赤白VS田中勇者
アーシャが二刀を構える。先ほどまでの頼りない幼女はどこへやら……身を引き裂くような闘気を放ち、赤白の名に恥じない四天王振りだった。
ジリジリと空気が張り詰めていく。立っているだけでも体力を奪われているみたいに息苦しい。対峙しただけで解る。
……こいつは強い。武道の心得がないオレでも、直感的にそう判断した。
だが、オレには魔法がある。伝説級だかなんだかの、トンデモパワーが。
マニア受けしそうなジジイ言葉の幼女相手に、負けるかよ。
この世界を守るって決めたんだ。オレが相手になってやるぜ!
「ただの幼女じゃないってワケか……いいぜ、オレがお前をやってやる……! 楽しませてくれよ? アリス、きらり。お前達は下がっていろ」
「陶冶くん陶冶くん」
魔法を使おうと集中しかけたとき、アリスが後ろからオレの肩をポンポン叩いてきた。
「ん? 何だ、今いいとこなんだ、邪魔するな」
『ただの幼女じゃないってワケか……いいぜ、オレがお前をやってやる……! 楽しませてくれよ?』
アリスはスマホを印籠のようにオレの目の前に突き出し、どこかの危ない人の妄言を再生している。
「ひゃあああああああああああ!! やめて! いますぐ消して! それ割りとガチで犯罪者のセリフだから! おまわりさんこっちですだから! ちゃんと状況を補足して! 目の前に凶器持った危ない幼女いるんだから!」
どこの性犯罪者だよ! これじゃオレが幼女を襲うみたいじゃないか! しかも『何が楽しませてくれよ?』だよ! 楽しめねーよ! セリフだけってマジやばい。ていうかこの状況だと、オレがロリコーンじゃね!?
「あはは。大丈夫大丈夫。さすがにこれはやばいから、消しとくね!」
「うん。ありがとう……」
アリスはスマホを操作すると、オレの前に出た。
……よかった。オレ、社会的に殺されるところだった。さすがに連続再生とかされたら、オレのライフは0よ。
「陶冶くん。ここは、このアリスさんに任せて欲しいの。アーシャちゃんとは……私がやる」
アリスは不敵に笑うと、大剣を装備して構えた。
「ほう?」
それを見たアーシャも、唇を歪ませて笑う。
「丸腰の陶冶くんじゃ、相性が悪いんじゃないかな? 接近戦になれば、魔法は不利だよ。だから、私がやるよ」
「そうか……そうだな」
アリスはオレの手をそっと握り、可愛らしい笑顔を浮かべた。
「陶冶くんばかりに、危ないことを押し付けたりしないから。同じ田中同士なんだから、ね?」
オレのことを心配してくれているのか。アリス……。
「ああ。わかった。……けど、無理はするなよ? お前はオレの大切な……友達だ」
「ん……友達か。まだまだ私は陶冶くんルートに入る手前、共通ルートっていうわけだ。大丈夫、私は死なないよ。陶冶くんルートに入って、エンディングを迎えるまで」
「は? 何言ってんだお前」
「それじゃ、行って来るね!」
アリスはりりしく笑うと、背中を見せ闘気をみなぎらせる。セーラー服姿の女子高生に巨大な剣。そのミスマッチな光景は、力強く、美しかった。
アリス……負けるなよ。
「行くよ、アーシャちゃん! 正々堂々、一対一で勝負!」
「ほう? よかろう。ワシとお前の一対一。ワシも武人だ。この勝負。誰にも手は出させん……来い、小娘!」
「小娘じゃないよ、アリスさんだよ!」
一気に間合いを詰めたアリスは、アーシャに切りかかった。
「む!?」
巨大な鉄の塊が、アーシャの小さな体に襲い掛かる。
アーシャはそれを正面から受け止めようとせず、横に飛んで回避した。
「この小娘……できる! さすがは異世界の者」
「まだまだぁー!」
第一撃をかわされたアリスは、今度は体を一回転して横に薙いだ。凄まじい物理エネルギーを内包したその一撃は、威力、スピードともにさっきの攻撃の比ではなく、アーシャに直撃する。
「むう!?」
勝った。だが、そう思った一瞬の気の緩みが、アリスにスキを作った。
「きゃ!?」
さっきの一撃はアーシャに確実にダメージを与えていたものの、致命傷じゃない。
魔族は人間よりも頑強な体を持つのか、常人であれば死んでいたであろう一撃を食らいながらも、アーシャは二刀でアリスを突き、反撃を仕掛けてきたのだ。
そして、土ほこりにまみれながらも、嬉しそうに笑う。
「やりおる! これほどまでに血湧き肉躍るのはまっこと、1000年振り! 久方ぶりに赤龍白龍を血で汚すに相応しい相手と、見えることができた!! この時ばかりは神とやらに感謝してやってもよい!」
幼く小さな体を震わせ、豪快に笑うアーシャ。
アリスのほうはかすり傷で済んだようだが、動揺が激しい。四天王の1人が本気を出した。つまり、ここからが本番ってわけだ。
「そうか。つまりヤツは……」
「そんな。それじゃあの子……」
オレとアリスは同時にその事実に気付くと、声を上げた。
「今まで本気じゃなかった……のか!?」
「合法ロリ……ていうこと!?」
うん、確かにそうだね。1000年振りだとか言ってたから、きっと1000歳は越えてるよね。けどそんなこと今はどうでもいいでしょ、アリスさんよ。




