赤白の真の姿+真打ち登場
「体は幼女。頭脳は大人!? すごい……本物の合法ロリだ! これは……燃えてきたよ? アリスさん、やらかしちゃいますよ!」
「何をやらかす気だ……アリス?」
「本気を出していないのは、私も同じだもん。……行くよ!」
アリスは地面に大剣を突き刺すと、瞳を閉じて叫んだ。
「オーバードライブ!」
アリスの体が赤い光に包まれると同時だった。
身体能力を強化する魔法……それはおそらく、自己治癒能力も強化されるのであろう。先ほどアーシャによって付けられたアリスの傷が、みるみる塞がっていく。
「限界っていうのは、超えるためにあるんだよね……! えへへ。一度言ってみたかったんだ、このセリフ。さて、それじゃ始めるようか、アーシャちゃん?」
「面白い……異世界の勇者、アリス。斬り甲斐はありそうだ……!」
どちらから仕掛けたのかは解らない。ただ、気が付いたときには鉄と鉄がこすれ合う音が聞こえていた。
飛び散る火花。早すぎる2つの影。疾風迅雷って言葉は、まさにこの戦いを示すものだろう。
「は!」
「やぁ!!」
気合のこもった2人の声が村にこだまする。一体どちらが優勢なのだろうか。ハイレベル過ぎる剣戟に、周囲はただ見守ることしかできない。
「アリス……!」
加勢するべきか? いや。一対一を受け入れて助かったのはこちらだ。
周囲のオークたちが一斉にかかってきても、なんとか乗り切れる自信はある。いざとなれば、指輪を外して全力で魔法を放てばいい。そうすれば、オレだけは助かるかもしれない。
けれどたぶん、爆発の余波やらで、村人すらも巻き込んでしまうだろう。
このままアリスがアーシャを倒し、指揮官を失ったことで退却してくれればいいのだが……。
さらに一際大きな打撃音がしたかと思うと、2人はつばぜり合いのまま、一進一退の攻防を繰り広げていた。
アーシャの二刀とアリスの大剣が、ギリギリと音を立て、力の拮抗を示している。
「やるな」
「アーシャちゃんこそ!」
――互角。
2人は刃を弾き後退する。ゼエゼエ、と荒い息を吐きながらも瞳に闘志を秘めたまま。
「……スピードはある。ここぞという場面の勝負勘もいい。敵に回せば恐ろしい使い手と言わざるえん……だが」
アーシャはニヤリと笑うと、天を突くように刀を掲げた。
「圧倒的にパワー不足! 見せてやろう。我が刀、赤龍と白龍の……真の姿を!」
アーシャには、もう一段階上があったのか……?
アーシャの刀が……刀身が、まるで生き物のように柔らかく伸び、彼女の体を覆っていく。
「鎧!?」
刀の刀身がそれぞれ右半分、左半分の鎧を形成し、ハーフプレートアーマーになった。
「これが、ワシが赤白と呼ばれる所以である」
赤と白のコントラストの鎧。右半分が赤で、左半分が白。赤白とは二刀ではなく、この鎧の状態のことだったのか。
「この姿で闘うのは、魔王様以外ではお前が初めてだ。……光栄に思うがいい、小娘!」
ズシリ、と重そうな音を立て、アーシャは一歩踏み出した。防御力を向上させた代わりに、スピードを犠牲にしているようだが……。
「遅いよ! それじゃ、斬りかかってくださいって、言ってるようなものだよ!」
アリスが大剣を構え、駆ける。
一瞬姿が消えたかと思うと、アーシャの背後に回りこんでおり、剣を大きく振りかぶった。
アーシャは無防備だ、やれる! 直撃コースだ!!
「いっけえええええ!!」
フルスマッシュ。全力で叩き斬った。示現流のような二の太刀要らずの一撃必殺が、アーシャの鎧にクリティカルヒットする!
「赤白の絶対防御を破れるとでも思っているのか? 愚かな」
だが。
「そんな……」
アリスの剣が……真っ二つに折れていた。
当然ながら、アーシャの鎧は無傷だ。
「この鎧を破壊し、ワシを負かすことができたのは過去に1人だけ……魔王様以外にはおらん。ワシに勝つこともできぬ非力な輩が、魔王様を倒そうだなどと……異世界人は笑いにも長けているのか! フハハハハ!」
「まだ、まだ負けてないもん!」
アリスは申し訳程度に刃がくっ付いた剣の柄を拾うと、再びアーシャに切りかかった。
「愚かな小娘だ」
「きゃ!?」
アーシャの右手の手甲が、ムチのような刃を形成し、アリスを貫いた。
貫い、た?
「ぁ……」
アリスはひざまづくと、そのままうつ伏せに倒れてしまう。
「アリスーーーー!」
急いでアリスに駆け寄り、抱き起こす。
「大丈夫か、アリス!?」
「ん。……うん、大丈夫。このくらいの傷……すぐふさがるよ」
力なく笑うアリス。言葉通りすぐに自己治癒能力が活性化され、傷口が塞がっていく……が、やはり重症の為か治りが遅い。
「ごめんね、陶冶くん。誘った私が、こんなので。ごめん……ね」
「もういい、しゃべるな。お前はそこで回復を待て」
「陶冶……くん?」
「後はオレがやる。あいつを倒してお前のカタキをとって、レリアを取り戻す。見た目なんかにだまされるもんか。やってやるさ」
オレはアリスの頬をなでると、アーシャを見た。
「所詮は異世界人。魔王様の寵愛を理解できぬ野蛮猿。そこの小娘は、さらに頭の悪いガラクタではないか。お前も――」
「黙れよ」
「何?」
「教えてやるぜ合法ロリ。オレを怒らせた今この瞬間が……お前の死亡フラグだ!」
オレは、指輪を抜き取った。
まるで重い荷物を降ろした後のように、体が軽い。力が溢れてくる。
今なら神でも悪魔でも魔王でも、何だってぶっ飛ばせそうだ……!
「その魔力は……魔王様と同じ……いや、それ以上の!?」
アーシャが震えている。強いからこそ、相手の力量が解るのだろう。
だけど、相手の力量がどうとか、今はそんなのどうでもいい。
高校に入って初めて出来た大切な友達なんだ。性格はヘンだけど……可愛くて明るくて良い子なんだ。
そんなアリスを傷付けたんだ。相応の返礼をさせてもらうぜ!




