いい加減にしろ
そもそもなんでこの人達は浅井を頼ったのか?勝頼はそれが疑問でした。朝倉が煮えきらないとはいえ、弱小国衆の浅井には荷が重い事はわかっていたはずです。特に明智光秀、ここでは明智十兵衛ですが三雄から聞いていたイメージだともっと賢いはずです。
「浅井様には申し訳ない事をしたと思っております。義昭様は織田、朝倉双方が義昭様の号令で協力して上洛する事を望まれておりました。それをなんとか実現すべく浅井様を頼ったのですが、間違いだったようです」
明智は申し訳なさそうに話して、義昭の顔を見ました。義昭は、
「十兵衛。余が悪かったのだ。余の考えが甘かった。お主の言う通り最初から美濃まで一気に行くのであった」
ん?明智は織田信長を頼るつもりだったのか。それを義昭が甘い考えで浅井を頼ったと。勝頼は、
「明智殿、浅井にそこまでの力があるとお考えだったのですか?」
十兵衛は首を横に振りますが、悲しそうな顔をして変な事を言います。
「浅井様は織田、朝倉と縁がおありです。上様のご意向とあればなんとかするのが家臣の役目」
ひどい奴だな明智十兵衛、無理だとわかってて。長政が可哀想になってきたよ。明智なりに義昭を立ててなんとかしようとしたのはわかる。でも若い長政に押し付けて丸投げかよ!それを感じたのか十兵衛は続けて、
「伊那様のお考えはわかります。ですが、義昭様は将軍になられるお方なのです。ご威光により織田も朝倉も従わせられないようではこの先………」
なあにがご威光だ、こいつ絶対わざとだ。どこまでが演技なのかわからんぞ、こいつ。勝頼は思っていた事を口にしました。
「明智殿。お主の忠義は認めよう。だがな、無謀すぎる。俺はお主が故意に悪い方向に持っていったと考えているのだが、違うか?」
「故意に、でございますか?」
「そうだ。お主は浅井長政には織田と朝倉を説得する力がない事をわかっていた。普通なら義昭様にそれは無理と言う事を話し、織田信長の待つ美濃へ向かったであろう。だがお主はこうなる事をわかっていて浅井を頼った。何が狙いだ、何を企んでいる? 」
「企んでなど!それがしは義昭様に学んでいただきたかったのです。今のご自分の立場を。昨日、伊那様の奥方様に突然義昭様がお声をかけられて細川様とそれがしは冷や汗をかきました。何をしでかすのかと」
「十兵衛、余がしでかしたと申すか?」
義昭は怒鳴った。目が血ばしっている。大人しそうで短気なのか、子供かよ。こんなのを担ぎあげようとしているのか。三雄に聞いた未来がなんでそういう方向に進んだのか、勝頼はわかった気がしました。細川藤孝はなだめようと、
「十兵衛殿、控えよ。お詫び申し上げるのだ」
明智十兵衛は詫びずに細川を目で制したあとさらに続けます。
「細川様。伊那様のおっしゃる通りです。それがしはわざと浅井様のところへ行きました。織田信長のところへ真っ直ぐに行くべきなのをわかっていて、あえて上様の言う通りに浅井長政様に会いに行ったのです。こうなるとわかっていて」
十兵衛は話を続けます。
「上様は今の足利将軍というのがどういう立場なのかをわかっておられません。すでに将軍の威光は無いに等しいのです。将軍が何か言えばそれが通るなどと偶像に過ぎません。そんな中でも将軍を盛り立てて祭り事を行おうとする大名もおります。伊那殿の武田家、恐らくは織田信長もそうでしょう。彼らを頼って将軍家をもう一度復活させたい、そう思って上様にお仕えして参りましたが、その上様が今のようでは……………、上様。上様が足利将軍として祭り事を行うには将軍の命令で動く大名、それも他をねじ伏せるだけの実力がある強い大名を配下にするしか無いのです。今、都周辺の大名は義昭様を亡き者にしようとしております。そいつらを一掃し義昭様を担ぎ上げてくれる大名が。それがしはそれは織田信長しかいないと思っておりました」
義昭は怒りの矛先を向けるところがなく鼻息が荒いまま十兵衛の話を聞いている。余がわかっていないだと!その余を担ぎ上げたのは貴様らであろうに。
「上様、上様にはもっと謙虚になっていただかねばなりません。好き勝手なさらず配下の意見に耳を傾けていただかねばこの先立ち行かなくなります」
細川はそれを聞いて、
「明智殿。もっともではあるが上様も長きに渡り我慢をしてこられたのだ。それを忘れてはならないと思う」
「細川様。それでは細川様はこの先のあてがおありで?どこの大名の元に行こうと今の上様では朝倉様の二の舞になります。そもそも朝倉様を頼ったのですから最後まで朝倉様を立てて、時を待てばよかったのです。それを上様が各地の大名に自分とともに上洛を促す文を出した事を朝倉様が知って嫌になったのです。人の気持ちがわからない方に祭り事はできないと思いませんか?」
「十兵衛!上様に無礼であろう」
細川藤孝が珍しく怒りました。この男、武人ですが性格は温厚なのです。足利義昭はまだ怒っているようで息をハアハアさせています。雰囲気最悪で、勝頼はどうすっかなあと思っていたら、
『小鳥がさえずるこの丘を あなたは守ってくれますか? ♬ 今年の秋の収穫を あなたは守ってくれますか?♬ 』
徳がバラードを歌い始めました。一同、我にかえったように徳の歌を聞いています。歌が終わると皆、それまでの興奮が無かったかのように気持ちが落ち着いています。義昭は
「見事な唄であった。褒美を取らせたいがすまん、今の余には何もないのだ」
「上様。今のお言葉だけで十分でございますが、一つだけお願いをしてもよろしいでしょうか?」
「なんなりと申せ。できることは少ないが善処する」
「義昭様が将軍になったら、戦は無くなりますか?無くす事ができますか?出来ないのなら将軍になるのはやめなさい。民が苦しむだけです」
『!!!!!』
皆絶句しています。勝頼は以前、三雄に戦がない世の中を作りたいと話した時に、それは皆が考えるが三雄のいる何百年か先の世界でも戦がない世界は作れていないと言っていたのを思い出しました。その時に勝頼は、少なくとも自分が生きている間だけでも戦を無くしたいと思ったのです。
「義昭様。申し訳ありません、なにぶん田舎育ちなもので礼儀を知らないのです。お許しください」
「伊那殿、素晴らしいぞ。この娘、余にくれぬか?」
『上様! 』
細川と明智がハモって怒鳴りました。




