海を見ながら
武田に味方した今川家の武将で、勝頼が気にしていた武将がいます。水軍の将、伊丹康直です。三雄からこいつは殺さない方がいいと言われていたのです。武田には水軍がありません。海を手に入れた以上、これからの武田には水軍は必須なのです。
信玄が逍遙軒、山県昌景とともに今川館に到着しました。勝頼は早速戦況を報告します。
「安倍金山へは竹中半兵衛を送りました。間違いなく手に入れる事でしょう。馬場殿、真田殿、穴山殿はすでに大井川を越えて掛川城を落とすところでございます。今川方の武将であったここにいる朝比奈泰朝の活躍で無傷で今川館を手に入れる事が出来ました。金銀に加え、鉄砲、弾薬も接収いたしました」
信玄は、
「朝比奈とやら。大儀であった。そなたはこの山県昌景の与力となり引き続き掛川城を治めよ。この駿府には新たな城を建て、山県につかわす。三郎兵衞、早速だが今川の者達を連れて曳馬城を取って参れ。お主らが着く頃には秋山が二俣城を落としている頃だ。どっちが早いから見ものだな」
「承知いたしました。朝比奈殿。参るぞ!」
「はっ!」
山県昌景は、朝比奈泰朝の居城である掛川城を拠点に周囲の今川勢を屈服させていきました。朝比奈泰朝は先行して曳馬城を囲むべく出陣しています。
駿河の残存勢力は勝頼が対応しています。すでに馬場達が蹂躙した後始末がメインですが、由比、岡部達の居留守役が協力してあっという間に駿河を武田領にしてしまいました。念願の金山も手に入れました。
今川館に逍遙軒を残して、信玄と勝頼は駿河湾に来ています。なぜか里美と徳も付いてきました。砂浜で里美と徳がじゃれ合うのを見ながら信玄は勝頼に話しかけます。
「此度の働き、大儀であった。こうも簡単に駿河が獲れようとはな。褒美は何がいい?」
「まだ終わっておりません。遠江の制圧と、氏真、徳川の対応が残っております。北条も黙って見ているかどうか?」
「それはそうだ。だが、北条は小山田が見張っておるし、遠江へはあいつらが行っている。心配はいらん」
確かにそうだ。ただ一気に領地を広げすぎた気もする。ここで甲斐に戻ってはダメなのではないか?
「お屋形様。褒美と申されましたが、お願いがございます」
「なんだ、申してみよ」
「駿河をそれがしにいただけませんか?」
「駿河へは三郎兵衞と穴山を置くつもりだ。お前は跡取り、古府中に居ねばならん」
甲斐にいるよりここに居た方が絶対便利なんだけどなあ。勝頼は素直にそう思いましたが、武田家は甲斐の守護です。信玄は甲斐の守護を継ぐ勝頼は甲斐に居なければダメと言っているのです。
「将来、京へ上洛し天下に名乗りをお上げになるのであれば、この駿府の方が有利でございます」
「だから三郎兵衞を置くのだ。そんなに海が気に入ったのか?」
2人は水平線を眺めています。海の向こうには何があるのか?写した教科書に書いてあった気もするが、今度三雄に聞いてみるか、と思ったのですが、
「殿、この向こうにはアメリカという大きな島があるのですよ、知ってますか?」
徳の爆弾発言降臨!
「お前の側室は物知りだと聞いているが、そのような島があるのか?」
徳がノリノリで、
「はい、お屋形様。地球はこーんな感じになっていてこの駿河海の東側にはアメリカ大陸があるのです」
「そうか、明国はどちらにある?」
「明ですか?確か昔の中国ですね…………」
今の中国だろ!勝頼は突っ込みたくなりましたがやめました。なんか墓穴を掘りそうで………、徳は世界地図を砂浜に書き出します。
「お屋形様。ここが日ノ本です。明はここですね。ポルトガルは確かここら辺です。船で何日かかるのでしょう?」
「よく知っておるな?アメリカというのは初めて聞いたが、日ノ本は世界から見ると小さいのだ。鉄砲を運んできたポルトガルという国の人間が話していたそうだ。その小さな国でさえ各領主が我が物顔で纏まる事ができん。足利将軍を支えもう一度この日ノ本を一つにまとめ上げねばならん。この武田信玄の力でだ」
「お屋形様、それがしが駿河が欲しいと言ったのにはもう一つ理由がございます。水軍を作りたいのです」
「それはわしも考えておった。北条も水軍を持っているそうだし船は物を運ぶのに使える」
「今川の水軍の将だった伊丹康直という者に花沢城を与えて武田水軍を作らせてはいかがかと」
「その水軍を勝頼の自由にしたいと言うのだな、却下だ」
「なぜにございます」
「今回の戦で重臣達も勝頼の凄さが伝わったであろう。余は早々に隠居しお前に家督を譲る。お前は古府中に住め、わしが表向き隠居し駿府に住む事しようと思う。3年だ、3年後にそれを行う。甲斐、信濃、駿河、遠江、次は飛騨か三河かそれとも美濃か?上杉も北条も黙ってはおるまい、織田もいる。この3年は大きいぞ、世の中が大きく動くであろう」
信玄は、あくまでも勝頼は古府中にという考えのようです。諏訪から遠くなるのは不便ですので当面はそれで良さそうです。
武田家は初めて水軍を手に入れました。水軍は山県昌景の下に置かれる事になりました。




