諏訪の子孫
徳川家康は北条と上杉が手を結んだ事に、武田の動きが牽制されると喜びました。だが、なぜ急に、と考えています。織田からはこの事については何も言ってきません。家康は、北条と接触を試みました。上杉、北条、これに徳川が加われば武田を包囲する事が出来るのです。
織田からは近いうちに越前を攻めるので出兵するように連絡が来ています。織田は今川との戦で何もしてくれませんでした。そのくせ、自分の戦には兵を出せと言ってきています。
「我慢だ、我慢。今は耐えろ、いつか道は開ける」
今の徳川は、織田と武田双方と同盟を結んでいるようですが、実際は織田の属国扱いです。武田はあれから何も言ってきていません。
武田信玄は参謀の山県昌景を連れて新館の勝頼の秘密部屋にきています。この部屋は鉄板による忍び侵入防止が施され、防音にも特化しています。この部屋での会話は外へは漏れません。勝頼は事前に許可を取り、竹中半兵衛と武藤喜兵衛を同席させています。
「お屋形様。あらたまって何でしょうか?何か上杉に動きでもありましたか?」
信玄は驚いて、
「知っておったのか?」
「いえ、何も。今のは当てずっぽうですが、何かあってもいい頃ですので」
上杉謙信は勝頼の婚儀にお祝いを送ってきて以来、音沙汰がありません。対上杉として信玄は本願寺に金を送り、越中と加賀の一向一揆に陰ながら加担していて、その影響で上杉謙信や朝倉義景は時間と金を消費しています。
関東管領の上杉謙信は信濃には興味がないようで、信濃へ攻めてくる気配もありませんでした。
「上杉と北条が同盟を結んだようだ。氏康の子供が上杉の養子になる」
山県昌景は驚いたように、
「謙信は男色家で子供がいないと聞きました。跡取りという事でしょうか?」
「そうなる可能性は高いであろう。そうなると相模から越後までが北条の物になってしまう」
勝頼は三雄から上杉と北条が結んで養子を出す事を聞いていました。ただ年号が違っています。三雄の歴史よりどんどん早まっているようです。それを考えながら勝頼は、
「お屋形様。それがしが上杉へ行ってきましょうか?婚儀のお祝いの礼に」
!!!!! 一同ぶったまげています。信玄は何をするつもりなのか考えながら、
「ならん、使者なら別のものを出す。お前に何かあったらどうする!」
「では、武田は次にどこを目指しますか?飛騨から美濃へ出て京を目指すのか、三河、尾張を通るのか? まさか関東ではありますまい」
「駿河に城もできた。三郎兵衞、駿河の状況を」
「はい。駿府、江尻、諏訪原、浜松の4つの城を作りました。諏訪原城へは勝頼殿の依頼で諏訪神社を設けています」
諏訪原城を築城したのは馬場信春です。勝頼は馬場へ頼んで諏訪原城の敷地に諏訪神社を作ってもらいました。理由は後ほどわかります。山県昌景は話を続けます。
「伊谷康直に花沢城を預けて武田水軍を作りました。由比、蒲原を使い、今川側に付いた興津水軍を撤収し配下としています」
「頼んでおりました造船所はどうですか?」
「勝頼殿依頼の造船所ですが、駿府と焼津の間にある海沿いに建築中です。土地の者が大崩と呼ぶ地域です」
勝頼は三雄に造船所を作りたいと相談したら、『大崩がいいんじゃない?海沿いだし陸からは行きにくいけど逆に敵からは見つかりにくいと思う』 と言っていました。山県昌景、さすがです。
勝頼は半兵衛にたのんで造船所に派遣する技術者を養成していました。教科書で得た知識を教え込んでいます。勝頼が集めた移民の中には武力はなくても智慧者がいました。彼らは実際、戦ではあまり役に立ちませんでした。ですが、使える才能を殺してはもったいないのです。戦国では力の強い者が偉くなります。戦場で英雄にもなります。ですが、勝頼の兵は違います。
「適材適所」
半兵衛は人の実力を鑑定するのに長けていて勝頼の工場の人事異動を行いました。力だけでなく、器用な者、算術が得意な者、造形が得意な者、得意な分野に配属させて開発チームを作ったのです。それとよくわかりませんが徳が踊りが好きな少女を集めています。何なのでしょう?それは置いときまして、船作りの実験は諏訪湖で行なっています。造船所が出来次第引っ越す事になっています。
山県昌景の話が続きます。
「江尻城は穴山殿、諏訪原城には馬場殿の城代として岡部殿、浜松城には馬場殿、そして駿府城にはそれがしが入り駿河、遠江の国衆をまとめてきました。旧今川の反乱分子も制圧し、完全に武田領となりました。勝頼殿の直轄地として菅山村は諏訪原城の岡部殿に見てもらっています。あの黒い水ですが、あれは一体?」
「山県殿、あれは石油という油です。武器にも使えますし、今後色々な事に活用する予定です。日ノ本ではここしか取れない貴重な物です」
武田信玄は兼ねてから疑問に思っている事を聞いた。
「勝頼。お前は昔から奇抜な行動をしたり、変わった武器を作ったりしている。今回は遠江の田舎に地面から湧き出る油を見つけた。これはどういう事なのだ」
「お屋形様。それがしの子孫に教わったのです。遠い未来に住む諏訪の血を引くものに」




