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冒険初日終了。そして明日へ。

「おう、とーや。こっちの用は済んだぜ。ガロのヤツに捜索任務を引き継がせた。ちょっと予定が狂っちまったけど、お前ら勇者を連れて帰ればお偉方も納得するだろ、たぶん」


「そうか。じゃあ、さっそく出発しよう」


 アリスが張り倒したドワーフのガロ。ラヴィーは彼に任務を引き継がせると、オレ達の所に戻ってきた。


 ラヴィーが増えて合計6人が馬車に乗り込み、再び旅が始まる。


 太陽はまだ高い位置にある。日が暮れるまでに馬車で道を進み、夜になる前にどこかキャンプできる適当な場所を見つけなければいけない。


「出発です!」


 レリアの声と共に、馬車がゆっくりと動き出す。徐々に加速していき、車体に心地よい振動が伝わってきた。


 馬車の旅っていうのも悪くないもんだ。ましてやここは異世界。こんな状況じゃなければゆっくりと観光でもしたいところだが、今は無理だな。


 流れていく風景と風の匂いを感じ、そう思った。この戦いが終わったら……みんなで旅行とかしてみたいかも。そのためにも今は、できることをやるしかない。


「さて、始めるか」


 オレは指輪を抜き、ゆっくり瞳を閉じた。そして、冷蔵庫の冷気をイメージする。


「フリーズ」


 木箱に向けて掌をかざすと、中身を確認してみた。


「お。うまくいってる。これなら冷蔵庫いらないな」


 木箱の中には、カチンコチンに凍った川魚があった。さっき休憩中にラヴィーが取ってくれた物だ。


 さっきの昼飯でいきなり虎の子の保存食を使ってしまったからな。しかも、同行者が1人増えたので、食料品は貯蔵できるだけ貯蔵しておきたい。


 覚えたての氷属性魔法は意外と生活の役に立っている。でもこれ、もしオレが威力調節に失敗してたら、馬車内が氷河期になってたかもしれないけど。


 ま、成功したしいいか。


 魔力コントロールのコツもだんだんつかめてきた。魔力のスタミナについても、そこは体力と同じで、使えば使うほど増えていくみたいだ。


 大規模な攻撃魔法は、確かに便利だけど万能じゃない。市街地での戦いや、おくまった場所では使えないし、味方にも被害を与えてしまう恐れがある。


 今度の戦いはランドールの城下での戦いがメインになる。ということは、フランベルジュのような範囲を限定した魔法が必要になる……。


 けれど。氷属性の魔法なら、建物に被害を与えず敵の戦闘力も奪うことが可能ではないか?


「陶冶さん、チョコレート食べませんか?」


「ん? ああ、ありがとうなきらり」


 きらりがチョコレートを持ってオレの隣に座る。


「きらり、闇魔法の調子はどうだ?」


「はい、アーシャに色々教えてもらったんですけど……」


 きらりはアーシャに闇魔法をレクチャーしてもらっていた。もともと闇魔法は魔族の作り出した独自の魔法で、地水火風の自然現象を操る紋章魔法とは違い、術者の恨みや怨念といった負の感情を元に、色々な現象を引き起こすことが可能らしい。


 恨みや怨念といえば、きらりにぴったりだ。いや、きらりには失礼かもしれないけど。


 ちなみに、人間やエルフで闇魔法を習得している者はほとんどいないらしい。


「闇魔法には特定の型が無いみたいで……術者のスタイル次第って言われました。でも、私どうしたらいいのか……ごめんなさい、陶冶さん」


「いや、きらりは普段通りでいいと思うんだ。普段通りで」


「そうでしょうか? ……でも、こんなことじゃ。陶冶さんのお役に立てない……。そうだ。反省しよう。私、反省文を書いておきますね」


「え? あ、ああ。あのごめんなさいノートね」


 きらりは荷物から大学ノートを取り出すと、「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。くくく」と、恐ろしい形相で謝罪の言葉を口にし、ノートに呪いを書きなぐっていった。


「たぶんそのノートに、殺したい人の名前書いたら殺せちゃうんじゃないかな」


 本気でそう思った。


「にしても……」


 オレときらりは、やることがはっきりしているからいいけど。問題は……アリスか。


 聖王剣を手にする事ができない以上、別の手立てを考えなくてはいけないだろうな。かといって、オレが剣術を指南できるわけでもないし……。


 現状アリスは丸腰だから、せめて解放軍のアジトで剣を手に入れなければいけない。魔神器に匹敵するだけの武器が他にもあればいいんだけど。


 そんな風にこれからのことを考えていたら、いつの間にか日が大きく傾きかけていた。


 オレ達は川沿いに馬車を停め、野営の準備を始める。


「さて、と。役割分担でもするか。アーシャは宣言どおり、肉を獲ってこい」


「うむ。任せよ」


「レリアは野草を探してきてね」


「はい!」


「ラヴィーは魚をとってくるんだ」


「おう!」


「アリスは馬の面倒を見てやってくれないか? 回復魔法でコンディションを万全にしてやってくれ」


「はーい」


「じゃあ、私は陶冶さんとラブラブすればいいんですね?」


「そうだ。きらりはオレとラブラブ……するかー!」


 順当に役割分担できていると思ったら、最後にきらりがブチ壊してくれた。でもラブラブ……してみたいかも。


「ずるいです! わたくしもトウヤさまとラブラブしたいです!」


「おのれ、ならばワシも!」


「なんだよ、ラブラブって? うまいのか? なら俺もそれがいい!」


「アリスさんもラブラブしたいよー陶冶くーん!」


 あちこちで反乱が起こった。なんだこれ。オレにどうしろってんだ。


「えーと、とにかくだ。きらりはオレのお手伝い。一緒にテントを設置してくれ」


「2人の愛の巣を作るんですね。そして、そのまま2人で朝までベッドの中で……そんな、私達まだ高校生なのに……いいえ。年齢なんて関係ないですよね。2人に愛さえあれば、子供ができても若さでやっていけるはずです」


 テントを作るだけの話なのに、なぜか子供作る話になってる!?


「はい、各自解散! 日が完全に暮れる前に終わらせるぞ!」


 きらりを無視して作業に入る。テントを設置して、魔法で火を起こし、全員がそれぞれの役割を終えて帰ってくると夜が始まる。


 アーシャのとってきた肉をきらりが嬉しそうに切り刻み、レリアの野草とラヴィーの魚が食卓に並ぶ。


 これが世界を救う旅だなんて思えないくらいに、和気藹々とした光景だった。


 でも、もうすぐ大きな戦いが待っている。四天王の1人、蒼炎のバルバトス。聖王剣と聖王の娘。解放軍。


 今日一日だけでも色々とあったもんだ。この旅をいつか……誰かに語る日が来るのだろうか。


「アリスさま、この髪飾りかわいいですね!」


「ラヴィーさん、お菓子いかがですか?」


「主×リザードマン……いや、主×オーガもベストカップル……むほほ」


 食事を終えても女子一同は相変らずきゃっきゃとかしましい。


 ていうか誰だ。オレをモンスターとカップリングさせてるヤツは。


 ……疲れたな。もう寝るか。


 オレは何も言わずにテントに入り、毛布にくるまると目を閉じた。


 冒険の初日が終わる。明日は、どうなるだろう。

次回更新は一週間後になります。

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