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ラヴィーの誘い

「俺はその聖王様の娘を……次代の王となられる方を探している旅の途中だったわけさ」


「そして金に困って、オレ達を襲った、と」


 少し冷たい口調でそう言ってやると、ラヴィーはさっきまでの得意げな顔を、苦虫を噛み潰した顔にしてうつむいた。


「ぐ。悪かったよ。謝るから許してくれ。……っつっても、許しちゃくれねーかもしれないけどさ。仕方がなかったんだよ。ガロのバカが預けてた荷物を全部、盗賊に奪われやがって身分も証明できねー。……ああ、ガロってのはそこで気絶してる汚いおっさん。ちなみにドワーフな。んで、たまたま近くに馬車を見つけたから。そのガロが盗賊にやられた手口で、とりあえず試してみよっかなと」


 なんとも間抜けな騎士さまだな。


「じゃあ、まだ誰からもお金は取ってないの?」


 アリスがそう質問すると、ラヴィーは大きく頭を動かして肯定する。


「おうさ。だから、許してくれよ、な? な?」


 ラヴィーは両手をパンといただきますをするように合わせ、頭を下げてきた。


「まあ実害はなかったし。別にいいよ。な、アリス?」


 むしろ、実害あったのはラヴィーのほうだろ。オレにパンツ見られたんだし。


「もちのろん! ラヴィーちゃんは可愛いから許す!」


 ……可愛い女の子じゃなかったら、どうなってたんだろう。いや、あのガロとかいうドワーフみたいに、気の毒なことになるんだろうな。


 オレは視界の隅で気絶しているドワーフを見て、そう思った。


「ほんとか!? お前、以外にいいヤツじゃん! 気に入ったぜ、勇者さま。今から俺達はダチだ!」


「オレは田中陶冶。こっちのスカートめくらーが田中アリスだ」


「おう! よろしくな、とーやにアリス!」


 いきなりラヴィーが10年来の親友のように、オレの肩に肘を乗せケラケラと笑った。女の子というより、威勢のいい男友達って感じだな。


「やだ、陶冶くん。スカートめくらーなんてほめられたらアリスさん、照れちゃうよ」


「ほめてねーよ!」


 アリスはオレの肩に肘を乗せたままのラヴィーの背後へ回り込むと、再びローブをぺらっとめくった。


 ラヴィーは気付いていない。


 それにしても、聖王の娘か。聖王剣をアリスが装備できないのなら、それを扱える人間を仲間に引き込めば、戦力がアップしそうだ。


「なあラヴィー。それより、聖王の娘を探してるって話。もう少し詳しく聞かせてくれないか?」


「おう! 何でも聞いてくれ! ダチの頼みは断れねーからな! けどさ。その前によ、その……」


「ん?」


 直後、「ぐぅ~」という可愛らしい音がして、ラヴィーは真っ赤な顔になった。もじもじしながらラヴィーは、猫耳をぴょこぴょこ動かして恥ずかしそうに言う。


「メシ、食わせてくんね?」


 そういえば、もう太陽が高い位置にある。昼飯時、だな。


 オレ達は4時44分にこちらの世界に来ているから、オレらにとっては晩飯時か。


「わかったよ。近くに仲間もいる。紹介がてら食事にするか」


「おう! 持つべき者はダチだな! とーや!」


 そう言ってラヴィーはバンバンとオレの背中を叩いてきた。


「いって!」


 ラヴィーを連れて馬車に戻る。すると、川のほとりできらりとレリアとアーシャの3人が、テレビとPS3でDVDを見ていた。


 いい気なもんだよ。人が盗賊に襲われてるときに、まったく。


 再生しているのは、BLアニメだ。相変らずレリアが両手に電源コードを持って、自家発電している。


「あ! お帰りなさいなさいませ、トウヤさま! は? その獣人の女の子は何ですか?」


「何だー? エルフに人間に、魔族に……えらくバリエーション豊かな顔ぶれだな」


 ラヴィーはきらりやレリアを見てそう言った。


「陶冶さん、その獣臭い女は何でしょう?」


「ああ、紹介するよこいつは――」


「いえ、皆まで言わずとも私には解ります。晩ご飯のおかずのお肉でしょう? ふふ、私に任せてください。なんて切り刻みがいのありそうなお肉……」


 きらりは包丁を取り出して、ラヴィーに近寄った。


「うおあ!? んだ、この根暗女! 俺は食い物じゃねー! とーや。こいつ何なんだよ~」


 そう言ってラヴィーはオレの体にまとわりつくように、抱きついてくる。


 その瞬間、闇が訪れた。


「この、泥棒猫! 私の陶冶さんから離れなさい! でなければ、殺す!」


 ぶちっと血管が切れる音が聞こえると、きらりは宇宙で一番強いんじゃないかと思うぐらいの気を放出していた。


 髪と包丁振り乱しながら暴れるその姿は、ホラー映画のワンシーンだ。


「うへえ……なあ、とーや。こいつ、お前のダチか?」


「ああ、そうだよ。ごめんな、いきなりとんでもないもの見せて」


「ま、とーやのダチってことは俺のダチってわけだ。んーと、きらりだっけ? そんなカリカリすんなよ、ダチ同士仲良くしようぜ!」


「……友達? 私にまた1人、お友達が……嬉しい……友達……」


 きらりは友達という単語に反応すると、警戒を解き、久々のホーリーきらりになった。


「えっと。とりあえず、ご飯にしようか皆。アーシャ、準備を頼む」


 きらりが包丁を取り出して現場はパニックになったというのに、アーシャはDVDを見ながらよだれを垂らしていた。


 妄想の世界へ旅立ったアーシャを放置して、食事の準備を進めがてら、ラヴィーを皆に紹介する。


「きらりはさ、大人しくていいヤツだな! 俺、ウザイって言われることよくあるんだけど、お前みたいになってみてーよ」


「ラヴィーさんは、とっても活発で明るい人なんですね。なんだか、羨ましいな。私もそんな風に振舞えたら……あの人は振り向いてくれるのかしら?」


 ラヴィーは社交的な性格なのか、あっという間にみんなに打ち解け、女子の輪に入っていた。


 うーん、きらりと足して2で割ったらちょうど良さそうな性格だな。


 それから食事の準備が整うと、ラヴィーはがつがつとかぶりついた。


「うめー! なんだこりゃ! 魚の煮つけか? こんなうめーもん食ったことねーぞ!」


 さんまの蒲焼とごはんを一心不乱にかきこみ、ラヴィーは猫耳を立てて嬉しそうだ。


 どっかの腐女子魔族のせいで、いきなり保存食に手をつけてしまった……まあ、うまくはいかんよな。


「あ~食ったぜ! うまいもん食わせてくれてありがとよ、とーや! んで、なんだっけ?」


「聖王の娘の話」


「おう、それそれ! えーと、だな。現状ランドールは、魔王軍に占領されている状態なんだけどよ、それを奪還しようって話が前からあがってて……ええと、奪還作戦? てのをもうじきやるんだけど、ぜんぜん人が集まんねーの。元騎士団員や宮廷魔術師連中の何割かは賛同してくれてるらしーんだけどさ。残りの何割かが説得にも応じねーんだよ」


「ヘタレな連中ですね。私だったら、金か恐怖か脅しで従わせますけど」


 うふふ。と、きらりの発言にからんだら危ない方向に行きそうなので、無視した。


「そこで、聖王の娘か。旗印となる存在が現れれば、残りの騎士や魔道士たちも合流するかもしれない、ってわけか?」


「おう! だから俺は聖王さまの娘を探す任務についてたんだけどよ……ここで思わぬ拾い物ってわけだ。とーや! お前ら勇者が俺たちに手を貸してくれれば、作戦の成功確率も跳ね上がるってもんだ。どうだ? 俺たちに手を貸してくんねーか?」

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