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ラッキースケベは突然に

 さて。まずは顔でも洗ってまだ起きていないヤツがいたら起こしてやるか。


 鼻歌交じりに川まで歩いて行くと、さっそく川の水を手ですくい顔を洗う。


 冷たい水が気持ちがいい。キャンプの朝って、最高だよな。


「ふー。タオルタオル……と」


 目を閉じながら周囲の岩場をまさぐるが、何の手ごたえも感じない。


 げ。タオル持ってくるの忘れた。


「お? 何だ、知らない間に持ってきてたのか。あーよかった」


 偶然に指先に触れた布の感触に、オレは安堵した。目を閉じたまま手繰り寄せ、タオルのような物で顔を丁寧に拭う。


 あれ? なんかこのタオル、シルクみたいにすべすべしてるぞ。それに……なんだか甘くていい匂いがする。


「おいとーや! お前こんなとこで何して――」


「お、ラヴィー。おはよう」


 目を開けて前を見ると、猫耳の先まで真っ赤にしたラヴィーと目が合った。なぜかバスタオルを一枚体に巻き付けた格好で、髪が水にぬれている。


「お、おま。お前! 何でそれを、お、俺のパ……ツ、で……んでそんなことしてやがんだ!」


「へ? いや、オレはただタオルで顔を拭いているだけ……って、うおおおおお!?」


 視線を下にずらした瞬間、オレは我が目を疑った。


 純白に光り輝く逆三角形の布。小さなリボンが可愛らしくくっ付いている。男子にとって夢の象徴……。またの名を婦人用下着。あるいは――。


「俺のパンツを返せーーーー!!」


 一瞬ラヴィーが視界から消えたかと思うと、オレの背後に回り込んでいて……次の瞬間、彼女の綺麗な生足がトマホークのようにオレの脳天に直撃した。


「ぐほ!」


 そうか……これタオルじゃなくて……ラヴィーのパンツだったんだ……。


 そう確信したと同時、オレの意識は遠のいていった。


 ……。


 …………。


「ん? ここは……」


 目が覚めると、オレはベッドの中だった。


「あれ? 確かオレ……旅の途中だったのに」


 周囲を見回すと、六畳ほどの室内に、ベッドと木製のテーブルとイスがあるだけの質素な部屋だった。壁は石でできているらしく、妙な圧迫感がある。


「アリス……? きらり……? 誰もいないのか」


 ベッドを抜け出し、ドアから少し顔を出してみる。


 何やら騒がしく人が行き交う音が聞こえ、間髪入れずに気合や怒声がオレの耳を貫いた。


「何なんだよ、ここは」


「おお。気が付かれたようだな、勇者殿」


「え?」


 背後から低い男の声が聞こえてきて、振り返った瞬間、両肩を痛いくらいつかまれた。


 でけえ。2メートルくらいの巨体に、歴戦の猛者を思わせる顔の十字傷とヒゲ。それに、頭にはラヴィーと同じ猫耳が付いている。獣人のおっさんだ。


 てゆうか、こんないかついおっさんだと、猫耳が超絶似合わない。やっぱ猫耳は可愛い女の子が付けてこそだよな。


 オレが不満の溜息を吐くと同時、おっさんはバカでかい声で叫んだ。


「我が解放軍のアジトへようこそ、勇敢なる異世界の若者よ!!」


 鼓膜が破れそうだ。それもこんな近くで……。って、今何て言った?


「……解放軍? アジトって……まさか……って、うを!!」


 男は驚いているオレをお構いなしに肩に担ぎ上げ、どこかへ運ぼうとした。


「おい、降ろせよ! オレなんか食ってもうまくないぞ!」


「がはははは!! 勇者殿は軽いのう! ちゃんと飯は食っているのか!? 男たるもの、たらふく食って! たらふく寝て! たらふく遊ぶ!」


「は、はあ?」


 ずしり、ずしりと。怪獣みたいに地響きを起こしながら、おっさんはオレを担いだまま建物の中を移動する。


「うむ、着いたぞ!」


 やがて扉の前で立ち止まると、オレをおろして中に入るよう促した。


「中で皆が待っている。早く行くといい」


 背中におっさんの声を受け、オレは扉を開いた。


「陶冶くんだー! 目が覚めたんだ! おはよう!」


 扉を開けてすぐ、アリスが駆け寄ってきた。


「アリス、ここは一体どこなんだ?」


 室内には大きなテーブルがある。応接用の部屋なのか、壺とかの調度品も置いてあった。


「解放軍のアジトだよー! 陶冶くんが寝ている間に、到着してしまいましたー!」


 ……やっぱり。ていうか、オレどれくらい意識失ってたんだろう。


「ラヴィーちゃんに聞いたよ~? 陶冶くんてば、顔を洗ってる最中に転んで頭を打っちゃったんだよね? 大丈夫?」


「え」


「本当、ドジだよね。しかも5日間も寝たまんまで……」


 5日間……そんなに寝てたのかよ、オレ。いや、それよりも……パンツの件については、ラヴィーの奴誰にも話してないのか?


「ようやくお目覚めかよ、とーや」


 アリスの隣から声がして振り向くと、険しい顔をしたラヴィーが腕を組んでオレをにらんでいた。


「あ、ラヴィー……その、さっきは……いや、5日前はごめん」


「わ、忘れろ! そのことは!」


 ラヴィーは一瞬で間合いを詰め、オレの胸ぐらをつかんで、キスができそうなくらい顔を近づけてそう言った。


 にしても……改めて近くで見ると可愛い顔をしている。この男みたいな言葉遣いを直せばもてるだろうに。


「な、なんだよ。人の顔じろじろ見て……」


「いや、ラヴィーって可愛い顔してるんだなって思って」


「!!!!」


 ラヴィーは口を金魚みたいにぱくぱくさせると、顔を真っ赤にして逃げて行った。


「あ、おい!!」


 ラヴィーが出て行ってすぐ、さっきの獣人のおっさんが入ってきて、闘気を体中に巡らせうなった。


「今、ワシの可愛い可愛いラヴィーたんが泣きながら飛び出していったが、誰か説明できる者はおるか? 返答次第では、ブチ殺す!」


「は……ラヴィー……たん?」

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