おっぱいとRPG
それからアーシャを連れきらりの元に戻ると、アリスとレリアがいつの間にかいた。そういえば、この家はレリアの自宅なのだろうか。
アリスはレリアと一緒に野菜を取りに行っていたのか、ニンジンやらじゃがいもが入ったカゴを足元に放り出して、オレに駆け寄ってくる。
「陶冶くん! よかったー、元気になったんだね! 嬉しいよ! よかったよー」
瞳に涙をいっぱい貯めて、今にも泣き出しそうな顔でアリスが笑う。
その顔にドキリとした。嬉し涙を流されるのなんて、初めてだ。
なんだかこう、妙に胸の奥がむずがゆいというか。いや、単に照れているだけだな。オレが嬉しすぎて。
「アリス、落ち着けよ。オレは大丈夫だから」
「うん、うん。よかったぁ」
本当はこの雰囲気を利用して、アリスを抱きしめてやろうかと思ったけど、すぐ近くに闇属性オーラをスタンバイしているきらりがいたので、話題を変えるためアーシャを前に出した。
「それよりもいいニュースだぞ! アーシャがオレ達に強力してくれることになった。オレたちの仲間になってくれるんだ!」
「ええ!? アーシャちゃん。本当?」
「うむ。ワシはこの男に敗れた身だ。敗者が勝者に尽くすのは当然――むを!?」
「アーシャちゃんゲットー! むふふ。アリスさんがたくさんたっくさん、可愛がってあげますからね? 逃がさないもんねー、だ!」
アリスはアーシャに抱きついて、頬ずりした。
「レリア達にとっては複雑な心境かもしれないけど……」
レリア達にとっては、村を襲った憎むべき相手だ。彼女らにしたら、面白くないのかもしれない。
「確かに魔族は信用なりませんが……トウヤさまが決めたことですし、なにより……全ての魔族が悪というワケでもないのかもしれません。それに、お姉さまも言っていました。罪を憎んで人を憎まず、と。だからわたくしは、アーシャさんを信じてみようと思います!」
「そうか」
レリアはいつも通りの元気な笑顔を見せると、オレの手をぎゅっと握った。
そこにアーシャの悲鳴と助けを求める声が聞こえて来る。
「や、やめよ! おい! そこのエルフの小娘! この女をなんとかしてくれ!」
「アーシャさん、おかわいそうに。アリスさまは抱きつき魔なので、諦めるしかないですね。よかった、新しい生贄がみつかって」
幼女が幼女に助けを求める光景はなかなかシュールだ。
レリアはアリスに抱きつかれるアーシャに笑顔で手を振ると、今度はオレの手を引っ張ってくる。
「トウヤさま。長老がお呼びです。前回のお礼と今回のお礼も兼ねて、お話があるそうですよ」
「わかった。オレも聞いておきたいことがある」
この世界の事。そして、25年前の戦い。先代勇者。
今のオレ達は、知らないことが多すぎる。それら1つ1つを解消して、少しづつ前に進むしかない。
「おいアリス。アーシャを離してやれ。長老の所に行くぞ! ほら。きらりもだ」
アリスときらり。それに、レリアとアーシャを連れ、長老の元へ向う。
「長老は、世界樹の根元で皆さんを待っています。わたくしが案内しますので、付いてきてください!」
「ああ、わかった。にしても、世界樹ね……。つくづくRPGみたいだな」
「あーるぴーじー? 何ですか、それは?」
前を歩くレリアが気になったのか、振り返って尋ねてくる。瞳に宿った光が興味津々ですと物語っていた。
「対戦車バズーカですよ、レリア。 正確には、Ruchnoy Protivotankobyy Granatomyotと言って、その頭文字をつなげてRPGって言うの。バズーカは、この世界で言うとすっごく強くて携行できる大砲かしら? 私も一度でいいから、人に向けて撃ってみたいと思っています。ここでRPGの単語が出てくるなんて……つくづく気が合いますね、田中さん」
きらりがオレに代ってレリアに答えた。
「きらりそれ違う。とんだRPG違いだよ。ロールプレイングゲームのほう! ていうか、何でそんなこと知ってるんだ。あとオレは人に向けてそんな物騒なことしないからね」
「あ、ええとですね。友達ができたときの為に、必要だと思って覚えておいたんです。よくクラスの男子が、RPGの話をしていたので、何の話かと思ってネットで調べたら、ロシアの対戦車擲弾じゃないですか。そうか、男の子はこういうのが大好きなんだな、って思って」
「いやだからそれ、ロールプレイングゲームだって!」
「それに将来、友達が私を裏切ったら、RPGで吹き飛ばしてやろうと。だって、裏切り者には死を与えるべきでしょう?」
うふふと、きらりは照れながら、裏切り者には死を与えるとか物騒なセリフを吐いた。冗談で言ってないところが恐ろしい。
「ああ、見えてきました。あそこです」
エルフの森とは逆方向の、村の奥を歩いていて数分。
湖の真ん中に、大きな木が立っていた。あれが世界樹か。
世界樹までは橋のような物はない。どうやってあそこまでたどり着くのかと疑問を抱いていたら、レリアが湖面に浮ぶ大きな葉に飛び乗った。
「世界樹の葉っぱです。木の根元までは、葉っぱに飛び乗って行くんですよ! さあ、勇者さまたちも早く早く!」
元気に葉っぱの上を飛び回るレリアを見て、なんだか子供の頃を思い出す。
オレもそれに感化されて、葉っぱの上に飛び乗ってみた。最初は沈んでしまうんじゃないかと思ったけど、そんなことはなくて足場としては充分だ。
「きゃあああああああああああああ!!」
と、声がしたので振り返ると、きらりが葉っぱに飛び乗れず湖で溺れている。
きらりは本当に運動神経が0だな……。
「ひゃっはー!」
それに比べてアリスは跳ねるように足場を移動して、あっという間に行ってしまった。
「おいきらり、大丈夫か?」
裏切ったと思われて、RPGで吹き飛ばされるのは嫌だしな。それにきらりも大事な友達だし、助けないと。
「ダメです! 死んでしまいます! 1人で死ぬのは嫌です! でも、愛する人と一緒なら、構いません!」
と、トンデモナイことを言って、きらりは手を差し伸べたオレを水中に引っ張り込もうとする。
「おおおおおおおお!?」
「まったく、何をやっているのだ」
そう言ってきらりを助けてくれたのは、アーシャだった。しかもそのままきらりをお姫様だっこして、レリアたちの元へ運んでくれた。
残されたオレも急いで彼女達の元へ向い、全員が世界樹にたどり着いた。
「へっくし!」
きらりはぶるぶると震え、びしょ濡れだ。かわいそうになったので、とりあえず制服の上着を脱いできらりに着せてやることにした。
「ほら、きらり。風邪引くぞ」
「田中さん……嬉しい。ああ、田中さんの香りがする……まるで、田中さんに抱かれている気分……溺れてよかった……もう死んでもいい」
「簡単に死ぬな」
きらりはオレの制服の匂いをくんくんかいで、夢の世界へ旅立った。大丈夫か、こいつ。
「ようこそおいでくださいました。勇者様」
声がして前を見ると、そこにはエルフの若い女性がいた。エルフ=貧乳という先入観があったのだが、オレにエルフ=爆乳という新しいイメージを植えつけるに充分なおっぱいがいっぱいな状態だった。いや、意味がわからないのは認めるけど。
「私はエルフ一族の長、シャリンと申します。以後、お見知りおきを」
「え? この爆乳金髪美女が、長老!?」
長老っていうから、てっきりヨボヨボのおじいちゃんかと思っていたのだが……いい意味で期待を裏切られたぜ。
「はい! そして、わたくしの叔母様なのです!」
と、レリアが補足してシャリンさんの隣に移動する。
「どうです、勇者さま。世界樹は大きいでしょう?」
と、シャリンさんがオレの目の前にやってきてそう言ったので、オレは震えるおっぱいを見て、
「はい、顔を埋めたくなるくらい大きいですね」
と言った。
「まあ。そんなにお気に召されたのですか?」
「はい。昔から大好きでした。あの、触っても良いですか?」
「ええ、もちろん。でも、乱暴にしてはだめですよ? 幾分、デリケートな物なので」
「心得ております」
シャリンさんの胸に手を伸ばそうとしたら、移動されてしまい、オレは結局言葉通り、世界樹に顔を埋めるように突っ込んでしまった。
「いてえ」
「あらあら? 大丈夫ですか?」
顔を上げて立ち上がると、シャリンさんは上品な笑みを浮べ、乳を強調してきたかと思ったがそれはオレの勘違いで、手を差し伸べてきただけだった。
だが、これはチャンス!
ラッキースケベを狙ってパイタッチを試みたが、アリスときらりがシャリンさんを遮って、それぞれオレの右手と左手をつかんで強引に立たせた。
「陶冶くん、おっきしましょうね」
「田中さん、あとでRPGですよ?」
しかも2人とも最高に不機嫌だ。……調子に乗りすぎたか。




