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ヤツは四天王の中でも最弱よ!?

「田中さん……はい! 嬉しいです。そんなプロポーズ、初めてです!」


 きらりが夢見る乙女光線を瞳から発射してくるので、それを横に飛んで緊急回避する。


「いやプロポーズじゃないから」


「ふふ。ここは田中さんと私だけの世界。私達の間に男の子の兄弟が生まれたら、上の子が璃緋斗(りひと)。下の子が玲音(れおん)っていう名前にしたいですね。それでね、パパと息子たち3人でボール遊びして、私はそれを後ろからお弁当の用意しながら見守るんです。……ふふ。上の子はパパに似て、下の子は私に似てるんですよ、きっと」


 相変らず子供の名前キラキラしすぎだよ! 後誰がパパだよ。


 ……でもまあ、この場面だけ切り取って見れば、きらりは結婚や子供に憧れる純粋で優しい女の子に見えるかもしれない。


「でも、私を裏切ったら許さないの……ククク」


 そう、あくまでこの場面だけ見れば。結婚は人生の墓場とかいう言葉があるが、きらりと結婚したら、人生どころかマジもんの墓場に行きそうで怖い。


「それにしても……本当に……異世界なんですね……ステキな場所ですね、ここ」


「あんまり遠くに行くなよ、きらり」


 旧校舎からこちらの世界にやってくると、きらりはエルフの森をゆっくり歩いていく。


 木漏れ日の中を歩くきらりに、ユニコーンが近付いてきたり、野うさぎがちょこちょことやってきた。


 聖女のような光景だ。幻想的で、それでいて見る者を惹き付ける。黙っていれば絵になる子なんだよな、きらりって。


「うふふ。私が魔王を殺して、この世界を支配してやる……ククク……そして……そして……私と田中さんの子孫が、この世界を統べるのよ! ……ククク!!」


 とか言い出したので、やはり前言は撤回しておく。けど、黙っていれば絵になるのは本当だ。野望を抱く女大魔王かなんかのホラー絵だけど。


 その証拠にユニコーンも野うさぎも逃げ出してしまった。


「なんか魔王を倒した後が心配になってきちゃった……」


 アリスがオレの横に立って、きらりの放つ邪悪なオーラを見てそう言った。


「同感だな。暗黒大魔王きらりが、真のラスボスにならなきゃいいんだけど。きらり四天王とか作りそうでちょっと怖い」


 そんなことを考えていた矢先のことだった。


 耳をつんざくような爆発音と振動が、静かなエルフ森を戦場へと変える。


「な、何だ!?」


 動物達は、鳴き声をあげながら一斉に逃げ出していく。一瞬で森から平和が奪われ、嫌な気配が立ち込めた。


「助けて、勇者さま!」


 声がして振り向くと、エルフの若い女性が息を切らしながら走ってくる。その背後には、鎧と剣で武装した緑色の大きなブタ……ファンタジーでいうところの、オークだ。


 オークは汚らしくよだれを垂らしながら、森を走っている。


 エルフのお姉さんは、そいつから逃げていたのだ。だが、足をつまずけてしまい、地面に倒れてしまった。


「え? 何ですかあれ? ぬいぐるみ? なんだか、可愛いですね……」


 のん気にきらりが小首をかしげている。あれを可愛いと言うか。香ばしい体臭と、ハエとお友達の体は不潔そのもので、触れるだけで精神的なダメージを受けそうだ。


 そんなモンスターに馬乗りされれば、悲鳴の1つや2つあげたくなってしまうのが、当然だろう。


「助けるぞ、アリス!」


「うん!」


「魔法を使う。指輪で魔力が抑制されているなら、前みたいなことにはならないだろ」


 お姉さんを助けないと。オレはオークの前に移動すると、指輪を装備していることを確認し、前回と同じ様な規模の火炎魔法をイメージした。


 大丈夫。この指輪がオレの魔力を抑えてくれている。山一つ吹っ飛ばすほどの威力にはならないはずだ。


 意識を集中する。掌をオークに向け、オレは叫んだ。


「ファイアーボール!」


 足元に魔法陣が描かれると同時、周囲に陽炎が立ち上り、熱風がオレの周りに巻き起こった。


 掌から放たれた火炎球は周囲の空気を熱しながら、目標へ向けて直進する。


「汚ねえ焼きブタの出来上がりだ……!」


 直撃と同時、声にならない断末魔を上げ、オークは燃え上がる。


 アリスはお姉さんをオークから引き離し、なんとか彼女を守ることができた。


「陶冶くん陶冶くん」


「ん? なんだいアリス?」


 魔法もセリフも決まって上機嫌なオレは、爽やか笑顔でアリスに振り向く。


『汚ねえ焼きブタの出来上がりだ……!』


 アリスはスマホを印籠のようにオレの目の前に突き出し、どこかの中二病患者の戯言を再生している。


『汚ねえ焼きブタの出来上がりだ……!』


 どっからどう聞いても、オレのヴォイスじゃん! イケボなのがせめてもの救いか。


「録音しておいたよ~。今日から着メロにするね!」


「やめなさい今すぐやめなさいお願いですからやめてください」


『汚ねえ焼きブタの出来上がりだ……!』


『汚ねえ焼きブタの出来上がりだ……!』


『汚ねえ焼きブタの出来上がりだ……!』


「連続再生するとかなんなの!? 死ぬよオレ。恥ずかしすぎて死ぬよオレ!」


 アリスから無理矢理スマホを奪うと、データを削除。


「あ~ひどい! アリスさんの宝物が~!」


『汚ねえ焼きブタの出来上がりだ……!』


 と、勝利を確信していたところに、きらりが出てきてスマホを印籠のようにオレの目の前に突き出していた。


「うん。もう、好きにして」


 今度からカッコいいセリフを決めるときは、回りに気をつけよう。


 オレは心にそう誓うと、エルフのお姉さんを介抱した。


「助かりました、勇者さま……でも……村のみんなが……」


「何があった? さっきのモンスターは一体……」


 お姉さんはひどく疲れた表情で笑うと、小さな声で話してくれた。


「魔王軍が突然攻めてきたのです。一週間前の件で、異世界の勇者が再び現れたことを知ったのでしょう。私は命からがら逃げ出してきましたが……何人かの村人は……」


「そうか……そうだ。レリアは? あの子はどうしたんだ!?」


 元気で可愛らしいレリアの笑顔がオレの脳裏に蘇る。何もなければいいのだが……。


「レリアは、囚われてしまいました。魔王軍四天王の1人……赤白(せきびゃく)のロリコーンによって……」


「ロリ……コーン……!?」


 ぶははははは!!


 と、オレ達3人は同時に爆笑した。魔王軍四天王の1人……赤白の~までかっこよかったのに、最後で全部台無しだ。


「笑い事ではありません! ロリコーンは最強の二刀使いの呼び声高い魔王軍きっての剣士なのです! いくら勇者様といえども!」


「大丈夫。最初に戦う四天王だから、四天王の中でもヤツは最弱! だよ」


 アリスは能天気にアハハ~と笑った。


「そうだよ、お姉さん。四天王だろうが、四魔貴族だろうが、ずっこけ4人組みだろうが、オレ達が軽くひねりつぶしてやるさ」

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