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「目標検知しました!」
「対象に向けて回復薬、転送します!」
声を張り上げるのは、ヤンの仲間で後方支援を行う少女達である。
「よろしい。そのまま、勇者達を援護なさい! 付与術師、回復は済ませましたか⁉」
「もう、やってますよおおおお!」
指示を出すのは王女マルレーン、答えるのは付与術師ヤンである。
彼らは勇者達が挑む異形達が占拠する山の向かい側の山にいた。その山で彼らはそれぞれができることをこなしていた。
「おら、兄ちゃん! とっとと強化してくんな!」
「わかってるよ、おらあああ!」
ヤンはガラの悪そうな冒険者崩れや傭兵崩れ達に次々と付与術をかけていく。最初は大声で怒鳴られる度に委縮していたが、数をこなす内に彼自身も口悪く応答するくらいには慣れていった。
そんな冒険者崩れ達の後方に騎士達が順番を待っている。彼らは第二陣の人員だ。すでに騎士の一部隊がヤンの付与術を施された後に進撃していた。
冒険者崩れ達がヒャッハーーー! などと奇声を(気勢を)上げながら山を駆け下りて向かっていく。
魔力を使い果たし、息も切らしているヤンはへたり込みながらも回復薬に手を伸ばす。
「……大丈夫か?」
騎士達は出身の家柄がいいのか、さすがにヤンを気遣うだけの落ち着きを見せた。
「ええ、はい。大丈夫です。どうかお気になさらず……」
ヤンは自分より身分の高い人間に丁寧に接されることに慣れず、しどろもどろになり、声もすぼむ。冒険者崩れ達にしたような態度はさすがにできなかった。
アロイス達の周囲に戦いに参加する人々がやって来、そしてそれぞれが散っていく。
アロイス達は困惑した。
彼らの胸に去来するのは、あの不甲斐なさ。自分達だけで倒したかったという傲慢さ。そして、それを達成できなかったことへの悔しさ。
そんな彼らの困惑を置き去りに、やって来た人々はアロイス達に構わず好き勝手に戦いに挑んでいく。
「若者共に死地に行かせといてのうのうとうまい飯が食えるかってんだ!」
誰かが叫んだ。それを聞いて、アロイス達ははっとした。
同じだ。彼らもアロイス達と同じ、忸怩たる思いを抱いている。
人と異形が入り乱れる。あちらこちらで悲鳴が上がる。だが、誰もそれを嘆いている余裕はない。
倒れた人が異形に飲み込まれていくのが見えた。血を流し動かない人、地に寝て天を仰いでいる瞳が微動だにしない人。それらアロイス達が見たくないとこれまで切り捨ててきた光景が、今目の前に広がっている。
そんな光景の中で、ためらいながらアロイス達は剣や拳を揮っていた。決して緩慢に動いていたわけではなかったが、そのためらいは外側から見てとれた。
「行け!」
誰かが叫んだ。
「さっさと行け!」
他からも声が上がる。
「俺らに構わずに行けえええ!」
そんな声を背に、アロイス達は山を駆け上がって行く。




