娘
結局徳川軍は岡崎まで引き上げました。武田がこれ以上西に進軍しないという条件でです。秋山隊が三河の一部(長篠周辺)を武田の領地としていますが、それも返しません。取った物は返せないですよね。
結局徳川は遠江まで進出する事が出来ませんでした。後日勝頼が三雄に報告すると、
「やっぱタイミングだよな。三河の一向一揆が終わったばっかりで消耗してた時の戦だから徳川にとっては不運だね。逆に武田にとっては上手いこといったって感じ」
「武田は一気に駿河の大半と遠江を領地とすることができました。今は重臣達を各拠点に置いて国衆をまとめているところです」
そうなのです。現在、駿河、遠江に城を作っています。駿府城、江尻城、諏訪原城、そして浜松城です。旧今川家の者達を使っての築城でまずは足元を固める事を優先させています。
今川との戦が終わり、信玄と勝頼は古府中へ戻りました。信玄の体調は良さそうです。この時代に労咳が流行したのはやはり栄養不足が原因でした。タンパク質とビタミンが不足すると抵抗力が落ちます。勝頼が改善した食生活と川中島以後の静養が重なって信玄の病は完治していました。これがどんな影響をもたらすのでしょうか?
古府中に着いて勝頼は新館に入りました。そこには正妻の彩、側室の華名、しおが住んでいます。徳は古府中へ寄らずに高遠へ戻って行きました。今回の反省を踏まえてやる事が山積みだそうで、親衛隊と呼んでいる徳の付き人兼発射係を伴って。徳には工場の開発状況を報告するように話ししてあります。
正妻の彩は今川氏真の妹で今回の今川との戦は、『平気よ!』といって送り出してはくれましたが実際は気にしてるはずです。まず勝頼は彩の部屋に行きました。
「彩、帰ったぞ!」
彩は三つ指をついてお出迎えです。
「お帰りなさいませ、殿。ご無事で何よりです。ずーっと徳さんと一緒だったのですよね?今晩はここに来ますよね、絶対来ますよね」
途中から上目づかいでちょっとエロいです。
「おいおい、わかったよ。産まれた娘の顔を見る前にここへ来たんだ。勘弁してくれ」
そうなのです。勝頼の側室、しおが娘を産んでいました。名前は春といいます。
「しおさんも春も元気ですよ。私が正妻としてきっちり面倒を見ていますので。殿の女は家族ですから」
あれ?彩ってこんなんだっけ?最近徳とばっかり過ごしてたからなんか新鮮。
「ありがとう。よくできた嫁で嬉しいよ。それでだ、今川の事なんだが」
勝頼は彩の兄、今川氏真の最後がどうだったのかを話しました。その後の駿河についても。
「俺は駿河に住みたかったのだが父上はここへ住めという。父上が健在のうちは難しいかも知れん。彩はどっちに住みたい?」
「殿のいるところが私の家です。どこでも構いません。あ、兄の嫁はどうなりましたか?」
「北条へ返したよ。氏康の娘だからな。今北条と揉めたくはないんだ」
今回の戦は上手いこと行き過ぎた感じがある。一気に駿河大多数、遠江を占領してしまったのだが、北条と徳川の反感をかってるはずだ。徳川は歯向かう力も余裕もないだろうが北条は違う。北条との関係は上杉という共通の敵がいるから成り立っているとも言える。だが、武田が大きくなり過ぎるのを北条がどう思うか?である。勝頼は信玄に相談して自らが出向いて送り届ける事にしたのです。氏康に会って見たかったというのもありますが。
ここで小田原へ行った話に戻ります。彩とのイチャイチャ、娘との対面は後ほど。
勝頼は富士川境を守っていた小山田信茂と蒲原氏高、それと薩埵峠攻めの時に活躍した菅原隆則を連れて小田原城へ向かいました。小山田は今回の戦には活躍する場面がありませんでしたが領地を増やしてもらっています。由比と蒲原は小山田の与力になったのです。小山田の領地は北条と接しているためいざという時は矢面に立つ事になるので責任重大です。小山田は武田の親戚筋でもあり、信玄が頼りにしている武将なのです。
小山田は道中、勝頼に気さくに話しかけてきました。
「伊那殿、此度の活躍、素晴らしかったと聞いております。ここだけの話ですが太郎様の事件の後、武田の行く末を心配する家臣も多かったのですが、いらぬ心配であったようですな」
「小山田殿。それがしの力だけではありません。ご重臣の方々のご活躍があっての成果です。小山田殿とて前線には立たないものの立派にお役目を果たされたではありませんか?それがしも正直に言いますが、あの時、小山田様が攻撃に加わりたいと言ってきたらどうしようかと悩んでおりました」
「そうでござったか。川中島の時もそうだったのですが、小山田隊は損な役回りに回る事が多いのです。穴山殿に不満を言ったことがあり、その時には『お屋形様はわかってらっしゃる』と慰めの言葉をもらったことがあります。今回は伊那殿のご手腕を目の前で見る絶好機だったのですが、敢えて側面から見させてもらいました。それがしの物見からの報告は驚く事ばかりでござった。なんにせよ、武田は安泰でござるよ」
この男、やっぱり頭がいい。勝頼は三雄から小山田が将来裏切ったと聞いていてどんな男か興味があったのですが、信玄への忠誠心には素晴らしいものがあるようです。この男を味方にしないといけないと改めて確信しました。




