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旅の始まり

 馬車に荷物を運び終え、いよいよ出発する準備が整った。


 オレ達は一度全員馬車の外へ出て、村の人々に頭を下げる。


「必ず帰ってきてくださいね、トウヤ」


「はい」


 エルフ村の皆を代表して、シャリンさんがオレに別れの言葉を述べる。


「ユリコは私にとって娘みたいな子だったから、あなたは孫ね」


 シャリンさんは母性に溢れた笑みで、オレの頬に手で触れた。その瞬間にまたしても巨大な果実が2つ、揺れる。


 こんなおばあちゃん大歓迎です。うちのばあちゃんはこんなにおっぱい揺らしてくれない。いや、ばあちゃんのビジュアルで乳揺れされても困るけど。


 ていうか、シャリンさんていったい何歳なんだろう。


「そんな、孫だなんて。シャリンさんおいくつなんですか? ぜんぜんおばあちゃんには見えな――」


「何か言いましたか、トウヤ?」


「あ、いえなんでもないです。すみません」


 一瞬、背筋が震えるほどの殺気を感じた。


 大地雷だ。エルフとはいえ、女性に年を聞くもんじゃなかったな。


「叔母様はもうじき600歳になられるんですよ、トウヤさま! とっても長生きです!」


 レリア、空気読め!


「……レリア、あなたはもう帰ってこなくていいですよ」


「はわ!? ごごごごめんなさいです、叔母様!」


 冗談で言ってるのだろうけど、シャリンさんの顔はけっこう本気そうだ。


 レリアはあまりの剣幕で、半泣きになっている。


 にしても、600歳か。600年前だと、日本史では室町時代だ。改めてエルフってすごい長生きだな。


「とにかく、トウヤ。ここはあなたの帰る場所でもあります。必ず生きて帰ってきてくださいね。あなたの笑顔が再び見られる日を、楽しみにしております」


「はい! シャリンさんも、お元気で」


「では、別れの儀式をここに」


「え!?」


 シャリンさんはオレを抱きしめると、右頬と左頬にキスをした。


「行ってらっしゃい、トウヤ。この世界をお願いします」


 ゆっくり離れると、シャリンさんは頭を深く下げる。


「行ってきます」


 皆で頭を下げると馬車に乗り込んだ。


 よし、行くぞ。


 レリアは御者として馬をコントロールしなければならないので、運転席だ。


「叔母様、怖いです……わたくし、トウヤさまのお家の子になりたいです……」


 生まれたての小鹿のようにブルブル震えるレリアを見て、不安になる。事故ったりしないだろうな……。


「頼むぞレリア」


「はい、トウヤさま。あの、もし旅が終わって村に帰れなかったら、トウヤさまのお家に行ってもいいですか?」


「え? あ、ああ。まあ、いいけど」


 まあ、あれは冗談で言ったんだろうし、気にしなくても大丈夫かな。


「本当ですか!? わたくし、嬉しいです!」


 レリアはいつも通りの元気な笑顔を見せると、手綱を握った。


「トウヤさま! ちょっとお願いがあります」


「ん、何?」


 アリスたちのいる荷台部分に行こうとするが、レリアに呼び止められた。


「馬車の運転は久しぶりなので、えっとその。トウヤさまに側にいて欲しいというか、その」


「いや、オレも馬車なんて運転したことないし。ていうか、そもそも馬見るのも初めてだよ」


「あの、何もしなくてもいいんです。強いて言うなら、その。お膝の上に乗せて欲しいのです!」


「ああ、それくらいなら、別に……え?」


「ダメ……ですか? もしかしたらわたくし、緊張しすぎて手元がくるってしまうかもしません! そうなると、ランドールじゃなくて、天国にいっちゃうかもです!」


 レリアは真剣な顔でそう言ってくる。


 さっきのレリアのセリフ、『いっちゃうかもです』の、いっちゃうだけ録音して無料動画投稿サイトにアップしたら、数百万ヒットはしそうだ。やらんけど。


「いや、それは困るな」


「ですから、お膝に乗せてください!」


「……ちょっとだけだぞ?」


「はい!」


 レリアが運転席から少し腰を浮かせ、横にどいた。


 オレが空いた運転席に座ると、レリアは小さな体をオレの膝の上に落ち着かせ、背中をオレの腹に密着させてきた。


「うわあ、特等席です!」


 レリアの豊かな銀髪がすぐ顎の下に位置し、ときおり触れてこそばゆい。彼女の体温が膝の上に広がる。猫を膝の上に乗せたような……妙なこそばゆさがあった。


 なにより、エルフの女の子が膝の上に乗ってるシチュエーションはおいしすぎだ。


「それじゃ、出してくれレリア」


「はい! それにしてもトウヤさまの太ももって……太くて、硬くて……大きいですね!」


 今のセリフも録音して無料動画投稿サイトにアップしたら、数百万ヒットはしそうだ。やらんけど。


 かくして旅は始まった。


 馬車は順調に走り出し、揺れるたびにレリアの体とオレの体が密着する。いいぞ、もっと揺れろ。


「風がとっても気持ちいいですね!」


「うん、気持ちいいね」


 流れていく風景は、何十分走っても代わり映えがしない。本当に進んでいるのか疑わしくなる。


「もう少ししたら、少し休憩しますか? 川がこの近くにあるので」


「そうだな。慣れない馬車旅だ。気分が悪い子もいるかもしれないし、一度この辺で小休止しようか」


「はい!」


 それからしばらくして、レリアの言う川が見えてきて一度休憩することになった。


 レリアはオレの膝から飛び下りると、荷台から降りてきたアリスたちに駆け寄り、きゃっきゃとはしゃぐ。


 女子は持ってきたお菓子でお茶会でもするのか、川の水が入ったポットの電源コードをレリアが握っていた。


 家電も使えて運転手もできて……レリアの存在は大きいな。


「レリア、雷系統の魔法でそんなことができるなんて、すごいな」


「はい。わたくし、魔法の威力はぜんぜんですけど電流、電圧、電力の細かいコントロールが得意なのです! PS3やテレビは、以前アリスさまに言われて、電源供給した経験があったので、すぐできましたが……やっぱり、こういう扱いは嫌です!」


 レリアは電気ポッドのコードを左手に、クッキーを右手に女子の輪に入る。


 うーん。こういう時って、男のオレとしてはなんだか居心地が悪いな。少し周りを散歩するか。


 その時だった。


『と、盗賊だ! だ、誰か助けてくれええええ!!』


 男の悲鳴が聞こえて来て、オレは急いで声のしたほうに向って走った。


 すると、そこにいたのは中年の太った汚い男とフードを目深に被った女がいた。


 RPGでよくある、商人の護衛ってやつか。ならここは、やることは1つだな。

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