長男が源三郎、次男が源二郎
勝頼の問いにどう答えるべきか?三雄は黙っています。戦のない世界、一時的には可能でしょうが、現実には世の中から戦が絶えた事は無いのです。
「勝頼。正直に言うぞ。日ノ本だけでみれば戦国が終わって約300年は戦がなかった。だけど世界的に見ると過去において戦は必ずどこかで起きている。戦をなくすには、というのはみんなが考える事なんだ。強い奴が支配すればいいという強権派、皆が平等に生きればという理想派、どれも無理なんだ。人間の欲というのは終わりがない」
「三雄殿の世界では戦国で徳川が最後に勝つのでしたよね。江戸時代でしたっけ?それが明治まで続く」
「そうだよ。徳川家康は譜代の家臣で政治を行なって、外様には力が集まらないように工夫したんだ。参勤交代って教科書になかったか?」
「ありましたね。江戸まで大名行列。ああやって大名の力を削ぐというのは面白いと思いました」
「徳川家にだけ力を残して、他の大名には逆らいたくても逆らう余裕をなくしたのさ。で、勝頼のいう戦のない世の中だが、まずは天下を取る事だ。それには戦をする事になる。矛盾しているだろ? 」
結局戦をなくすには誰が勝つにせよ戦をする事になります。今の帝や将軍に力がないのですから、力のある者が制するしかないという事です。
「参勤交代かあ、要はどうやって他の大名の力を削るかだね」
独り言をいいながら三雄と別れて古府中へ戻りました。新館では彩、華名が妊娠中です。彩はなかなか子が出来ず、徳に相談していたようです。お互いにライバル視している割には仲が良く、勝頼には女というのは難しくて良くわかりません。
徳は教科書知識から月のものが始まって14日後を狙って迫るようにと彩へ話ししたそうです。そうしたら見事に命中しました。徳は勝ち誇ったように、
「要はタイミングよ! 」
と自慢げに話ししてましたが、タイミングって何でしょう? 教科書にあったような気もしますが、そういう徳とは子が出来ませんがそのタイミングとやらが悪いのでしょうか?
古府中へ戻った翌日に武藤喜兵衛に男子が産まれていました。源二郎と名付けられたこの子、後の真田幸村です。長男が源三郎で、次男が源二郎というのは不思議ですがどうやらこれにも徳が関わっているようです。子供のお祝いに彩を連れて武藤邸に出向きました。まだ跡を継いだわけではないので家臣の家に行くのも平気でしょう。
「喜兵衛、男2人とは羨ましいぞ。武藤家は安泰だな」
「ありがとうございます勝頼様。勝頼様の方も、彩様、華名様がご懐妊中ではありませんか?今度は男ではありませんか?」
「どちらでもいいと言いたいところだが、やはり後継は欲しいな。彩、頼むぞ」
「こればかりは天運ですので。もし女の子ならまたすぐに仕込んでくださいまし」
「おいおい。ところで喜兵衛、長男が源三郎で次男が源二郎というのは何か意味があるのか?」
「よくぞ聞いて下さいました。これは徳様の掛け声から来ているのでございます」
???、何言ってるの、こいつ?
「徳様が中砲を撃つ時に行う合図をご存知ですか?」
「合図?ああ、みー、ふー、ひー、ってやつか?」
「そうでございます。三、二、ー、零でどかーんです。最初が三から始まるではありませんか? 」
「お前まさか、それで三を長男に付けたの?で、次男が二って事?」
「はい、徳様はそれがしの師匠です。師匠にあやかって名を付けた次第」
「………………………、いつから徳が師匠になったんだ?お前、それでいいのか?」
「徳様の作るジオラマという図面は素晴らしいものです。三次元とか言っておられましたが高低差があのように把握できれば、戦の策もより正確に立てられるでしょう。それ以外にも世にも不思議な考え方をなさるお方で会話に付いていくのが精一杯です。半兵衛殿に負けたくはないのですが、お二人の会話には聞いた事のない言葉が多く難儀しております」
「ジオラマは俺が教えたんだ。最初だけだけどな、まさかあんなに凄くなるとは思ってなかったよ。それとあの2人の会話は沼だからな、一度嵌ったらなかなか抜け出せんぞ。だが喜兵衛、お前は大したやつだよ。真田の軍略にあいつらの知識が融合した時にどうなるのかが楽しみだ。期待しているぞ、ところであれが師匠でいいのか?まあお前が良ければそれでいいが。でもなんかあやかってない気がするけどな。まあいいか」
さて、今は1567年、武田は駿河、遠江を完全なる支配下に置きましたが、他の大名はどうしているのでしょう。まずは、織田信長です。
信長は美濃の斎藤龍興を倒して美濃を領地としました。尾張、美濃の二カ国を支配する大名になっていたのです。そしてその目は都を睨んでいました。
都では足利将軍をめぐって争いが絶えず、13代将軍足利義輝が殺されて揉めに揉めています。義輝の弟の義秋は越前へ逃亡していて上洛の機会を伺っています。近い将来、この2人は組んで上洛する事になります。
信長は西を見ています。東を見ている余裕はないのですが気になるのは武田信玄、甲斐、信濃、駿河、遠江の四カ国を持つ大名にまでなりました。この事が信長に上洛を焦らせます。今、信玄に西へ出てきてもらっては困るのです。そこで、五郎盛信と養女、雪の婚姻を急がせました。それと同時に上杉にも使者を出しています。
その上杉ですが、一向一揆の相手と関東への出陣で忙しく過ごしています。関東の国衆は上杉が出てくれば上杉に付き、上杉が越後へ戻って北条が出てくると北条へ味方するというとても不思議な事を繰り返しています。上杉謙信はこのままではいかんと思っていますがいい打開策が浮かびません。そこに織田からの使者が来たのです。




