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【コミックス第1巻発売中!】女キャラで異世界転移してチートっぽいけど雑魚キャラなので目立たず平和な庶民を目指します!  作者: TA☆KA
第三章:デケンベルの寄宿校

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114話 アニーにおまかせ!

「どう言う事だ?ロン」

「見た通りだ」

「いや!わかんねぇって!!」


 ロンバートの淡白な答えに、アーヴィンが思わずツッコミを入れる。


 大体にして状況がよく分からない。

 食堂の中で、そこの責任者である料理長を探してみたが、中には居る様子が無かった。

 ふと、表が騒がしい事に気が付き、外に出て来てみれば、当の料理長がアニーを前に顔を引き攣らせている。

 この短時間に何があったと言うのか?


 意味が分からない。


「オイ!アーヴィン!ロンバート!お前らこの子の知り合いか?!」


 料理長であるトビーが、アーヴィンに助けを求める様に声を上げた。


「ああ、そうだけど」

「なら何とかしてくれよ!」

「いや、だからどう言う状況だよ?」

「この人が、この子達にらんぼうしようとしていたのよ!」

「して無ぇって!!」


 アニーが、小さな子供2人を庇う様にトビーの前に立ち、鋭い視線を投げつけていた。

 それに対し、トビーは誤解だとアーヴィンに訴える。


「うん、やっぱり分からねぇ。トビー、取り敢えず何があったんだよ」


「このチビ供が、仕事をさせろとか言うから、そんなの無理だと追い返しただけだ」


「この子達、扉から転がり出て来たわ!この人こんな小さな子を放り出したのよ!!」

「い、いや!扉を開いたら、そのまま転がって行っちまっただけで……」


 アーヴィンは知っている。経験則で知っている。

 女の子が荒ぶっている時に、下手に異を唱えると碌な結果にならないと言う事を。


 特に、激情的な女の子ほど、一旦火が付いた時には決して触ってはいけないと知っている。

 身近な所で、物凄く良く知っている!


「いいわけをするのは男らしくないと思うわっ!!」


 それまで以上の怒気をはらんだアニーの様子に、アーヴィンはそれ見た事かと天を仰ぐ。

 トビーが何か一言返すたび、アニーの口撃は激しさを増す。


 兄貴たちも言っていた。

 たとえどんなに幼くとも、女の子は女の子だ。怒り狂っている女の子に逆らってはいけないのだ。


 こうなってしまったら、下手な刺激は命取りに成り兼ねない。

 アーヴィンは、言葉に殴られサンドバックになっているトビーから、静かにそっと目を背けた。


 そして、解決の糸口はこちらにしか無いという様に、もうひと方の当事者へ言葉をかける。


「お前ら、このおっちゃんに酷い事されたのか?」

「そ、そんなことはないの」

「なにも、されてないの」


「でも、入り口から放り出されたんだろ?」

「び、びっくりしてころんじゃったの!」

「ボクもいっしょにころがっちゃったの!」


 息のあった2人だな。よく見れば2人共ソックリだ。

 コイツら双子か?


「何でお前ら、こんな所に来たんだ?」

「おしごとをもらいにきたの!」

「おかねがほしいの!」


「仕事?」

「まえにマークがいってたの!」

「ここでおしごとしてもらったって!」


「マークって誰だ?」

「まえにいっしょにいたの!」

「いっしょにいたおにいさんなの!」


「何でお金が欲しかったんだ?」

「おねえちゃんがたいへんなの!」

「おねえちゃんをたすけたいの!」


 なんでその『おねえちゃん』が大変なのかを聞いても、どうも要領が得ず良く分からない。

 しかし、2人が本気で仕事を求めている事は、アーヴィンにもよく分かった。


「トビー、前に子供に仕事させた事あんのか?」


 アーヴィンは、いつの間にかトビーに対する怒気をわずかに緩め、この子達の話に聞き耳を立てていたアニーと、やはり大人しくなっているトビーに目を向け、その厳つい顔の男に問いかけた。


「いやぁ……仕事?」

「どうせだまして、こき使ったに違いないわ!」

「い、いや!そんな事は……。あぁ、でも仕事って言うかな、ありゃぁ……」

「何か、心当たりあんのか?」

「この前、迷い込んでた小僧がいてな。残りモン食わせてやったら、お礼だとか言って床掃除手伝ってくれたんだわ」

「……」

「な、なんで嬢ちゃん睨むんだよ?!ンでな、駄賃だっつって、5クプル銅貨渡してやった事はあったけどな……」


「5c(クプル)ねぇ……。お前ら、それの事か?」

「「よくわからないの」」

「わからないけど、おそうじしたっていってたの!」

「どうかもらったっていってたの!」


 どうやらこの双子は、前に聞いた話を頼りに、2人でここまで仕事をさせてもらいに来たらしい。


「わたしたち、おそうじするの!」

「ぼくたち、おしごとさせてほしいの!」


 この食堂の責任者はトビーだ。

 たとえこんな幼い子供相手でも、ここで仕事をさせるとしたら、それはトビーの独断で決定できる。

 後で姉御にどう言い訳するかは知らないけどな……。


 アーヴィンは、双子からトビーに目を向け直し、探る様に問いかけた。


「どうなんだよトビー。コイツ等に仕事させる気あるのか?」

「なに言ってるのアーヴィン!こんならんぼうな人にこの子達をまかせるなんて!」


 アニーは、怒りの籠った眼差しを蓄え「こんならんぼうな人」という一言をトビーに叩き付け、コイツにこの子達を任せるなんて承服出来ない、とアーヴィンに訴える。

 きつい眼差しを突き付けられたトビーは、一瞬「うっ!」と怯んだ様子を見せるが、それでも自分の意思を通す。


「だ、大体だな!厨房は刃物は置いてあるし、火も使う!油なんかひっくり返したらどうなると思ってんだ?!こんな小っちぇガキ、入れられるワケねぇだろが!」

「でも、前にやらせた事あんだろ?」

「あれはホールの掃除だったんだ。厨房にゃ入れさせて無ぇ」


 なるほどな、とアーヴィンは嘆息し、アニーに宥める様に話しかけた。


「まあ、あれだ、トビーは口は悪いが、こう見えて優しいおっさんなんだよ。要は子供に怪我させたくないんだ。子供が心配でしょうがないんだろ?な?」

「……うるせぇな」

「やめろよ赤くなるなよ……いいおっさんが気持ち悪ぃよ」

「うるせぇな!!」


「そんなの信用できないわ!この子達を、こんな人にまかせるなんて危険すぎるわ!」


 2人の様子を胡乱な目で見るアニーは、やはり信じられないと突っぱねた。

 アーヴィンが、残念な物を見る目でトビーを見る。


 だか、未だ荒ぶるアニーに、小さな手が伸ばされた。


「おねがいおねえちゃん!わたしたちおしごとしたいの!」

「おねえちゃんおねがい!ぼくたちおそうじしたいの!」

「……?!」


 アニーは、傍に寄って来た双子に両脇から袖を掴まれ、大きな目で見上げられながらされたお願いを、真正面から受け取ってしまった。

 そしてその一瞬、思わず固まっていた。

 その潤んだガラスの様な、セルリアンブルーの瞳に見つめられ、胸の奥から何かが込み上げて来るのを感じていたのだ。


「……おねえちゃん?」

「おねがいなの!おねえちゃん!」

「おねえちゃん!おねがいなの!」


 双子に「おねえちゃん」と呼ばれるたび、胸の奥の何かが大きくなっていく。二人から目が離せない。


 今、アニーの中で何かが渦巻いている。


 大好きなウィリアムお兄さまにコリンお姉さま、そして凛々しいスー姉さま……。


 自分はこれまで、『妹』という庇護される側の存在だった。

 憧れるお兄さまやお姉様達に、常に守られていると言う実感や喜びもあった。


 だが同時に、そこに追いつきたい、並び立ちたいと言う渇望も、常に自分の中にある事も自覚していた。


「……おねえちゃん?わたしの事?」

「「そうなの!おねえちゃんなの!おねがいなの!!」」

「……!!」


 今ここに、自分を「おねえちゃん」と呼び、頼り縋って来る幼い子たちがいる。

 自分が兄たちに頼る時の様な目で、自分に何とかして欲しいと縋って来ている。


「……わかったわ」


 その時、アニーの中で何かが生まれたのだ。


「わかったわ!全部わたしにまかせておきなさい!!」


「「はあぁぁ?!!」」


 アーヴィンとトビーが、「この子は突然何を言ってるんだ?」と同時に声を上げていた。

お読み頂き、ありがとうございます。


ブクマ、ご評価もありがとうございます!いつも励みになっております!!


久々に連投します。

5話を連日投下予定です。

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第1巻発売予告
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― 新着の感想 ―
この題名。やっぱりそう言う事なのか?
おそろしく懐かしい曲名を…
[一言] ちょっと暴走してらっしゃるな( ˘ω˘ )
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