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「さて。この手に入れたアイテム。当然持つべきはアロイスだな」
「そうね」
ゲオルグとハンナの意見は一致する。
「ええ? けど、回復魔法が一番使えるのはゲオルグじゃないか」
それに対し、当のアロイスは困惑している。
「俺は盾役だ。攻撃の決め手を持つのは、お前、アロイスだ」
「このアイテムの有無で最後の決め手の一手が撃てないなんてことあってはならないでしょう」
ゲオルグの言葉にハンナも続ける。
「でも、回復ができないと!」
「回復は最悪アロイス一人だけでもいいのよ」
「そうだな」
ハンナの言葉にゲオルグがうなずく。
「俺達がお前の肉の盾となる。そして、お前が決め手の一手を撃つ。それでいいんだ」
「そんな、仲間を捨て駒扱いにするなんて」
「しょうがないじゃない。全員で死ぬか。数名の犠牲で済ますか。その2択なら、一人でも生き残りを出した方がいいって話よ」
「まあ、極端なことを言えばと言う話だ。全員生き残れるなら、もちろんそれでいい。俺達も犬死したいわけじゃない」
ハンナはゲオルグの言葉にうなずく。
いつか死ぬとしても、無駄に死にたいわけじゃない。死ぬまでに一体でも殺して殺して殺してやる。
ハンナの剣呑な思考が表情に漏れていたのか、アロイスとゲオルグが彼女を見てくる。
とある村に休息と補給のために立ち寄った。近隣に出る異形の情報を聞いていると、悲鳴が聞こえてきた。
村にまで異形が乗り込んで来たのだ。3人は急いで外に飛び出す。
「混ざってる……」
アロイスが呟く。旧来の魔物に異形が混ざった姿のあれが村を襲っていた。
ハンナには、それが苗床に見えた。旧来の魔物の頭部や体の一部に異形が巣くっている。そこから大きくなっていくんだろう、とハンナは思った。
多分、この村も苗床にされる。ここで食い止めなければならない。ハンナは拳を握る。ゲオルグが盾を構えて突っ込んでいく。ハンナ、アロイスもそれに続いた。
拳に付いたあれの体液などを振り落とす。すべて終わった後に改めて村を眺めれば、中々凄惨な光景が広がっていた。あちこちに異形の死体が散らばっている。
「出て行ってくれ……」
無事だった村人に言われた。
「あんたたちがあれを呼び寄せたんだろう」
あれが来た方角はまだハンナ達が行ったことがないのだったが、村人にはそれがわからない。それを証明する手立てもない。
物資補給もままならないまま、ハンナ達はその村を後にした。
「いよいよ、苦しくなってきたな」
ゲオルグが言う。ジリ貧だと思いながら、前に進むしかなかった。
旅を続ければ続けるほど、物資の調達が困難になった。荒れた村々では、真っ当に補給ができるわけがない。それでも、先に進まなければ荒廃を止められない。
ハンナ達は通った道を何度も戻ったりしながら、どうにか補給をして旅を続けた。
「どうにも、効率が悪いな……」
これは愚痴ではなく、単なる事実であった。補給さえどうにかできれば……との思いは、絶えずあった。
じわじわと、だが確実に、死の影が迫ってきているのを、彼らは感じていた。




