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腐女子魔族が誕生した日

「えっとさ。この子達、母さんの知り合いらしいんだ。海外からはるばるやって来て、母さんを訪ねてきたみたいなんだけど、今日の宿がなくってさ。一日でいいから泊めてあげたいんだけど、いい?」


 妹と遊んでいるレリアを横目に、親父に説明する。


「ああ、いいぞ。母さんの知り合いなら。それにしてもお前、ちょっと臭うぞ? 風呂なら沸いてるから入ってさっぱりしてこい」


「え? あ、ああ」


「レリアちゃんの面倒は、私が見ておくから」


 妹がレリアの手を握り、部屋に連れて行くとオレはとりあえず風呂に向うことにした。


 アーシャは姉ちゃんが、レリアは妹が。血を分けた姉と妹を信用しないワケでは無いがどうにも嫌な予感がする。


 まあいい。風呂にでも入ってリラックスするか。トンデモ展開の連続だったんだし。


 服を脱ぎ、風呂に入る。しばらく湯船でぼーっと過ごし、体でも洗おうと立ち上がったとき、急に扉が開いてアーシャが入ってきた。


「はあ!?」


「主よ。すまん待たせたな。姉上殿がなかなか解放してくれなんだ。許せ」


 湯煙の中に佇むアーシャは、バスタオルを一枚体に引っ掛けただけの状態で、ある意味残念だった。


「いやいやいやいやいや! お前、入ってくるなよ!」


「何故に? 主が風呂に入っているのだ。ここは背中を流すのが普通では無いか?」


「いや、そうだけど……」


「そ、それとも……主はワシのことが嫌いなのか?」


 アーシャは今にも泣き出しそうなくらい涙目だ。こまった四天王だな、まったく。


 こいつは放っておくと面倒なことになりそうだな。まあ、背中を流すくらいならいいか。


「あーわかったわかった! それじゃアーシャ、背中頼むよ」


「うむ!」


 はつらつとしたアーシャの声が狭い風呂場に響く。


 背後にアーシャの気配を感じると、すぐにごしごしと背中を洗い始めた。


「主の背中は大きいな。うむ、将来は大物になるであろう。ワシが保証してやる」


「ああ、ありがとうな」


「と、ところで。主よ……」


「ん? 何だ。聞きたいことがあるなら、遠慮なく聞け」


「主には、あるのか?」


「何が?」


「や、やおいあなという未知の器官が」


「ねーわ!」


 オレは振り返って声の限り叫んだ。


「な、何? この世界の男子には標準装備されていると、姉上殿がおっしゃっていたぞ!?」


「あの腐れ姉貴。……魔族に何吹き込んでるんだ。まあいい。続けてくれ、アーシャ」


「む。承知した」


 再び背中にごしごしと、リズミカルな音と心地よい感触が湧き上がる。


「……」


「……」


「アーシャ?」


 急に静かになったので振り返ってみると、アーシャは天井を見上げながら「主×魔王さまはテッパン……」と言って、気絶した。


 その瞬間、魔族の腐女子が誕生したのだった。


「ていうか、何で魔王がウケなんだよ……オレと魔王をカップリングさせるんじゃねえ」


 オレは風呂を上がり、気絶したアーシャをリビングのソファに寝かせると、レリアの様子を見に妹の部屋へ向った。


 姉ちゃんがあれなんだ。ヘタすればレリアも妹の奴に、未だ見ぬ恐ろしい存在に変貌されているかもしれない。


「レリアー。大丈夫か? 妹のヤツに何かへんなことされてないか?」


 ノックしてドア越しに語りかけてみると、部屋の中で大きな音がして、慌てた声が聞こえてきた。


『げ、兄ちゃん!? ダメ、今入ってこないで!』


『トウヤさま!? 絶対絶対、開けちゃいやです!!』


 一体何をやっているんだと思って、開けてみると……。


 レリアが妹の中学の制服を着て、ベッドの上でアイドルのようなキャピキャピしたポーズを取っていた。


「何やってるんだ……」


「レリアちゃん。うちの学校の制服可愛いって言うから、着せてあげたんだけど。そしたら実際マジ可愛かったから、色々と……」


「恥ずかしいです……」


 オレの母校でもある妹の中学の制服は、確かに可愛い。


 赤と緑のストライプ柄のスカートにブレザーの上着は、ネットで大きなお友達の間で取引されているとかいう噂があるくらい、可愛いので有名だ。


 しかもそれを着ているのが、エルフだというのだから……。


「トウヤさま。わたくし、ヘン、ですか?」


 レリアは顔からファイアーボールでも発射しそうなくらい真っ赤にして、期待と羞恥の入り混じった顔でオレを見る。


「そんなことないよね兄ちゃん!? すーーーーーごく可愛いよ。まるで、異世界ファンタジーのエルフみたい!」


「あ、ああ。そうだな。エルフみたいだな……いや、ていうかエルフなんだけどな」


 オレは妹の部屋からそっと抜け出すと、リビングに戻った。


 異世界幼女は疲れる。こんなことなら、きらりの所で預かってもらえばよかった。


「早く明日にならないかな……」


 ソファに腰掛け一息つくと、アーシャの寝言が聞こえてくる。


「魔王さま総受け……」

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