出会いは必然
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その日の夕方、小谷城下にもうすぐというところで陽気に鼻歌を歌っている徳を呼び止めた浪人風の男がいました。
「娘さん、それは唄なのかね?何か身体が自然と動くような不思議な気持ちになるのだが」
狼藉者かと焦った親衛隊が徳の前に出ます。少し離れて後ろをついてきた護衛も立ち止まって様子を見ています。怪しい浪人風の男にも横に男が2人寄ってきました。
「公方様、何を」
「まだ宣下を受けたわけではない。ただの義昭だ」
「それはそうでございますが、目立つ行動はお控えください」
そのやり取りを徳はジーーーっと見ている。徳は義昭の顔をよーく見て悪い人ではなさそうだと思ったがどこの誰だかわからない人と知り合う必要もないと、周囲を促してそのまま立ち去ろうとした。
「待たれよ、我らの会話を聞いたであろう。このまま行かせるわけにはいかない」
徳達の前に男が立ち塞がった。その男の名は細川藤孝、剣の名手です。それを見て離れて様子を見ていた護衛の者が駆け寄ってきます。
「徳様、お下がりください」
「徳様?どこの者だ。場合によっては生かして置けぬ」
藤孝は刀を抜いた。それを見た義昭は、
「待て待て、こんなところで娘さん相手に刀を抜くのではない。すまん、怖かったであろう。徳というのか?どこかの武家のようだが」
「はい、徳と言います。主人がこの先の城下におります。このまま行かせてはもらえませんか?」
徳は堂々としている。怯えた様子がない。浪人風の男のもう1人の連れは明智十兵衛でした。十兵衛は徳を見て感心しています。とはいえこの先の城下とは小谷城でしょう。誰だろう?と思いつつ十兵衛は、
「実は我らはお忍びで動いていてあまり姿を晒すわけにはいかないのだ。ちょっと揉めていてな。見つかると戦になるかも知れん。すまぬが一緒に来てくれぬか?そこの村にしばらく滞在して欲しいのだ」
「断ったらどうなるのです?」
「残念だが斬らねばならぬ」
「お三方に私達が斬れますか?」
徳は自信有り気に十兵衛を見返す。十兵衛は何者なんだ、これで動じないとはと逆に焦っている。そこに、
「十兵衛、待て。無駄な殺生はするものではない。元はと言えば余が退屈でわがままを言ったのが悪い。ここに出てこなければこうなる事もなかったのだ。徳とやら、許せ。だが、一緒に来てくれぬか?その唄をじっくり聞いてみたいのだ」
と、義昭がまたおかしな説得をしてきた。ここで義昭に出会った事が朝倉に伝わるとまずいのです。とはいえ、こんな事で殺すこともできません。
徳は親衛隊のゆづ、はな、かなの3人にアイコンタクトで行く?と聞きました。3人とも直ぐに首を縦に振なりました。ゆずは竹中半兵衛から聞いた足利義昭という勝頼の探し人がこの人ではないかと思っていました。ただの浪人でないことは確かです。徳は、3人の中のボスらしき男、義昭に問いました。
「城下にいる主人に連絡を取りたいのですが?」
「少し待ってくれ。いやそなたの主人とは誰なんだ?」
答えていいものだろうか?護衛の男を見ると頷いている。この男は辰三の仲間で徳とも古い知り合いだ。こちらは7人、向こうは3人。しかも7人のうち5人は腕にも自信がある、戦って負けることはないがさっきボスが言ったように無駄な殺生はしないほうがいい。徳は3人の顔を順番に見てから呟いた。
「伊那勝頼、武田信玄の子が私の主人です」
3人はなんと、と言いながら驚いて顔を見合わせている。
「これは天の助けか」
「十兵衛の言う転機とはこの事か」
「そうか、武田が来ているのか」
3人バラバラに独り言を言ってから、隠れている村の方へ歩き出した。
「付いてきてくれ。武田が何をしにきているのか、詳しく聞かせていただきたい。私は明智十兵衛、こちらは足利義昭様。次の公方になられるお方です」
その夜、お市の部屋では勝頼に気絶させられた蜂須賀小六が部屋に転がっています。お市は懐から短刀を取り出して勝頼に対し構えます。騒ぎで侍女も集まってきました。勝頼は面倒臭いことになったと思いながら思案します。やっちゃった事は仕方ありません。
「怪しいものではない。現れかたは思いっきり怪しいので説得力はありませんが。先程名乗った通りの者ですが、お市殿以外には正体を知られたくない。どうしたらいいだろうか?」
お市は侍女に蜂須賀小六を縛って目隠し、猿轡をして暴れられないようにする事を指示しました。
「お市殿。多分こいつの仲間が外で待ってる。お市殿を攫おうとしてたのだから準備していて当然だ。こいつは後で放り出せばいいが城の者に連絡して仲間を追い払った方がいいと思うよ」
お市は最もだと思い、追加で指示を出しました。小六は隣の部屋に侍女がなんとか運びました。そうしてから勝頼はあぐらをかいて座り込みます。刀を外し両手をあげました。
「なんの真似です?」
「敵意がない事を示したつもりなのですがわかりませんか?屋根裏に潜んでいたのですがつい手を出してしまいました。見て見ぬ振りができないのは修行が足りないのでしょうかね?」
「伊那勝頼様とおっしゃいましたね?武田信玄公のご嫡男という事ですか?」
「はい。来年家督を継ぐ予定です」
「近江に何をしに来られたのです?家督を継ぐようなお方がこんなところで1人でいるなんてあり得ません」
「一応もう1人潜んでおります。護衛としてね。さて、長政殿がいないこの城で何をしていたかという事になりますが、もうわかっているでしょう?お市殿は器量も良いが頭もいいと聞いております」
「女だと思ってバカにしているのですか?」
「そんな事はないですよ。武田では女の騎馬武者もいるし、戦にも出ています。優秀な人材に男も女もないですから。で、義昭様は何処に?」
「やはりそうですか。誰もかれも義昭様、義昭様と。ここにはいません。お引き取りを」
「ここにいない事は分かっております。いればとっくに見つかっているでしょう。この城の警備はザルですしね。なんで明智十兵衛はここに義昭様を連れてきたのでしょうね?どう思います?」
「知らないと申しているのです」
お市はこの男が待っていた第三者かもしれないとは思いつつ警戒心を緩めない。
「俺はお市殿がいたからだと思うのですよ」




