炸裂! 火炎剣フランベルジュ
「行くぜ……合法ロリ!」
オレは右の掌をアーシャに向けた。小さな火花をイメージする。マッチ棒を、箱にこすり付けた時に生じる程度の火花を。前回の経験を踏まえてのことだ。
イメージを最々小限に……放つ!
オレは叫んだ。
「行け、フレイムアロー!」
右の掌から紅蓮の矢が生まれる。そいつはオレから解き放たれると、獲物に食らい吐く竜が如く、アーシャの鎧目掛けて飛んでいった。
飛来するそれは、まるで巨大な三つ首竜。絶対防御だかなんだか知らないが、こいつはどうだ?
「ぬ!?」
アーシャの体が炎の竜に食われる。直撃した。
だが、威力を抑えすぎたらしい。依然健在のようだ。加減が難しいな。全力でブ放っせば全てに片が付くが、全てが終わる。
こんな村の中で、山を吹き飛ばすような魔法は使えない。だったら……!
「ぬるいな。この程度の炎。魔王様に比べれば、火山のマグマと降りかかる火の粉のような物。これがお前の限界か?」
炎を振り払い、何事もなかったように笑うアーシャ。1000歳とはいえ、見た目は幼女だ。子供にバカにされているみたいで、そこそこ腹が立つ。
だが、抑えろ。冷静になれ。
「まさか。小手調べだよ、小手調べ。一番うまい物は最後に食う主義なんだ、オレは」
「ならば今のは前菜か。さっさとデザートを出さぬと、死ぬぞ? もっとも……メインディッシュまでお前が生きている保証などないがな」
あれを食らって無傷。まあ、これぐらいは想定内だ。ぶっつけ本番だが、魔力の加減を知るいい練習台になってくれそうだ。
オレのほうもまだ余裕がある。序々に威力を上げて、魔力コントロールの経験値を積ませてもらうぜ、アーシャ。
「何だ。最初の威勢はどうした? 来ないのならばこちらから行くぞ、小童!」
アーシャの手甲が、ムチのような刃を形成する。アリスをやったときのアレか。ていうか、ロリに小童言われたくねえ。
「死ね、小童!」
「死なねーよ!」
オレは即座に、今にも消えそうなロウソクの火をイメージした。
防御系の火炎魔法。よし、これだ。
「ヒートシールド!」
左の手から巨大な炎の盾が生まれる。盾っていうよりも、壁のほうが正しい。物理的な盾と違って強度や厚さはないものの、数千度の熱という立派な防御兵器だ。
「これで!」
アーシャの攻撃が来る。バカ正直に正面からか。
ムチの刃がオレの盾に触れた瞬間、じゅじゅっという鉄が溶けるような音がして、嫌な臭いがした。
オレの体に到達する前に、蒸発したらしい。
「赤龍が、溶けた……だと!?」
アーシャが非常に驚いた様子で、溶けてなくなったムチの先端を見ている。
よし。防御はこいつで決まりだな。
「だが! それがどうした!」
溶けてなくなったはずのムチが、どんどんと再生される。本体を叩かないとジリ貧だ。オレのほうも炎の盾の形成で、少し辛くなってきた。
このまま盾を展開させ続ければ、アーシャの攻撃をしのげるが、勝てない。
そうだ。勝たなければ。アリスのためにも。この村のエルフたちのためにも。
次はどう仕掛けるか?
そう思案していたところに、アリスの折られた剣が視界に入った。あれだ……あれを使おう。
あれなら威力最大かつ、範囲を限定した攻撃ができる。
オレはほとんど柄のみになった剣を右手で拾い、盾を解除した。
「血迷ったか? 刃のない剣なんぞを拾って。異世界人とは、つくづく面白い連中ばかりだな」
「血迷ってなんかいないさ。ちょうど都合がよかったんだよ。魔王軍四天王の1人、赤白。次で終りにしてやる」
「ほう?」
盾ができたのなら、お次は……剣。炎の剣。
意識を集中する。アリスの剣を空に向けて、イメージする。
燃えたぎる炎を。この手に。
「な、バカか、お前は! そんなもの、そんなものが! 人間如きに操れるものか!!」
世界が赤く染まる。巨大な火の柱が天を貫くようにそびえ立った。
右手が熱い。火傷どころの話じゃない。けど、こいつを離すことはできない。
柄のみとなったアリスの剣。その柄から、炎の刃が上空まで伸びている。何十メートル? いや、百か?
どちらにしろ、これで決める。
アリスの剣とオレの魔法。あいつとオレで、ヤツを倒すんだ。絶対に!
「フランベルジュ……!! あいつを焼き斬れ!!」
オレは右手をアーシャに向けて振りかざした。
「ば、ばかな。魔王様以上に強い男が、この世界にいるはず――」
「ここにいるぜ。お前を負かせた2人目の男がな」
アーシャは炎の刃の中に消えた。彼女の周辺は火の海になっている。陽炎で姿は見えない。
「……勝った、勝ったぞ。アリス……」
オークどもはフランベルジュで発生した炎に慌てふためき、さらに指揮官を失ったことで、散り散りになって逃げていった。
エルフの村人達は解放されると、皆一斉にこちらへやってくる。
「勇者様!」
「さすが勇者様だ! 四天王の1人をあっさり倒したぞ!」
「25年前と同じだ! やはり、異世界の勇者様は我々の心強い味方なんだ!」
駆け寄ってくるエルフ達に手を振ろうとした刹那――そいつは炎の中から現れた。
「よもや赤龍と白龍を失うとは……その上部下にまで見捨てられ、身一つで敵地に置いてけぼりか……ワシも実に運がない……」
「てめえ。悪運強いじゃねーかよ。あれを食らってまだ生きてやがったか……」
アーシャは生きていた。赤龍と白龍の鎧を失い、丸腰の状態であるが、こいつの戦闘力は化け物並だ。
すぐに、もう一撃フランベルジュを――。
「う……」
しまった。魔力を使いすぎた! さっきの一撃で完全にガス欠か。
せめてもう一撃。フレイムアローレベルの魔法が使えれば……。
最後の力を振り絞り、掌をアーシャに向けた。
「お待たせ陶冶くん。お待ちかねの、アリスさん復活だよ」
「アリス?」
傷が癒えたのか、アリスはオレの前に立つとアーシャと対峙する。
「くたばり損ないが。得物も持たずして、何ができる?」
「確かに剣は折れちゃったけど。もう勝負は付いてるよ、アーシャちゃん」
「何?」
アリスはニヤりと笑うと、ビシっと指を差した。
「あなたはもう、死んでいる」
「何をバカな――う!?」
いきなり破裂したのだ。アーシャの……アーシャのスカートが。
「いやああああああああああああああ!?」
そしてオレは見た。異世界の合法ロリがはいているパンツを。
スカートの下に広がるしましま模様は、もはや狙っているとしか思えない。
だが! だがしかし! そこがいい!!
「最初の一撃は、あなたのスカートを狙ったんだよ。それがほころびを作り、衝撃が重なって、見えちゃいました♪」
見えちゃいましたって……アリス、すげえなお前。
「見られた、見られたよぅ……魔王様以外に見られたこと……なかったのに……!」
アーシャは顔を真っ赤にして硬直すると、泡を吹いて気絶した。
なんだこりゃ。1000年以上生きてるクセに、どんだけ純情なんだこいつは。
「あはは~。アーシャちゃん気絶しちゃったあ。……ん!? 陶冶くん陶冶くん!」
「んだよ?」
「今なら何でも好きなことがアーシャちゃんにできるよ? あんなことやこんなことも!」
アリスがハアハアと、荒い息を吐いて詰め寄ってくる。
「やらねーよ!」




