決意の日
何とか話しの流れを変えようと思ったのだが、シャリンさんのおっぱいが視界に入ってそれどころじゃない。
「ふふ……どうやら、25年前と同じで、勇者様がたは非常に仲がいいようですね」
「あ、そうです! シャリンさん。オレ達、シャリンさんのおっぱ――じゃなくてお話が聞きたくて」
やばいやばい。もう少しでおっぱいもみたくて、って言うところだったよ、オレ。
「こちらもそのつもりでした。勇者様たちも、疑問を残したまま旅立たれるのは不安でしょうから。さあどうぞ、何なりと聞いてください」
まず最初に浮んだ質問が、胸をもんでもいいですか? だったので、もう一度考え直し、次に浮んだ質問が胸を触ってもいいですか? だったので、もう一度考えてみたら、おっぱいくださいにたどり着いたので、オレは結局25年前のことを聞くことにした。
「25年前のこと、ですか……そうですね。25年前、この世界は魔王によって壊滅寸前のところまで来ていました。世界中にあった人間の王国は次々と占領され、逆らう者はようしゃなく殺され、まさしく暗黒の時代だったのです」
シャリンさんは背中を見せると、再び続ける。
「侵略の魔の手は人間の王国だけに止まらず、ドワーフや獣人、そして我々エルフにまで及び、まさに世界は闇に染まったのです。この世界をほぼ支配した魔王が次に考えたのは異世界をも手中に収めること……そう、あなたがたの世界への侵略です」
「え? そ、そんなことが……」
アーシャの話し通りだ。25年前、魔王はオレたちの世界を侵略しようとしていた。
「……」
「ん?」
非常に驚いた様子のきらりとは対照的に、アリスは真剣な眼差しでシャリンさんの話しに耳を傾けている。
「この森の奥にあった教会、あれは魔王が異世界侵略するための拠点だったのです。占領した各地にあの教会は設置され、最初の起動実験はこのエルフ村……すなわち、あなたがたがやってきた、あの教会で行われたのです。実験は成功し、見事あなたがたの世界へつながりましたが、そのとき偶然迷い込んできた3人の少年少女によって、運命は変わったのです」
「それが、先代勇者ですね?」
「はい。彼らによって魔王軍に占拠されていた各地の王国は解放され、世界に光が戻りました。そして、ついに魔王を封印しこの世界を救ったのです。それから25年。あのときの少年達の息子や娘がこうしてまた我々の前に現れた。もはや、これは運命としか言いようがない」
「え? それってもしかして」
シャリンさんは振り返ると、オレ達3人の顔を見て、母親のように慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
「トウヤ。あなたのお母さまは、とても強く、優しく、美しい少女でした」
「はあ!? 母さんが……先代勇者!?」
「お母さまに似て、とても大きな魔力と優しい心を持っているのね、あなたは」
母さんが、先代勇者? じゃあ、セーブポイントを田中のみが入れるようにしたのも、母さん?
「トウヤさまが、お姉さまの息子……なんだか、不思議です!」
レリアが目を丸くして、オレの顔を凝視してくる。
「アリス。あなたのお父さまはとても勇敢な少年でしたよ。今のあなたのように剣を振るい、体を張って皆を守ったのです」
「パパが……そう、ですか……」
アリスは力なく頷くと地面を見て黙りこくった。どうしたんだ、急に元気がなくなったけど。
「どうしたアリス。気分でも悪くなったのか?」
「ん。ううん。大丈夫、なんでもないから、ね?」
アリスは無理矢理作ったような笑顔で、力なく胸を張る。
「きらり。あなたのお父さまはとても明るくて、仲間想いで、楽しいことが大好きな人懐っこい少年でした。あなたもお父さまに似て、明るくて、仲間思いで優しいのね」
「え、えへへ。私、お父さんに似て、明るくて仲間思いなんです、へへへ」
仲間思いのやつはRPGぶっ放すとか言わないよ、きらり。
「私、明るい子って言われちゃった……ククク。仲間思いだし、へへへへ」
シャリンさんもヨイショしすぎでしょ。これ明らかにイメージ正反対じゃん! めちゃくちゃ邪悪な笑み浮かべながら思い出し笑いしてるし。
「25年の時を経て、先代勇者達による封印は解かれてしまいました。情けないことにこの世界に住まう我々には、魔王に対抗できる力を持つ者はおりません。人間達の王国も、先の戦争の爪あとが深く、今を生きるのに精一杯なのです。助力を得ることは困難でしょう。だから、謝らせてください。ごめんなさい。年端も行かぬ少年たちにすべてを押し付ける大人の非力さを」
シャリンさんは真剣な眼差しでそう言うと、さらに頭を下げた。
「そして、私達の世界を、ヴァーンガルドを、どうか、どうか……救ってください」
シャリンさんのその言葉は、オレの心の爆薬に火を点けた。
今まで勇者かっこいい! 冒険は男のロマン。みたいに軽い気持ちで考えていたけど……今は違う。
本当に心の底から、この世界を救いたいと思った。
この世界に生きる人々を、レリアの笑顔を、守りたい。アーシャのような魔族と人間が共存できる世界を作りたい。
やれるかどうかなんて解らないけど、そうしたいと思った。
母さんだって25年前に同じことをやったんだ。息子のオレにだってできるはずだ。
それにオレには、こんなに頼りになる友達が……仲間がいるじゃないか。
アリス、きらり、レリア、アーシャ。
「シャリンさん、顔を上げてください。この世界のことは、オレに任せてくださいよ? まだガキのオレには世界がどうとかなんて、小難しいことは何も解りません。けど、この世界を守りたいんだ。それは誰かにお願いされたからとかじゃなくて、お金のためでも名誉のためでも何でもない。だってオレは」
やってやるさ。魔王をぶっ倒してこの世界もオレたちの世界も救う。ハッピーエンドの大団円で、エンディングを迎えてやるさ。
「オレは勇者。勇者田中陶冶だから」




