100話 博士と助手とボディーガード
ついに100話に達してしまいました。
投下112話目ですが!
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「オレ達の様な『渡航者』……いや、『遭難者』は今の所確認されていない」
「そっか……、それはそれで安心材料……なのかな?」
「どうかな?だが記録では『遭難者』が現れた後、10年以内に大きな揺り戻しとも言うべきモノは起きている」
「でも、わたしが居た時にも『溢れ』は起きたよね?」
「あの程度の『溢れ』はそんなに珍しいものじゃない。数年に一度は起きているさ」
「そっか……」
「『大災禍』とも言うべき巨大な災害級の溢れは、およそ200年に一度は起きている。その前兆とも言えるのが、オレ達の様な『遭難者』の出現なんだ」
「うん……、まだ気は抜けないって事だね」
「大丈夫だ、その為の準備もしてる。スズは自分のやりたい事をしていれば良い」
「ありがとう、トール君……。でも、そのときには、必ず力を貸すから!」
「ああ、期待してるさ」
「ふふ……、でもさ、『遭難者』なんて呼び名、トール君が考えたの?うふ、なんかトール君らしいよね?ちゅーにっぽい?ふふ」
「ちゅうに?!……だ、だって、それが一番シックリくるし!大体!あんなトコで、何日もサバイバル生活出来るヤツなんて、そう呼ぶ以外無いじゃん!」
「うふふふ。そうかもね!でも、トール君がサバイバルスキル全く無かったのには、ちょっと驚いたよ?」
「しょ、しょうがないだろ!普通、都会に住んでりゃ、生き物捌くなんて出来るワケ無いじゃん!驚いたのはコッチだったよ!何でスズがあんなにサバイバル強いんだよ?!」
「うん、まぁ、お兄ちゃんに色々教わってたし……?後は師範の仕込み……かなぁ」
「師範って、スズが通ってた道場の?何だっけ?合気道とかだっけ?」
「うん、古武術かな?親類だから、小ちゃい時から通ってたしね」
「ふ〜ん……でも、何で古武術でサバイバルスキル身に付くんだ?」
「えーとね……、なんて言うかね、うちの道場、何日か独りで生きて来い!って身一つで『御山』に放り込まれるんだよね……」
「なんだそれ?!まぢかっ?!でも……それって、アムカムのアレに似てないか?」
「あははは!確かに似てるかも!……でも、ウチの場合は一回二回じゃ済まないんだけどね……ぁはは」
「そうなのか?うわぁ……、スズの強さの理由、分かった気がするよ」
「……強いとかさ、女の子に対して言うのはどうかと思うよ?」
「……あ、いや、でも実際、強いしさ……」
「まあいいわ……、兎に角!何かあったらちゃんと呼んでね!」
「……うん、よろしく頼む。……その、ゴメン」
「ふふ、もうイイよ。トール君だし!」
「……う、だからゴメン」
「そう言えばトール君!アレ作ってるんでしょ?」
「え?ああ、何とかすこしは形に……なって来たかな?」
「ホント?凄いじゃん!」
「グラスフットのおかげで、大豆も小麦の栽培も出来る様になったしな。スズには感謝してるよ」
「そっかぁ、それは何よりだよ、へへ」
「豚骨もボアで代用できたし……あとは」
「まだ何か足りないの?」
「出汁がね……、鰹節なんかは流石に手に入れられなくてさ」
「ああ、それは流石に無理っぽいかな?」
「でも、この前オセアノスで温泉掘り当てたから……」
「は?温泉?」
「いや、何か地形的に温泉出る様な気がしたんだよ」
「それで掘ったら出たって事?」
「……うん。だから旅館ぽい岩風呂作ってみた」
「あははは、何やってんの?トール君ってば」
「でも、そのおかげで何かやたら喜ばれてさ。色々協力してくれる事になったから、そのうち海鮮物も何とかなりそうなんだ」
「へぇ!凄いじゃん!良かったねトール君!じゃあその内、本格的に出汁とか作れるようになったり?」
「うん、上手く出来ると良いな、と思ってる」
「『ネギチャーシュー』食べたがってたモンね!ふふ」
「うん、皆のおかげで何とかなるかもしれない」
「そっかぁ……、そだね。いつか食べられると良いね」
「うん、その時には……」
「いつか……いつか、わたしにも食べさせてね。温泉もね!」
「そうだな、いつか……案内するよ」
「うん、いつか……」
「いつか……」
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「ふむ、霊質記録庫が系統化される以前に最も多く使われていたのが精霊魔法だった訳だがね。しかしそれでも直接魔法を使う者は少なからず存在したんだね。だけど更にそれ以前は儀式魔法が一般的だったんだね。儀式魔法は魔力が殆ど無い者も使用する事が可能だった為嘗ては最も広く使われた魔法様式でもあったんだね。しかし現代魔法に比べ儀式の為に用意する触媒や事前準備等の多くの手間が取られる上で得られる効果が期待ほど大きく無かったんだね。なので現代では使用する者は余り居なくなってしまったんだね。まあゼロでは無いんだがね。だがしかし先人達が遺したその体系は現代魔法を学ぶ我々にも大いに参考になる物ばかりなんだね。だから興味ある者は積極的に学んで欲しいんだね」
「ふむ、話を戻そうかね。直接魔法に於いても精霊魔法に於いても使用者にとって忘れてはならない物が『属性』なのだね。これは使用者其々に依って持つ傾向が違う事は今此処に居る君達ならば実感として理解していると思うがね。属性は大きく分けて『地』『水』『風』『火』と4つに大別されるのは知ってると思うがね。所謂四大属性と言う物だね。これに『無』と呼ばれる物を足して五大元素と称されるワケだね。更にこの四大属性を組み合わせて表わされる『木』『金』『空』『砂』『霧』『星』の上位六属性と全てから隠される『陰』と呼ばれる属性があるんだね。これら全十二属性が魔法発動の根幹にある事を覚えておいて欲しいんだね」
「ふむ、そして属性の本質は波長なのだね。君達が魔法を使用する時エーテル帯にある種の波が伝播するんだね。これが魔力波またはエーテル波と呼ばれているものだね。この波は発生させた個人個人でその波長が違うワケだね。その君達の発生させた波長に近い精霊帯の属性が同調し諸君らは力を得ているのだね。別に個人的に気に入られて精霊が力を貸している訳では無いのだけどその辺の事を理解出来ない者も少なからず居るのが今の社会と言う物らしいね」
今週から始まった、『魔導基礎』を教えて下さっているセイワシ・メルチオと名乗られた、このやたら早口で喋る金髪エルフの先生は、確かどこかで見た事ある気がするのは気のせいだろか?
この先生、早口がもの凄いので、皆それに着いて行くのに必死だ。
「ふむ、結局のところ突き詰めれば魔法精度を上げる為の最重要要素は術者のイメージ力と云う事になるんだね。どれだけハッキリシッカリ具体的なイメージを持って発動させられるかそして如何にその結果を頭の中で描き上げる事が出来るかにかかっている訳だね。心象をより明確に具象化できるイマジネーションとそれを形作り貫く意思の力が必要なんだね。強く濁りのない意志の力はそれだけで己を変え世界を創り宇宙さえも構築できる事を覚えておくと良いね」
やはり気のせいでなければ、この先生はあの時のお三方のお一人だと思う。
講義の合間に時々目が合うと、『分かっているね』と言いたげにニッコリと微笑まれるのが何ともコワイのよ。
その後にあった魔導鉱石学のモリス・バルタサルと仰るドワーフの先生も、やっぱりバッチリ見覚えがあった。
更にその後の魔法生物学のノソリ・カスバル先生の見事な反sy……いえ、失礼いたしました……も、当然の様に見た覚えがある。
間違いなくこの方達は、前にイロシオ遠征に同行された専門家の三博士方だ。
だってこんな濃い人達、そうそう居る訳ないジャン?!間違え様が無いと思うんだよね!
なんと言っても、2年前のあの時、村に戻ったあの日、三博士に囲まれ激しく詰問されたのは鮮烈な思い出なのだ。
あの回復魔法はどうやって使った?どういう術式か?!一体どこで身に付けた?!!
あの馬に装備させていた鎧の素材は何だ?どこで手に入れた?!どうやって加工した?!!
あの召喚した生物はなんだ?どんな存在か?!どうやったら呼び出せる?!!
三人に肩を掴まれ、ガクガクと揺さぶられたのをよく覚えている。
あの時は、大隊長のマイヤーさんが慌てて間に入り、取りなしてくれたのだ。
その後、騎士団が村から引き上げるまで、御三方とは顔を合わせない様、コソコソして居たのだけれど……。
まさか、こんな所で再会するなど想定外の話だ。
そして、やはりと言うか恐れていた通り、授業が終わった後、三人の先生方に呼び出しを受けた。
お昼休みに、魔法学科の奥にある、魔導研究棟へ出頭しろと言うのだ。
最早逃げること叶わぬこの身としては、猛烈に嫌な予感しかしない……。
だか、魔法学科の研究棟!
魔法を教える学園に在って、なんと魅力的な響きを持つ建物なのでしょうか?!
思わず溢れるロマンを抑えきれず、吹き上がるワクワクが、嫌な予感さえも押し戻してしまいます!
まあ、それでも!待っておられるのはあの三博士!
怪しさと胡散臭さまで絡みまくって来るのは、最早どうしようもないのではないでしょうか?
そして午前の授業が終わり、お昼時を頂きに大食堂へ向かえば、既に食事を終えたコリンとダーナが、寛いだ様子で食後のお茶をしていた。
いつもは食事が終わると直ぐに席を立ち、「槍の立ち合いだー」とか言いながら、嬉しそうにどっかに飛んで行っていたダーナが、何故か今日はゆっくりしている。「仕事じゃしょーがないけどさ」とか言いながら、妙にムスッとしている感じもする。コリンが何やら慰めている様だけど、どうしたんだろ?
お昼を頂いた後は、ビビ達に見送られ、わたしは一人で校舎の北側にある魔法学科へと向かった。
ビビは「気を付けて行ってらっしゃい」と、彼女としては珍しく、何とも気遣わし気に言って来た。ふむ、ビビなりに心配してくれているんだね。友達の心遣いってありがたいなぁと思いながら、わたしは食堂を出て魔法学科へと足を向けたのだ。
その研究棟は石造りで、意外と大きい建物だった。
昔使われていた校舎だったと言う話だから、大きいのも当然なのかも知れないね。
ヨーロッパなんかのゴシック様式の寺院みたいに、ゴツゴツトゲトゲしている様は、実に荘厳だけどオドロオドロした感が滲み出ていて実に怪し気だ。
ウン、イイね!いかにも、怪しい研究をしている秘密の要塞臭さが溢れています!合格です!!
大きな重い入り口の扉を開ければ、ギギギ……と、これまたお約束の様に扉のきしむ音が建物に響き渡る。
薄暗く長い廊下を独り歩けば、コツコツとわたしの足音だけが建物内に反響する。イイね、イイね!この感じ!意味も無く緊迫感が昂ぶるというものですよ!
やがて、指定されていた部屋の大きなドアの前で、若干の気持ちを引き締めながらノックをすると、直ぐに「入って良いのぉ」と緊張感のない緩んだ声が聞こえて来た。
む、なんか今迄あった雰囲気を、一気に台無しにされた気がするぞ……、この声はノソリ先生?
失礼します。と中へ入れば、そこは広々とした大きなサロンの様な部屋だった。
あれ?意外な事に中は普通だぞ?
もっと怪しげな魔導書が散らかっているとか、鉱物の類がそこかしこに転がっているとか、奇怪な生物のホルマリン漬け的な物が所狭しと並んでいるとか……そんな様相を想像しちゃってたんだけどな……。コレ、普通に整った応接間だよね。
「わたしがーーー、毎日しっかりとーーーー、掃除と片付けをーーーしているからですからねーーーー!」
わたしの思考を読んだ様に、そんな声が横から飛んで来た。あれあれ?なんでココにジョスラン先生がいるんだ?
「久しぶりじゃな、アムカムの姫さんや」
「お久しぶりですございます。先生方もお変わりなく」
「お互い元気で問題無し!だのぉ」
「ふむ、取り敢えずは座って話そうじゃないかね。ジョスリーヌ君、お茶を頼むよ」
「あーーはいはいー、分かっておりますですよーー」
「時に、一体どういう事でジョスラン先生は、こんな所で給仕みたいな事をされているのです、か?」
「は?それはーー私がーー、まだーー先生方のーー助手をーしているからーーですかねーー!」
助手?
つい小首を傾げてしまう。
三博士にご挨拶をしているとジョスラン先生が、ご自分を博士の助手だと仰って来た。
なんでジョスラン先生が助手なんだろ?
微妙に怪しさはあるものの、ジョスラン先生はちゃんとわたし達の先生をされている。
幾ら大学の博士だと言っても、そんな一般の先生に助手をさせる程、この学園は人手不足なのだろか?
「あ?あれー?なんでー、不思議そうなーー顔をしているのーですかーー?私はーー昔からーー、もう何年もーーセイワシ先生の助手をーーしてーーおりますよーー?知ってらっしゃいますよねーー?」
「はい?……いえ、存じません、が?」
「ふむ、あれだね、彼女は君が前から私の助手をしている事に全く気が付いていないね」
「なるほど、初めて知ったと言う顔をしとるようじゃな!」
「助手君の事など、全然覚えておらんのだろうのぉ、ひょひょひょひょ」
「えーー?!ま、待って下さいーーー、ウソーですよーねーー?私ー達ーーイロシオの奥でもーー、アムカム村でもーーー、顔ー合わせてますーよねーー?お話もーしてますーよねーーー?」
「わはは、ありゃ覚えていない顔じゃ!」
「うひょひょ、助手君の扱いとしては、そんなモンじゃろのぉ!ひょっひょっ」
うそでしょぉぉーーーー?!とジョスラン先生が絶叫し始めてしまった……。ウン、ゴメンナサイ、ホント全然覚えてないわ。
「そんなどうでも良い事よりも、だ!オヌシ、冒険者組合には登録したんじゃろ?」
「ど!ど―――でも良いーー扱いーですかーーーっっ?!!」
「助手君は、話が進まんくなるから、ちょっと黙っていようかのぉ?」
「えっと……は、はい、先日登録は済ませましたが……なに、か?」
「なら、近々ワシの鉱物試験の手伝いで指名するから、よろしく頼むぞい!」
「は?」
「ふむ、私も魔導起動実験に手伝いが必要だからね。当然指名は入れるからそのつもりでいて欲しいね」
「は?え?ちょ……」
「当然ワシも魔導精製生物の捕獲や解体に手が必要になるからのぉ!よろしく頼むかのぉぉ」
「は?な?何を言ってらっさるのですか先生方はっ?!!」
ナニ言ってるんだろうかこの方達はっ?!組合には登録したけど、この先生達のお手伝いとか、仕事のレベル高すぎじゃない?!
とても、Dクラスにもなっていない新人が受けられる仕事じゃないんじゃないの?
シーマックさんのところのウェイトレスだったらまだしも、『捕獲』とか危険が伴うモノは組合が承知しないでしょ?!どー考えても!!
「だ、大体にして、わたしが冒険者組合に登録した事、どうして知ってらっしゃるんです、か?!」
「そりゃ、生徒課に聞いたからじゃよ?」
「はい?」
「学園は、生徒が冒険者組合で、何時、何処で、何時間、どういった仕事をしたか、または予定をしているかを、丸っと把握しておるからのぉ」
「ふむ、そこが学園と冒険者組合の繋がりの深さの証と言う物だね。だからこそ学園は生徒を安心して組合に任せられるワケだね」
「そ、そう言う事が……」
聞いてびっくり、そして納得。
まあそれあってこそ、外出許可も出てるって事よねぇ。
良くも悪くも、学園の掌の上で、危うげなくお仕事して社会勉強しているって事、なのかぁ?
だったら尚の事、危険な可能性がある仕事は、学園が許可しないんじゃないの?
「ど、どちらにしても、わたしはまだ、Eランクになったばかりです、し……」
「あー、そんなものは問題じゃないんじゃ!」
「ふむ、難しく考えなくていいんだね。とりあえず我々の助手になると考えて貰えば問題ないね」
「は?わたしが……助手です、か?」
「ま!待ってーー下さいーーーー!わ、私はーー、助手ーークビですかーーーー?!」
「だから、ちょっと黙っていようかのぉ?!」
「で、ですが、新一回生であるわたしが、いきなり先生方の助手と言うのは……」
「ああーーもう!1年半も大人しく待っておったんじゃぞ!!今更1ヶ月や2ヶ月早くとも良いじゃろが?!!」
「は?!はいーー?!!」
「ふむ、もうとうに約束は出来ているからね。後はそれを履行して貰うだけなんだね」
「な、何の約束ですかーー?!」
「そういう訳だからのぉ!とっとと協力して貰おうかのぉぉ!!」
「ななな、何をさせようとーー?!!」
なんか訳の分からない事を言い始めた先生方に、目ん玉グルグルになってしまった!
「先生方お待ちください!慌てないというお約束の筈です!あくまで、姫のご助力頂ける範囲内で、と云う事をお忘れなく!!」
と、そこへ、わたしを庇う様に、先生方との間に身体を差し込む方が居た。
頼まれたお茶も入れず、その辺でもんどり打ってるジョスラン先生に代わり、お茶を淹れて運んで来てくれた方だ。
わたしが目ん玉回しているのを見て、お茶を乗せたトレイを素早くテーブルに置き、先生方の前に立ち塞がってくれたのだ。
「あ、あれ?貴方も、確か何処かで……」
「失礼致しました!ご無沙汰しておりますスージィ姫様!覚えておいででしょうか?自分は元第十二機動重騎士団4班班長、ノーマン・ランスです!」
「ああ!確か槍の隊長さん、でしたよね?」
「おお!自分の事を、覚えておいで下さいましたか!光栄の至りです!!」
「!!ノーマン様のーー事はー覚えておられるーーーー?!のに!わ、私だけー忘れられているーーーーーー?!!」
「だから静かにしろと言うているだろうがのぉぉ!!」
「もが!!お、お茶うけのーークッキーをーー?!もがが!!水分っ!水分ががーーー!!もがもがががが!!」
「……あ、でも、元?」
「は!自分は今、特務を受け、団を離れておりますので!現在、先生方の護衛を務める為、この地へ就いております!」
「え?えっと、『特務』でしたら、部外者のわたしに話してしまうのは……」
「いえ!姫様は自分の護衛対象でありますので!」
「は?わたしが、ですか?え?」
「はい!主に、この様な先生方の暴走から、姫をお守りする為であります!」
「「「チッ」」」
ノーマンさんが眼鏡を光らせながら、キッ!とばかりに先生方に視線を飛ばしたら、揃ってプイっと横向いて、合わせた様に盛大に舌打ちしたよ!この先生方は!!
「騎士団とアムカムとの盟約により、姫様の御身を護る大役を仰せ付かっております」
「騎士団とアムカムの……」
「ふむ、学園理事長とアムカムとの間でも約束は出来ているからね」
「そもそもが、ワシらがアムカムに残って研究させろと主張したのを、デケンベルまで引き摺って来たのは、騎士団のマイヤー大隊長じゃからな!」
「元々大学には未練は無かったでのぉ。身辺整理に1年かけて、半年前から学園に席を置いているからのぉ」
先生方の話では、大学での学会やら教授間での政治的な遣り取りやらが、本当に煩わしくてしょうがなかったそうだ。
そこで学園が間に入り、研究室を用意するので、ここでわたしの入学を待ってはどうか?と持ち掛けたらしい。
先生方としても、アムカムへ行くのもそれ程不便なく、本格的な大学の研究施設が使えるので、学園へ来る事に何の躊躇いも無かったそうだ。
実際の所先生方は、わたしの事が無くても、アムカムに残って研究をしたかったのだそうだ。イロシオでの体験は、それ程までに三博士にとって刺激のあるものだったらしい。
「それにのぉ、アムカムもお前さんの事が心配なんだろうのぉ」
「え?わたしを……です、か?」
「『渡航者』だったか……『遭難者』だったかのぉ?…………まあ、今のお前さんを診る限り、心配はなさそうだがのぉ」
「……?」
ノソリ先生が額に上げていた眼鏡をかけ直し、目を幾分細め、まるでお医者様の様な目付きでわたしを見ながらそんな事を仰った。
なんだろう?何かわたし、心配かける様な事してたかな?
「ワシらは、調べた結果を、何処ぞに発表する気なぞ無いから、その辺は安心して欲しいぞい!」
「ふむ、この辺もアムカムと学園理事長と話は付けてあるからね。発表はこのメンツでやっていれば十分な事だしね。どこかに認めさせるとか全く必要無いからね」
「モルモ……ゲフン、ゲフン!実験協力者としてお願いすると、約束してあるからのぉぉ」
いつの間にかわたしは、先生方の実験協力者になる約束が、既に出来上がっていたらしい!
全然そんな話聞いていないんですけどぉーー!!
それにしても学園理事長って方、わたしの知らない所でお世話になっているっぽい?
どんな方なんだろ?お会いする機会があったら、感謝を述べさせて頂かないとなぁ。
「どうか、この身を姫様の為に使う栄誉を、お許し頂けないでしょうか?」
わたしがそんな思いにふけていると、ノーマンさんが騎士の誓いをする様に、わたしの前で頭を垂れながら片膝を付いていた。
結局ノーマン様は、騎士団とアムカムからの依頼で、わたしと、この暴走し気味の先生方の間に入り、防波堤になって下さる為にココにいらっしゃるそうだ。
ありがたい話である。マイヤーさんやオーガストさんにも、感謝を忘れてはいけないな。
「ありがとうございますノーマンさん。よろしくお願いします、ね」
わたしは、膝を付くノーマンさんに、自分の右手を差し出した。
ノーマンさんは、わたしの手を取りその甲に唇を付け、一言「光栄です」と仰り微笑まれた。
「ノーマン様がーーー騎士の誓いーーー?!私にもーーまだーーして貰ってーーいないのにーーーー?!!」
「だからやかましいのぉ!もう少し大人しくせんかのぉぉ!!」
「モガーーーッ!ま、またーーークッキーーーもが!す、水分ーーー!!モガッーーー!!」
「助手君も不屈じゃな。まだ諦めとらんのか?」
「ふむ、全くだね。彼は毎日夢中な彼女と槍の立ち合いで楽しんでいるというのにね」
「い、いえ!彼女はお世話になった先輩の妹さんなので!少しでも力になればと思っているだけで、決してその様な浮ついた気持ちではっっ!!」
なんかセイワシ先生の言葉に、ノーマンさんが慌てる様に反論している。なんか顔も赤くなってないか?
ホムホム、ちょっと気になりますねぇ。ノーマンさんが顔を赤くするお相手って、どんな方なんだろ?
あ、またジョスラン先生が復活してなんか叫んでるぞ?
段々と場がカオス化して、お昼休みも残り少なくなってきたので、とりあえずその場をお暇させて頂いた。
先生方は、わたしが『Dランク』になったら、また声をかけると仰っていた。
う~む、ノーマンさんが守って下さるとは言え、やっぱりちょっとコワいかも。
本校舎に戻ると、教室前でアンナメリーがわたしの戻りを待っていた。
どうかしたのか?と聞くと、届け物があると綺麗な封筒を手渡された。
「……これは?」
「お嬢様へ、お茶会の招待状で御座います」
「は?」
「二回生の、キャロライン・ゴールドバーグ元公爵家御令嬢からのご招待で御座います」
ぐはぁ!ちょっと待ってぇー。
今、三博士の呼び出しを受けて来たばかりなのに、また呼び出しって事ですの?!
なにこれ?今日は『呼び出しデー』とかそんな日なの?
しかも元公爵家令嬢ぉぉ?!朝みたいな胃の痛くなる展開が、待っている予感しかしないのよさ!!
「……えっと、出ないと……ダメ?」
そんな恐れ戦くわたしの問いに、アンナメリーは、とてもとても優し気にニコリと微笑んだのだった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます!





