのまま屋外の魔法練習用の場所へと案内された。
弓道の射場っぽい場所で20メートルほど先に、的にするのか巻き藁の様な物が立ててある。
ここは火力のある魔法の試し撃ちや練習に使う場所なので、少し位の事では壊れない様に頑丈に作ってあるそうだ。
あくまで子供たちの力なら……という前提ですけれど と、ヘンリーさんに耳打ちされ、背中に汗が流れてちょっと固まったのは秘密です!
教わった呪文…と言うか『祝詞』だね…は単純な物だった。
「約定者たるスージィ・クラウドが求め訴える。水の守護者よ我が求めに応え、その力を示し給え」的な事をたどたどしく言葉にした。
つまりは、何処の何者が、誰に対して、何を求めているのか伝えれば良いらしい。
呪文はまぁ良いんだけど、神経使ったのは魔力の込め方!針の穴に糸を通す様に、ゆっくり慎重にホンの一滴だけだけタクトに通す様に…やったんですが
なんか目の前に、軽自動車位の水の塊が浮いている…。
あれぇ?どないしましょ? 的な感じで後ろを振り返ったら、ヘンリーさんはしきりに感心した様に頷いて、ミアやコリンやベア子は口が開きっぱなしになってる。
ダメよ!女の子がそれはハシタナイと思うの!!
どうも、本来ならどこの何て言う精霊にお願いするのか?自分はそれに対してどういう立場の者なのか?その辺をキッチリ詰めないと大した結果は出ないんだそうだ。
その辺はこれから勉強して覚えて行くものだから、今回はお試しで相当に大雑把な物なので、出ても精々ピンポン玉程度の水玉で上出来!って事だったらしいんだけど…。
「アンタ!どんだけバカげた魔力持ってんのよ!?」
とベア子に盛大に呆れられた。
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「今日一日でアンタが話しに聞いてた以上に、どんだけ規格外なのか分かった気がするわ!」
「うぇっ!?・・・それ・・・おおきな・・・ごかい・・・おもう・・・です!・・・よ?」
「なんでスーちゃん最後は疑問形なの?」
学校初日を終えて何故か校舎の外でみんなと、まるで主婦の井戸端会議みたいに他愛無いお喋りをしていた。
「ホント、いきなりあんな大きな水を出せる人なんて初めて見たわ」
「あたしだけ仲間外れは寂しいよスー!早くコッチにもおいでよーー!」
「ダーナ、貴女も少しは瞑想の時間も持った方が良いわよ?」
「うっ…あたし苦手なんだよー。ジッとしてると、お尻が落ち着かなくなるんだもん!」
「アーヴィンも似たような事言ってたわね!」
「へいじょう・・・しん・・・たもつ・・・たいせつ・・・です」
「うぐっ!まじかっ!?…父さんにもよく言われるんだよね…」
「ダーナってばすぐ寝ちゃうもんね」
そんな話をしていると自分に近づく気配を感じる。……また何か狙ってるな?
後に近づく気配が、ステファンのモノだと分るけど…まぁ子供のイタズラだしなぁ、甘々に容認しとこかなぁ……。
と、そのまま様子を窺ってみていたけど……アッサリと後ろからスカートをバサァッと捲り上げられて、わたしの小さなお尻が丸々晒されてしまった!!
わたしの可愛いらしいおヒップががが!!!
「うぴゃンっ・・・!」
う、後ろの見えない所でお尻が剥き出しにされるのは、ちょっとビックリなのねっ!思わず変な声出ちゃったわよ!
で、でも何だろコレ?自分、思ってた以上に恥ずかしさ感じてるのかな…?これって、乙女の恥じらいってヤツ?!いつの間にやら自分の中に娘心的な物が育ってるってか??!!
「こンの!またステファン!!ちっ!やっぱり逃げ足が速い!!」
「あらぁ、すっかりあの子に気に入られちゃったわね」
「スー!アンタもやられっぱなしで居ないでちゃんと怒りなさい!男なんて直ぐ図に乗るんだから!!」
「そぉよ、男の子直ぐエチぃ事考えるから…スーちゃんも気を付けないと、ダメだよ?」
まぁ、ミア相手ではしょうがないよねぇ?
その堕肉様は、思春期ボーイ達には刺激が詰まり過ぎですわよ?
「エチぃ・・・の?」
とスカートのお尻をパンパンと払いながら後ろを見ると…アーヴィンと目が合った。
「ほら!ああやってイヤらしい目で見るし!」
と、ベア子に冷たい目を向けられてアーヴィンが ウグッ とか言ってる。
「アーヴィン・・・も・・・エチぃ・・・の?」
と小首を傾げて問いかけてみたら、アーヴィンは顔を赤くしながら猛烈な勢いで首を振りまくってた。
「あっ……!ステファン!!なんて事しやがんだコノヤロ!!待てっ!!!」
そう叫ぶと、遥か彼方に居るステファンに向かい猛ダッシュで走り出した。
「逃げたな」
「逃げたわね」
「逃げたね」
「ふん!」
「でもさ、スーならあんなの避けられるんじゃないのか?捕まえる事も出来るんじゃないの?」
「そうなの!?アンタまさか…露出狂!?」
「ち!ちが!う!・・・ろしゅつ・・・きょう・・・ない!!・・・こども・・・やること・・・おおめ・・・みのがし・・・いい・・・かな?・・・て」
「あ、ホントに避けられるのね…。『大目に』……ねぇ?どうかと思うわよ?」
「・・・え?」
「そうだよ!ああいうのは犯罪行為みたいなモンなんだからさ!ちゃんと叱ってあげるのが本人の為だよ」
「そのまま成長して、変な大人にはなって欲しくないものね」
「・・・あ・・・わかり・・・ました・・・つぎ・・・は・・・しかる・・・です!」
「なんだかアンタって抜けてるんだかシッカリしてるんだか分んない子よね!」
「うぅ・・・ぬけて・・・る?」
4人全員に揃って頷かれた。





