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「どうしてそんなこと言うんだよ!」

 付与術師ヤンは泣きながら反発している。そこで泣くから、軟弱な印象を人にもたれてしまうんじゃないか。と女戦士ハンナは思っていた。


「泣いて状況が変わるとでも思ってんのー?」

「かわいい女の子でもあるまいし、弱っちいガリ男の泣き落としなんて通用するわけないでしょー」

 魔法使いレーニと回復師ジジがヤンを殊更に馬鹿にした口調で煽る。ヤンの顔が怒りで赤く染まった。それを見て、女二人はケラケラと笑っている。ハンナはヘイトが上手いな、と感心していた。


 追放を切り出した勇者アロイスは苦渋を飲んだような顔をして、口を真一文字に結んでじっと押し黙っている。

 こういう時、()が好んで読んでいた本では、勇者も一緒になって煽ったりしてたな、とハンナはぼんやりと思い出す。


「ハンナ! ゲオルク! 黙ってないでなんとか言ってくれよ! こんなのおかしいって!」

 ヤンが静観していたハンナとゲオルクに助けを求めて訴えかけてくる。ゲオルクがはあ、と溜息を返した。


「こうやって、みんなが集まって切り出してる時点で、すでに話し合った後なんだ。このパーティーでは、お前を守り切れない。だから、お前に抜けてもらう。これは、決定事項だ」

「あんたの戦闘力のなさが悪いんだろーが!」

 ゲオルクの冷静な指摘に、レーニが悪態を被せる。ゲオルクがレーニに睨みを利かせたが、レーニはジジと二人でヤダ怖いなどと言ってくすくす笑っている。


「ハンナ。お前も、俺の追放に賛成なのか」

「そうよ。だって、目の前で死なれても困るもの」

「俺達が、お前を楽勝で守り切るだけの力があれば、そりゃあ追放なんてことは言い出さないさ」

 ハンナが端的に答えると、ゲオルクがハンナの言葉足らずを補うように説明を加える。

 盾役よ。ここはヘイトをうまく集めるべき場面だろう。ハンナは思うが、空気を変えたくないのでそれは言わない。

 憎まれ役上等。なるようになれ。それが彼女の心情である。


 そして、こうも思う。


 そうか。私らは追放物のやられ役だったか。この男が追放をばねに努力して強くなり、世界を救う力を手に入れる。反面、私らは今後この男の力を使うことができず、ただ弱体化して破滅する。そういう役回りなのか。と。




「ふざけんなよ! お前らなんか、もう知らねえ!」

 ヤンが怒り、手荷物を持って飛び出していった。精々がんばれよと内心思いつつ、ハンナは無言で座ったままそれを見送った。

「ふっ……うぅ……」

 アロイスが声を漏らして、顔を手で覆う。

「おい。泣くな、アロイス」

 ゲオルクが背をポンと叩き、それを宥めている。ハンナはとりあえず、卓上にある飲み物に口をつける。レーニとジジは気ままに食事に手を付けながら、アロイスに声をかける。

「気にしなくていいじゃん。あいつのレベル不足が悪いんだからさあ」

「ねー。あれのお守りばっかりしてられないでしょ」

「だが、俺達もあいつのレベル上げをもっと積極的にやってあげれば……」

「自分で状況打開できない提案もできないお客様思考で今後やっていけると思うー?」

「大体、手荷物だって自分一人で運べないようなマジのお荷物じゃん」

 勇者の悔恨の言葉に、レーニ達が反論を被せる。そう言えば、あれはちゃんと忘れ物なしに出ていったかな、とハンナは考える。

 話し合いの前に、これは預かってた荷物だと突き返した。魔導書だとかの書物である。かさばるし、重い。こちらは鍛錬にはなったが、その分持ちたいものを諦めたりもしたのだ。ハンナはため息を吐く。



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