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魔族の常識は人間の非常識!?

 アーシャはもじもじと、まるでトイレをガマンするように、うつむき加減で恥ずかしそうにしていた。


「いや、四天王って……」


「お前をワシの新たな主として、認めてやろうと言っているのだ! ありがたく思わんか! そ、それとも……ワシのような女では不服か?」


「あ、いや! 頼もしいよ! オレの四天王だもんね?」


 たった一人なのに、四天王? というツッコミはさておいて、こいつの力が必要なのは本当だ。


「じゃあまあ。とにかくよろしく頼むよ、アーシャ」


「うむ。お前に拾われたこの命。存分に使ってくれ。今この瞬間から、ワシの体も命も……全てお前の物じゃ。そして誓おう。ワシ、アーシャ・ロリコーンは、主をいつ如何なるときも守り抜くことを」


 アーシャの真剣な瞳にウソはないと思う。たった一度刃を交えただけの間柄だけど……こいつはウソをつけない、バカ正直でまっすぐなヤツだ。 


 敵側の事情を知る協力者を得られたのは大きいだろう。まだ完全に警戒を解くわけにはいかないが、アーシャは貴重な存在だ。


 魔王城の位置や、魔王の弱点。今はまだそれらの情報を引き出せなくても、いつか話してくれるだろう。


 あと、合法ロリだし。


「何だ主よ? ワシの顔をじろじろと見て……それよりこの縄を解いてくれぬか? 窮屈で仕方がない」


「あ、ああ。ちょっと待ってろよ」


 アーシャを縛っていた縄を解く。


 実はこの瞬間を待ちわびていたのだ、油断したな、勇者よ! ぐははは!


 みたいな感じに裏切られることもなく、アーシャは猫のように大きく伸びをして、あくびをかみ殺した。


 お前のこと……信じてさせてもらおうぜ、アーシャ。


「さて、それじゃ。一度みんなの所に行くか。付いて来い、アーシャ」


 そう言って物置から出ようとしたが、アーシャは一向に動く気配がない。


「おい、どうした? どこか具合でも悪いのか?」


「この物置から動くことはできんのだ。おそらく闇魔法の一種、結界術が施されている。それも超強力なヤツだ。魔族でもここまでの使い手はそうそうおらんぞ。一体何者なのだ、この結界術を施した者は」


 結界術という技術に心当たりはなかったが、思い当たる節ならあった。おそらく、きらりのアレだ。


「あ。あー、あれか……ちょっと待ってろよ。オレが解除してやる」


 オレは物置から出ると、きらりの『どこへも行かないでください』と書かれたノートの切れ端を、引きちぎって破り捨てた。


 まさか、本当にこんな物に効果があるだなんて……きらりは独学で闇魔法を覚えた。というより、天然なんだろうな。ますます持って、田中きらりという女が恐ろしい。


「これで大丈夫なはずだ。出て来いよ、アーシャ」


「うむ……」


 おそるおそるアーシャが物置の外に出てくる。


 そのままきらりの所に戻ろうと思ったが、下腹部に予兆を感じ、オレは立ち止まった。


「すまん、アーシャ。ちょっとトイレだ」


「うむ、仕方がないな」


 きょろきょろと周りを見回すと、公衆トイレっぽい建物を発見した。かなりオレたちの世界の公衆トイレに近いイメージの外観だ。もしかしたら、25年前の勇者が建てさせたのかもしれない。


 いや、今はそんなことどうでもいいな。


 オレはダッシュで男子トイレに駆け込んだ。内装もまた、立小便器がいくつも並んでいるといった、普通の男子トイレっぽい。


 けど、魔法で水が自動的に流れるようにしてある辺り、異世界のトイレという感じだ。


「さてさて、と」


 急いで便器の前に移動して、ズボンを下ろそうとしたところで視線を感じ、オレは動きを止める。


「どうした主よ? なぜ止める」


「なぜお前はそこで見ている! ここは男子トイレだぞ!」


 アーシャがなぜか、発射態勢に入ろうと性剣エクスカリバーを鞘から解放しようとする、オレの隣にいた。


「む? 主になにかあってはいけないと思ってな。無防備な瞬間に、暗殺者に背中を斬られでもしたら大事だ。安心せい。見届けてやる」


「見届けんでいい!」


 無理矢理アーシャをトイレから追い出して用を足すと、外で待機していた彼女に詰め寄った。


「おいこら、どういうつもりだ」


「ワシは主の側に常にいると決めた。魔王様の四天王であったときも、魔王様が食事中も睡眠中もお側に控えていたからな。いつ如何なるときも、主の命を守る。それがワシの使命なり」


「いやいや、まてまて。魔王がトイレに行くときもお前は付いて行ったのか?」


「たわけが! 魔王さまは排泄などいっさいせんわ! おならだってこいだりせんぞ! 人間と同じ次元で考えられてもらっては困る!」


 昭和のアイドルじゃあるまいし、何者なんだ魔王。けど、魔王のおならとかマジ臭そうだな。


「まったく、とにかくだな。オレの身を案じてくれるのはありがたいが、トイレや風呂にまで入ってくるな。さすがにそれは問題だぞ」


「む……主が言うならば、その言葉に従おう」


「ああ、そうしてくれ」


 どっと疲れを感じた。やはり魔族と人間では、物の考え方に大きな違いがあるのかもしれない。いや、アーシャが特別ヘンなだけかもしれないが。


 とにかく、これから先も問題が起きそうだな……気を付けねば。

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