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 姿の小さい異形達が大量に山裾に広がっている。その中には、古来の魔物やかつて人間だった存在を苗床にした異形達も混ざっていた。

 それらの異形を最早感情に出すこともなく、彼らは掃討していく。魔力、体力が尽きかけると回復薬を飲み、再び力を揮う。

 彼らはそれをひたすら繰り返した。


 終わらない。終わりが見えない。魔力、体力は回復させることができるが、気力は回復するための手段はなかった。

 同じ作業の繰り返しは、彼らの精神を摩耗する。彼らの腕や足の動きは次第に鈍っていった。


 小型の異形の集団の中に少し体の大きな中型の魔物が混ざり出す。敵からの攻撃の苛烈さが増す。そんな中、彼らの側の攻撃が鈍れば、敵の攻撃を身に受けることも増えてくる。


 顔に腹に腕に足に、打撃を食らう。食らう食らう食らう


 ぼこぼこにされて気が遠くなりかける。ハンナの脳裏に死の文字が浮かんでくる。

 ここでやられて、死ぬ――


 死ぬかもしれないと思うと同時に、死んでもいいか、との希死念慮が浮かんできた。そこでもう一撃強めのを食らった。


 その瞬間、急速に怒りが湧いてきた。

「お前らが死ねえええええ!」

 ハンナは叫んだ。


 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す



 怒りに火が付くと、ハンナは感じていた疲労を忘れて、ただ機械的に拳や足を出し、殴る蹴るを続けた。


 常であれば。ゲオルグはハンナの精神状態を心配し、アロイスはハンナを案じて彼女を助けるべく自分の持てる以上の力を出そうと奮起した。


 だが、今この時ばかりは

「おおおおおおお!」

「あああああああ!」

 二人はただハンナの思いに同調した。彼らも言葉にならない叫び声を上げ、単調ながら的確な攻撃を繰り返した。


 彼らの心に怒りの火はつきながら、彼らの顔からは表情はすっかりと抜け落ちていた。目は瞳孔を開きながらどこを見ているのか定まっておらず、耳は騒音を拾いつつも、それを聞いているという感覚もなかった。



 そうやって限界を忘れて彼らは戦っていたが、それでも終わりの時は近づいていた。

 回復薬は潤沢に用意して臨んだが、それも尽きようとしていた。


 回復薬の飲み過ぎで、胃はもう水分を受け付けることはできなくなっていた。体に摂り過ぎた水分は排出されなければならない。汗ももちろん大量にかいてはいた。それでも、発汗だけでは体に溜まり過ぎた水分は出し切れなかった。

 時に嘔吐し、時に失禁しながら、それでも戦いの手を止めずに動き続けた。


 そんな見苦しくも涙ぐましい有様ながら戦い続けたにも関わらず、まだまだ殲滅には至らない。


 いよいよ回復の手段もなくなった。



 終わるのか……



 それは諦めというより、単なる事実の確認であった。


 三人の手の動きはほぼ同時に止まった。そこからはただ一方的になぶられる――


 それは覚悟というより、ただそうなるだろうとの予測であった。そして、眼前に迫る敵の触手を避けるでもなくただ見ていた。



 着弾する瞬間。バシン、とその触手が爆ぜた。


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