魔王の目的と、オレの四天王!?
「お裁縫も得意ですよ? 針を布に突き刺す瞬間がたまらなくて……ふふ。そうだ。冬になったら田中さんに手編みのマフラー、あんであげますね」
「あ、ああ。楽しみに……しておこうかな」
「いつか、子供ができたら……その子が女の子だったら、私とおそろいのお洋服を作って一緒に出かけたいです。男の子でも、小さい間はスカートはかせちゃおうかな」
きらりは超家庭的な子だな。手編みのマフラーとか……浮気でもしようものなら、マフラーで絞殺されること間違いないだろうけど。
「ああ、そうでした。田中さん、落ち着いたら一度、捕虜の様子を見に行ってくれませんか?」
「捕虜?」
「はい。ロリコーンです。とりあえずこの近くの物置に監禁しているのですが、まったく口を開こうとしないんです……頑固な女ですね。もういっそ、バラします?」
きらりは笑顔のままカッターナイフを取り出して、恐ろしいことを言った。
「いや、オレが交渉してみる。バラすのはダメだよ!」
「そうですか。じゃあ、もしよろしければ私が拷問しましょうか? こんなこともあろうかと、一応色々と覚えておいたんですけど。歯の神経を一本一本抜いたり、焼きゴテで――」
「どんな場面を想定して覚えたのか知らないけど、きらりはここで待っていてね!? ていうか、物置に監禁って逃げ出さないか?」
「大丈夫ですよ。手足はしっかり縛っておいたし、他にも手は打ってありますから」
「ん。そうか、じゃあとりあえず様子を見てくるよ」
なんというか、アーシャが心配になってきた。どんなひどい扱いを受けているのやら。
オレは家を出ると、きらりのいう物置に向ってみた。この一週間の間に魔法で元に戻したのか、エルフ村は以前とさほど変わらず綺麗だ。
「うお。何だこりゃ」
きらりの言う『他にも手は打ってありますから』の言葉通り、物置の四方にはノートの切れ端がセロハンテープで貼り付けられており、そこには赤ペンで『どこへも行かないでください』と書かれていた。
ちなみに、ごめんなさいノート同様『どこへも行かないでください』の一文字で1ページがぎっしり埋まっている。
「……これは軽くホラーだ、きらりちゃんよ……」
オレは物置の入り口に立つと、中に入った。
「……待っていたぞ、勇者よ」
中にはアーシャが手足を縛られたまま正座をして待っていた。どこにもケガをしている様子はない。
とりあえず、大丈夫そうだな。
「ワシはお前に負けた身だ。焼くなり煮るなり、好きにするがいい」
と、どこか悟ったようにアーシャはそう言った。
「まあ、落ち着けよ。お前には色々と聞かなくちゃいけないことがあるんだ。殺したりはしないさ」
「ほう? 聞きたいこと、とな?」
アーシャはにやりと笑い、オレを見る。
「まずはお前達について。魔王軍四天王っていうことは、少なくともあと3人。お前と同じかそれ以上の相手がいるわけだ。他の3人のことを教えてくれ」
「まあ、いいだろう……ワシを含め四天王は、それぞれ固有の武器を極めた武人だ。斧、槍、弓を扱い、見た目も全員10歳前後の少女である」
「何、それマジで!?」
「マジだ」
アーシャは即答した。
魔王め、なんてうらやま――いや、まてまて。これはアーシャのウソかもしれない。わざとニセの情報をリークしてこっちをかく乱する狙いなのかも。
「ちなみに、何で全員10歳前後の少女なんだ? 何か理由があるのか? 例えば……そう、相手の油断を誘うとか」
まさか、魔王の趣味とかいうわけないよな?
「魔王様の趣味だ」
魔王め、ロリコン四天王かよ!? 残りの四天王と戦う瞬間が待ち遠しいぜ……。
「勘違いしているようだが、魔族にとって美の判断基準は、どれだけ幼く見えるかだぞ」
つまり、魔族は全員ロリコンってことかよ。変態種族だな。
「じゃあ、今度はその魔王様について答えてもらう。魔王とは……何者だ? 一体何を企んでいる」
「魔族の王にして、永遠不滅の存在。この世界とお前達の世界を統べるに相応しい存在だ」
「え?」
オレたちの世界?
「魔王様の言葉を忘れたか? 世界を半分お前にやる、と言っただろう。あれは片方の世界をという意味だ。この世界とお前達の世界。その2つを手中に収めんとあの方は動いておられる」
「オレたちの……世界もだって?」
「左様。この世界に存在する、世界の境界を越える教会……あれはもともと25年前に、魔王様が次元魔法を使い、建設された異世界侵略の為の施設だった」
セーブポイントのことか。あれを作ったのが、魔王本人だって?
「だが、その施設は異世界人どもを呼び込んでしまい、そやつらは並々外れた魔力を持って我が軍に刃向かった。それが先代勇者だ。そして、先代勇者たちによって魔王様は封印され、施設も勇者達によって改変された。その後、時の経過によりほころびが生じ、魔王様は封印から解放され、施設も再び動き出した、といったところだろう」
25年の時を経て、再びか。
「ワシが言えるのはここまでだ。さあ、早く殺せ。これ以上の生き恥をさらしたくはない」
アーシャは悲しそうな瞳でそう言うと、うつむいた。
「……お前を殺すつもりなんてないよ。もう二度と人間に危害を加えないって言うなら、解放してやってもいい」
「何だと?」
「反省しているヤツを殺してどうなるっていうんだよ。本当に反省しているなら、生きろよ。生きて今まで人間を苦しめてきた罪を償え」
「……そんなことを言われても、ワシにはどうしたらいいのか皆目検討もつかん……」
「だったら、オレについて来い」
「何?」
「この世界とオレの世界を守るために、お前の手を貸せ。そう言ってるんだ」
「魔族が人間に手を貸すだと? バカな。ワシは魔王軍四天王の1人だった女だぞ。それを受け入れるというのか?」
「ああ。少しでも戦力が欲しいし……なにより」
「む、何だ?」
「お前可愛いしな」
「はあ!? か、かかかかかかか!!」
「何だよ、ヘンな笑い方するなよ」
「可愛いって、いうなああああ!! ワシは四天王だぞ! 魔族だぞ!」
アーシャは真っ赤になってそう叫ぶと、オレに背を向けた。
「……まあ、いいだろう。魔族にとって強さは全てだ。敗者は勝者にすべてを捧げなければならん。魔族の女が男に負けたときは、生涯をかけてその男に奉仕するという掟がある!! それに、魔王様の所に戻っても、処刑されるだけの運命だ……だから」
「だから?」
アーシャはオレに振り返ると、完熟リンゴみたいに真っ赤な顔で叫んだ。
「ワ、ワシが……お前だけの四天王になってやっても、よいぞ?」
「は?」




