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魔神器と聖王剣

「トウヤ。ありがとうございます。ふふ、本当にお母さまに……ユリコに似ているのね、あなたは。男の子は母親に似るというのは、よく聞く話だけれど……まさか受け答えまで親子そろって同じだとは、思ってもみなかったわ」


 ちなみに、ユリコは母さんの名前だ。田中百合子がフルネームのちょっとぼんやりした母親だ。まさか、先代勇者とは思わなかったけど。


「母さんも、同じことを?」


「そうよ。今のあなたと同じ様に、この場所で私に同じ事を言ってくれたの。いい息子を持ったのね、ユリコは。私も、あなたみたいな息子が欲しくなってしまったわ」


 シャリンさんはオレの目の前にやってくると、オレを抱きしめてきた。


「え?」


「トウヤ。どうかあなたに神様のご加護がありますように」


「は、はい」


 さっきまで邪なことを考えていたのに、シャリンさんに抱きしめられても不思議とそういう感情はわかなかった。


 シャリンさんはオレから静かに離れると、同じ様にアリスときらりも抱きしめる。


 そして彼女は再び話し始めた。


「魔王城はここからはるか北の大地にあります。しかも、周囲は魔王が展開した次元魔法の結界によって守られており、物理的な攻撃も魔法による攻撃も一切を受け付けないのです。トウヤ。もしかしたら考えていたのではないですか? ここから魔法を使って魔王を城ごと吹き飛ばしてしまおう、と」


「あ……はい。でも、どうしてそれを?」


「ユリコも同じ事を考えたからです。というか、実際にあの子はそれを実行して、魔王城に直撃させるどころか、ドワーフの鉱山をひとつ丸々おじゃんにしてしまったのですよ。幸い死傷者は1人もいなかったのですが……」


 母さん、若い頃は随分やんちゃだったんだな。


「魔王城の次元結界を解くには、三方向から強力な魔力で干渉するしかありません。25年前もそうしてユリコたちは決戦に臨みました」


 この前アリスが言っていた魔王城の封印か。


「ただ……そこから先が問題なのです。魔王は並みの強さではありません。あなた達が全力で挑んでも、瞬殺されてしまうかも……」


「でも……オレはそれでも……勝ちます」


「ふふ、そうですね。ですから、旅の間に各々の力を磨くのです。トウヤ、あなたは今まで以上の魔力を得ることと、他系統の魔法の習得。きらりは基礎体力の向上と、闇魔法の習得を。そして、アリス」


「はい」


「酷な言い方をしてしまいますが……あなたが一番の問題です。今のあなたでは魔王と対峙する以前に……四天王にすら勝てない」


 シャリンさんは射抜くような瞳でアリスを見た。


「……わかってます、そんなこと……」


 アリスは唇をかみ締めて、その視線に耐える。


「あなたは3人の中で唯一の物理攻撃を担う剣士。強くなる事は、己を鍛えるだけではありません。四天王は魔神器と呼ばれる4種の武器を持ち、その系統の武器を極めた百戦錬磨の猛者達」


 シャリンさんはチラリと、黙りこくったままのアーシャを見た。


「アーシャの持つ、赤龍と白龍の力を見たでしょう? 普通の武器では話にならないのです。そこでまず、ランドール聖王国に向かいなさい」


「ランドール聖王国?」


「ここから北にある、ちょうど魔王城への旅路の途中にある国です。ただ、今は……滅んで廃墟になってしまったと聞いていますが。その王家には代々、神をも殺すと呼ばれる剣が伝わっていました。名は聖王剣。魔神器に匹敵する武器です。それを探し出すのです」


「そう簡単には行かんぞ」


 アーシャは会話に割って入るように、オレとシャリンさんの間に立った。


「ランドール聖王国には、魔王軍四天王の1人、蒼炎のバルバトスが駐留している。行けばまず間違いなくあいつと戦うことになるだろうな」


 蒼炎のバルバトス。なんだか、強そうな名前だぞ。ていうか、赤白のロリコーンより段違いにマトモでかっこいい。


「今何か失礼なこと考えなかったか!?」


「いや、別に」


 アーシャめ、するどいな。


「あいつの魔神器は斧。一撃で山を砕く力バカだ。聖王剣を見つける前に殺されなければいいがな。……は!? い、いや、別に心配とかしてるワケじゃないからな! いざとなったら、ワシが盾になってやるから心配するなと言う話がしたかっただけで……」


 もろに心配してくれてるじゃん。


「アーシャちゃん、ありがとー!」


「おわ!?」


 と、ツンデレ四天王にアリスが抱きついて、さっきまでのいい感じに緊張した空気は、どこかへ吹き飛んで行った。


「次の目的地はランドール聖王国、ってことで決まりだな。よし、それじゃさっそく出発しようぜ?」

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