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異世界トリケラロード  作者: 島地 雷夢
箱庭の森
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運命の岐路

 俺がこの世界に生まれ落ちて四年が経過した。身体は図鑑で見たトリケラトプスと遜色ないまでに成長し、三本の角も立派に伸びている。

 筋肉もかなりつき、瞬発的な動作のキレも一年前に比べてかなり向上した。持久力も言わずもがな、重りをつけながらのランニングによって底なし……とまでは行かないまでも多少の事では疲れなくなった。

 魔法を使わない模擬戦であれば、同年代の皆には負けないくらいにも強くなった。ただし、魔法を使われると劣勢に持ち込まれるけど、一方的には負けないし、普通に勝ちもする。ここ四年で魔法に付いても色々と学んだので、対処法などもきちんと学んだからだ。

 まぁ、流石に守護獣の皆さんにはまだ敵わないけどさ。それでも一撃当てる事が出来るようにはなった。ほんの小さな一歩だけど、俺にとってはかなり大きな一歩だ。このまま順調に研鑽を積んで行けば、守護獣の皆さんと渡り合えるくらい強く……なるといいなぁ。

 守護獣の中で一番模擬戦をしたのはスティさんだ。トリケラトプスと何処となく似ている犀だからか、その立ち振る舞いから見て学ぶものも多く、そして俺が考えもしなかった奇抜な攻撃方法も見せてくれた。

 スティさんは情け容赦なく俺を叩き伏せるけど、それは一心に俺を強くしようとする為だ。

 あと、スティさんは鍛錬時以外も俺と一緒にいる時間が多い。そんな時は食べられる植物と食べられない植物の違いを教えてくれたりしてくれたり、その日の鍛錬に付いて質問して、スティさんからアドバイスを貰ったりしている。

 他にも、ここの生活に慣れた? とか、一杯食べて大きくなるのよ。とか、寒かったら遠慮なく言いなさい。火を熾すから。とか何かと俺に気を掛けてくれる。

 少し質の悪い風を引いた時は、付きっきりで看病をしてくれた。

 今では、俺にとってスティさんは母親みたいな存在になっている。卵だけがこの箱庭の森にあったから、本当の親はいない。けど、家族の温もりはこの森の皆から与えられ、その中でもスティさんからは母親から向けられる安心と心地よさをもらった。

 俺にとって、スティさんを含め、この森に棲んでいる皆は掛け替えのない、大切な家族だ。魔力が無くても除け者にせず、トリケラトプスと言うここでは奇抜で未知な生物を恐れず蔑まず、対等に、森に棲む仲間として、家族として接してくれる、温かいひと達だ。

 差別の無い、虐めの無い。まさに穏やかで安らぎのある場所だ。

 それは人間であるアルレシアに対しても同じだ。彼女もまた、王族と言うしがらみから抜け出して皆と笑い合い、共に切磋琢磨して鍛錬に励んだ。

 アルレシアが来てから丁度一年も経った。基礎的な事は既に頭と体に叩き込んでいた彼女は、ここでの鍛錬では地力の向上及び応用の幅を広げる、人間相手の生物の戦闘経験を得る事を目的としていた。

 アルレシアは無属性の魔法や体捌きで柔軟に動きつつ、搦め手も使って来るので一筋縄ではいかない相手だ。彼女はここで上位に入る程の強さを誇っている。あ、無論守護獣の皆さんは除くけど。

 王族のしきたりだか試練だかでは、人外との戦闘が起こりうる場合が多いそうだ。なので、こうして箱庭の森へと赴いて一年間みっちりとしごかれるそうだ。

 で、アルレシアはそろそろ王族のしきたりだか試練に向けて動き出さねばならず、ここを離れる事になった。

「皆。一年間、お世話になりました」

 皆が集まる広場の中、アルレシアが頭を下げる。

「お主は今まで訪れた王族の中でも才覚があり、それに驕らずに努力を重ねたが故の強さがある。ここでそれを更に磨き上げる事が出来た。持てる力を十全に発揮すれば、事を成せよう」

「ありがとうございます」

 フォールさんの評価にアルレシアは更に頭を下げる。

 才覚ってのは、人外との戦闘に関してかな? それとも無属性の魔法について? その部分を敢えて言っていないので俺には見当もつかないが、どちらにしろアルレシアのポテンシャルは元から高く、それを伸ばそうとする努力を惜しまなかったという事は窺えた。

 確かに、この一年アルレシアは鍛錬を真面目に行っていたし、一日も欠かさずに体を動かしていたな。少しは休みも入れないとぶっ倒れるんじゃないかってくらいに動いてたけど、今まで疲れた様子を見せていない。とんだ体力お化けだよな本当。

「ただ、何度も言うようにもう少し先を見る目を養った方がいいだろう。何も目前の事が全てではないのだからな。先を見据えるようになれば、要らぬ厄介に巻き込まれる事もあるまいて」

「……ですよね。今後とも精進します」

 フォールさんの指摘に、アルレシアは顔を上げてやや乾いた笑いを浮かべる。

 そう言えば、アルレシアは先を予測する事をあまりしなかったな。模擬戦でも相手が何かしらの行動を起こしてから対処してたし。常に後手に回っているイメージだ。後手でもきちんと対応出来ているから凄いとは思うけど、先を読めていればもう少し戦闘も楽になっていただろうに。

「して、アルレシアよ。何か言いたそうな感じだが、何かあるのか?」

 と、フォーイさんがアルレシアの顔を見てそんな事を口にする。

「あー、分かります?」

「一年の付き合いだ。それくらい分かる」

 アルレシアの言葉にフォーイさんが事もなげに答える。一年も一緒にいれば、それとなく相手の癖とかも分かるようになる。俺もフォーイさんと同じ疑問を抱いた。

 何せ、アルレシアが何か言いたそうにしてる時は少し視線を逸らして右の眉尻を気持ち上げるんだよな。多分、ここにいる皆、それに気付いてると思う。

「して、何か重要な事か?」

「重要って言えば重要ですかね。……では、ちょっとしたお願いがあるんですけど、聴いてくれます?」

「願い、とな? あい分かった。申してみよ」

 フォーイさんの許しを得ると、アルレシアは何故か俺の方へと歩いてくる。

「……そこの彼と、一緒に巡りたいんですけど……駄目、ですかね?」

 俺の頭を優しく撫でながら、アルレシアは視線をフォーイさんではなくスティさんに向け、遠慮がちにそんな事を口にした。


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