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田中家にホームステイするエルフと魔族

 はしゃぎ回るレリアとアーシャを引っ張って、街を歩く。


 2人ともきょろきょろと、見るもの全てに目を輝かせ、あれは何だこれは何だと、ガドリングガンのように質問を飛ばしてくる。小さな子供を持つ、世の中のお父さんお母さんのタイヘンさを、少し理解した気がした。


「あ……やべ。そういえば今日、白子のバスケ最新巻が出る日だっけ……」


 ふと目の前のコンビニを見る。そして、2人の異世界人を見る。


 ……頼むから、大人しくしていてくれよ。


「レリア、アーシャ。少し買い物があるんだけど……絶対に、絶対に、大人しくしてろよ? な? 頼むから」


「はい! 大人しくしています!」


「まるで子供のような扱いだな、ワシがそこらの子供のようにはしゃいだりするとでも思うのか? フ、見くびられたものだ」


 元気よくお返事したレリアと、クールに腕を組んだアーシャを見て、とりあえず安心してコンビニへ入った。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!? 何だこれは! 天井に照明の魔法と、壁際には氷属性の魔法が絶えず発動しておるぞ! それに、なにやら見たこともない武器が並んでいる……異世界の武器屋、侮りがたし!」


「てめえ、人の話し聞いてなかったろ? あとここは武器屋じゃねえ。それはただのカッターナイフだ」


 そこらの子供のようにはしゃぎまくったアーシャにチョップをかまし、すみっこに移動させる。


 店員さんや他のお客さんの視線がかなりイタイ。


「あ、あはは。まったく、中二病の子供の面倒を見るのは疲れるなあ~。あはは……」


 いいわけがましくそう言うと、周囲の人々はアーシャの姿を見て、ああ、なるほど。といった風な目で見ていた。


 ファンタジー然としたかっこうのアーシャは、どこからどう見ても小学生女児がコスプレしているイタイ子にしか見えない。


「主よ、中二病とは何だ? どのような病なのだ」


「時として人を死に至らしめる、恐ろしい病気だよ。こいつの恐ろしいところは、まったく自覚症状がないところだ。それどころか、自分に酔って悪化してしまい、完治したとしても数年後に思い出して、自殺したくなる危険な病だ。主に10代の男性に多く見られる」


「む、むう? 恐ろしい病だな。異世界にはそんな病気があるのか」


「お前も発症寸前だ。死にたくなければじっとしていろ」


「し、承知した!」


 さっきまでの騒々しさはどこへやら、アーシャはまるで石像のようにカチンコチンになってATMの前で立ち尽くしている。


「トウヤさま! この方、わたくしが111歳だと言っても信じてくれないんです! せっかくおいしそうなワインを見つけましたのに」


 レリアはお酒コーナーで店員さんに捕まっていた。


 オレはすぐさまレリアの持っていたワインを棚に戻し、店員さんに頭を下げ2人を引っ張って外へ出た。マンガはもう諦めよう……。


「レリア。この世界じゃお酒は20歳からなんだよ。レリアはどう見ても小学校高学年にしか見えないから、諦めてくれ」


「はい……残念です」


 いくらレリアが見た目は子供だけど、私はエルフで111歳なんです! て言っても信じる人間はまずいない。


「アーシャもな。オレたちの世界は平和なんだ。そこら辺に武器屋はない。くれぐれもヘンなこと口走るなよ?」


「う、うむ」


 そして2人を連れて帰宅すると、リビングへ案内した。


「ただいま~」


「お帰り陶冶……って、何その幼女!? まさかあんた……誘拐したの?」


「するかボケ!」


 リビングで相変らず腐っていた姉ちゃんが、レリアとアーシャを見てとんでもないことを口走った。


「お帰り兄ちゃん~。借りてたマンガ返すね~って、何その幼女!? まさか兄ちゃん……誘拐したの?」


「するかボケ!」


 マグカップを持って台所から現れた妹が、レリアとアーシャを見てとんでもないことを口走った。


「お帰り陶冶……母さんは今日、高校時代の友達と温泉に行って帰ってこないぞ。って、何その幼女!? まさかお前……誘拐したの?」


「するかボケ!」


 今度は洗濯物カゴを片手に持った親父が庭からガラス戸を引いて入ってきて、とんでもないことを口走った。


 もうやだこの家族。


「ていうか、全員同じこと言うんじゃねえ! オレをなんだと思ってるんだ!」


「「「最愛の家族に決まってるじゃない」」」


 うん、ありがとう……素直に嬉しいよ。でも、みんな一斉に携帯片手に持って、どこへかけようとしてるんだろうね?


「あの。お姉さまは、いらっしゃらないのですか?」


 レリアがリビングの片隅で、遠慮がちにそう聞いてくる。


「ああ。どうやら今日はいないっぽい。ごめんな。代りに姉ちゃんと妹がいるから、これでガマンしてくれ」


「ちょっとー。何よその言い方! お姉ちゃんをなんだと思ってるのかしら、この子は!」


「最愛の家族に決まってるだろ」


 不服そうにする姉に向ってオレは、しれっと答えてやった。


「ねえ、その子お名前は? 銀色の髪に長い耳って、まるでエルフじゃん! このコスもレベル高いよねー」


 妹はレリアに興味を持ったのか、レリアの頭をよしよしとなでる。


「はい、エルフです! 異世界から参りました! 得意な魔法は回復の魔法と、雷系統です!」


「あはは、やだー。この子面白い!」


 レリアは頭の上にクエスチョンマークをいっぱい浮かべている。


 妹のほうは、レリアの自己紹介を冗談と受け取ったのか、ケラケラと笑い飛ばしていた。


「こっちのツインテールの子、ずっと黙ってるけど。この子は?」


 姉ちゃんがアーシャに近付くと、アーシャの頬に触れようとする。


「ワシに触れるな、小娘」


 が、アーシャは姉ちゃんの手を払い、むすっとした様子で顔を背けた。


「あ」


 姉ちゃんは振り払われた拍子に、持っていたBLマンガを床に落としてしまう。


「む? これは……」


 アーシャは足元のBLマンガを手に取ると、パラパラとめくり始め……。


「な、なんだこれは!? 異世界では男と男がこのような……む、むおおお!? 信じられん! あ、あ、ああああ!?」


 なんだか知らないが、BLに興味を持ってしまったようだ。


「その年でBLに目覚めるなんて、将来有望ねこの子。いいわ、気に入った! あなたにBLのなんたるかを叩き込んであげる! 陶冶! この子は私の弟子にするから!」


「は? お。おい。ちょっと待て!」


 姉ちゃんは有無を言わさずアーシャを小脇に抱え、階段を駆け上がっていった。


 ……とりあえず、親父に許可とっておくか。

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