将軍の行方
足利義昭が消えた?何やらキナ臭い話です。謙信は、
「織田信長の妹が近江の浅井に嫁いだのだが、どうもそこに義昭がいるらしい。織田信長が問いただしてもいい返事が返ってこないそうだ。どう思う?」
この情報は掴んでいませんでした。実は先日、三雄と話をした時に越前へ行こうとしたのは足利義昭を掻っ攫おうとしていたのです。これはまた難しくなってきました。
「近江浅井家ですか。そこへ移動したのも不思議ですが、信長と浅井長政は義兄弟です。同盟国なのに問い合わせをはぐらかすとは?信長の妹が嫁いでまだ一年くらいです。何が起きているのか?」
「足利義昭、朝倉義景、織田信長、この3人の思惑にさらに他の者の思惑が絡んで複雑になっているようだ。勝頼、余はお主からの兵を借りて出羽へ行く。武田は西を目指すのであろう。お主に甚内を預ける、好きに使え」
なんか使われているような気がします。釘を刺しておかないとです。
「上杉様、武田と上杉は同等です。それをお忘れなく」
「わかっている。せっかく和解できたのだ。なぜ余が武田と組んだかわかるか?」
「申し上げてよろしいので?」
「そうか。やはりわかっているか。恐ろしい男だ。余は元は長尾家の人間だ。縁あって上杉の姓を得たが、得た以上、この姓を絶やしたくはないのだ。お主を今殺しておけば生き延びる事はできようが未来はわからん。ならばお主に守ってもらう方が得というもの」
「それがしが今日、謙信公とお話ししたかったのは正にその事、謙信公亡き後の事です。大変失礼な言い方になりますが恐らくあと10年後には現実になるかと。その後、上杉はどうなるか、です」
謙信には2人の養子がいる。北条家からきた景虎、北条家当主氏政の弟です。そして長尾家からきた景勝、今回勝頼と義兄弟になった男です。勝頼は氏政、景虎とも義兄弟になるので人類皆義兄弟モードになっています。勝頼は話を続けます。
「それまでにどちらを後継者とするかお決めください。早めに決める事をお勧めします」
「それが言いたかったのか?武田にとって都合がいいのはどちらかな?」
「北条も氏康公はそう長くないでしょう。あそこはすでに氏政へ家督を譲ってますので問題は起きません。もしですが、景虎が上杉を継げば、関東は北条の物になります」
「それで菊は景勝にか、良く考えている」
「この勝頼はどちらとも縁がございます。武田はどちらが継いでもそれに応じた対応をいたします。ただ、お願いは早めに家督をお譲りいただく事です。継承者不確定の状態でもし、謙信公がお亡くなりになれば上杉は分裂し、せっかくの三国同盟も崩れます。内部の争いほど醜いものはございません」
謙信は考えこんでいる。死んだ後のことなど真剣には考えた事がなかった。確かに勝頼の言う通りだが、こいつの目的はなんだ?こいつが現れてから勝てる戦に負け、同盟まで結ぶ事になった。全てこいつの手の中で動いているかのようだ。
「勝頼。お主を信じていいのかまだわからん。だが間違った事を言っていないのはわかる。話としては聞いておこう。で、信玄はどこまで先を考えている?」
「父上は足利将軍を立て、上洛を望んでおられます。甲斐源氏は遠い昔から将軍を支えて参りました。その事に重きを置いておられます」
「信長と考えていることは同じか。武田と織田は結んでいるだろう。今日来ている盛信の嫁だ」
「はい。織田の方から熱心に縁組の要求があり縁を結びました」
「盛信は随分と熱心だそうではないか?まるで太郎義信のように」
謙信がニヤっと笑います。その笑みの向こう側にあるのは気をつけろよ、と言う意味なのでしょうか?
「盛信が織田と通じていると?」
「そこまではわからん。盛信ごとき気にしてはおらんからな。取越し苦労であろう」
三雄にも言われました。盛信どうしてる?、と。俯瞰してみると怪しいのでしょうか?その後も話しは続きました。謙信は勝頼の話には嘘がなく、世の中を真剣に考えている事がわかったのですが、疑問が出ました。
「勝頼、お主の野心が見えん。お主はどこを目指しておるのだ?」
それは勝頼自身も答えがわからない質問でした。勝頼は正直に今は信玄を上洛させる事だけですと答えたのですが、謙信に笑われました。
「人が見えても自分は見えないのだな。やはり勝頼は人だ、安心した」
「何ですか、それは?」
「北条、武田、上杉。いつまで対等な関係が続くかは勝頼次第という事はわかった。お前が上杉を潰す気がないこともな。氏康、余が生きている間は対等だろう。その後は頼む」
謙信はそう言ってから一息ついて、
「しかし不思議なものだ。少し前まで武田憎しでいたのが嘘のようだ。お主が現れてからという物、何かが変わった。それが何かはわからんが時代が加速したかのようだ。お主、本当は何者なんだ?天狗か何かか?」
「まさか。普通の人ですよ」
部屋を出ると甚内の姿が一瞬で消えました。あらすごい、どうやったのでしょう。甚内には引き続き浅井の様子を調べるよう頼みました。しばらくは仲間と思っていいのでしょう。
宴会場に戻る途中で賑やかな騒ぎ声が聴こえてきます。あれ、これってもしや!?
『戦国少女♪ 戦国だけど少女だけど殿のために戦うの 正妻なんかにゃ負けないわ』
『フー! 』
『ここは諏訪 神の住むところ この地で産まれた少女達 名付けて勝頼親衛隊』
『打て フー! 』
『斬れ フー!』
『放てー フワフワ』
勝頼は部屋に入るなり頭を抱えてしまいます。歌っているのは徳で、苑まわりに見たことのない軽やかな踊りを踊る娘が3人。合いの手を入れているのは酔っ払ったおっさん達です。なんで?
後から部屋にきた上杉謙信は、固まっています。全身硬直した状態で徳達のパフォーマンスを見ています。途中で我に返ったように、
「勝頼、あの女達はなんだ? 」
「はぁ、それがしの側室とその侍女達です。まさか他所の土地にまできてやろうとは、直ぐに止めますので」
「何を言うか、素晴らしいではないか。初めて見ると唄と踊りだ。甲斐にはこのような風習があったのか?」
ないです。それがしにもよくわからんとです。
宴は朝方まで続きました。翌日、勝頼は徳と親衛隊、その護衛に跡部をおいて甲斐に戻りました。徳は中砲の使い方指導で残ったのです。
後から徳に聞くと、謙信が大喜びしてバンバン中砲を撃ちまくったそうです。




