上泉伊勢守
『ドーン!』
発射音とともに鉄球が宙を舞い綺麗な放物線を描いていきます。
「おお!飛んだ、弾が飛んでいく」
兵達は驚いて弾の行方を見ています。門の上の敵兵は銃を構えていましたが発車音を聞いて何事かと顔を上げました。
「何の音だ?」
「わからんが鉄砲にしては音が大きい」
「あ、あれを見ろ!なにかが飛んで、うわぁ!」
砲弾は銃兵を直撃しそのまま門を少しだけ壊しました。徳が言っていた通常弾とは普通の鉄球です。徳は、弾の行方を見て
「命中です。さっすがあたい、できる女。あんた達、下がるよ」
と言って後方の勝頼の元へ下がっていきます。試し射ちは上手くいきました。後ろに控えている中砲隊に合流しコツを説明しています。先鋒の内藤修理は砲弾が当たった瞬間に、
「今だ、かかれー!」
と突撃の合図を出すと、兵が一斉に走り出し門に近づいていきます。敵は驚いたのか反撃がありません。門まで30mまで近づいた時、突然門が開き中から鉄砲隊が現れました。
「撃て!」
敵の一斉射撃です。内藤の兵は被弾して何名かが倒れましたが、すぐさま内藤の指示で竹襖隊が前に出て鉄砲の攻撃を防ぎます。徳の攻撃で敵は怯んだかと思いきやそうではなかったようです。敵を指揮するのは上泉伊勢守。あの陰流の達人であり柳生新陰流のベースとなった剣法を使う剣豪です。伊勢守は鉄砲隊を搦め手に集中させて内藤の兵を寄せ付けません。
内藤軍も前に出ては銃撃をくらい引いては前に出てまた銃撃をくらうというのを繰り返しています。内藤は手柄を立てたくてなんとか門を突破したいのですが前進できていません。
それを見た信玄は勝頼宛にむかで衆を派遣しました。伝言役としてやってきたのは武藤喜兵衛、そう後の真田昌幸です。
「勝頼様。内藤様に加勢して攻めかけよとの指示でございます」
「あいわかった。内藤殿も自分が行くといった手前、面子があろうかと様子を見ておったが、敵にいい軍師がいるようだ。このままでは埓があかない。内藤殿の気持ちもわかるがお屋形様の指示では仕方あるまい。遠距離攻撃隊を使う、玉井、頼んだぞ」
玉井伊織は内藤隊の後ろに中砲部隊を5台四列に並べていきます。狙うは門と門を越えた裏側です。門の向こう側には敵兵が多数いるはずです。
「殿、油断なさらない事です。何かがおかしい」
半兵衛は気になることがあるようです。
「半兵衛、玉井の攻撃が始まったら内藤殿と城へ侵入する振りをして時間を稼げ。その間に叔父上が堀を越えて城を制圧するはずだ。我らの役目は敵兵の足止め、て、えっ、嘘」
門から敵兵が出撃してきました。
少し前の事です。勝頼から見て搦め手の門の裏側には城兵が集まっています。上泉伊勢守は門の上に鉄砲組を物見兼防御役として配置し、門の後ろにも鉄砲隊を並べました。
「よいか、敵が攻めてきたらまずはここで応戦する。決して武田軍の侵入を許してはならない。そしてだ、機を見て全員で突撃する。目の前の敵は全て薙ぎ倒し目指すは諏訪の旗印、勝頼の首だ。先鋒は内藤修理の隊のようだ。まずは城に兵を入れまいとしていると思わせて、敵の攻撃に隙ができた時に一気に出る。後ろで呑気に構えている勝頼に地獄を見せてやるのだ。わしの合図を待て」
上泉伊勢守は兵の士気を高めるため、城の食料を全部出して兵に与えました。物見から報告がありました。
「何やら不思議な物を出してきました。娘が指揮しております」
「それでは分からん。どういうものだ?」
「大きな鉄砲のような、あっ、撃ち『ドーン!』ました。鉄の玉が」
兵の言っていた娘とは徳です。塀の上に乗っていて鉄砲組でも徳の動きに気付いていないものもいました。突然響いた『ドーン!』という音を聞いて何の音だ? と騒ぎ出します。そして飛んでくる玉を見て叫んだ鉄砲組に弾が直撃しました。
「うわぁ、なんだ?何が起きた?」
兵が騒ぎ出しますが伊勢守は冷静に、
「皆の者、落ち着け!次の攻撃はどうか?」
と騒ぎを沈めます。別の物見兵が武田軍を見て答えました。
「娘と弾を撃った物は下がっていきます。そして内藤の兵が前進してきました」
どういうことだ?連続で撃てないという事はやはり鉄砲のような物か?しかしこの威力は恐ろしい。恐ろしいが引くわけにはいかん。
「聞け、皆の者。今の攻撃はおそらく何度も撃てるものではないのであろう。恐れる事はない。最初の作戦通りに敵を引きつけてから鉄砲で攻撃する。鉄砲隊、準備!」
伊勢守は自らが門の上のに登り敵の位置を確認しはじめました。タイミングが大事なのです。もう少し、よし、ここだ。
「よし、門を開けろ。鉄砲隊一斉射撃!」
城兵の攻撃は進んできた内藤隊の兵を倒しました。その後は内藤隊は前進したく動きましたが伊勢守の指揮がうまく結果が出せません。進んでは下がりの繰り返しです。その時、武田軍に動きがありました。後方で兵が動きはじめ何かの準備をしていると同時に、内藤隊が動きを止めたのです。伊勢守はこれを待っていました。今こそ絶好機。伊勢守は天を仰いでから叫びます。
「全員、勝頼に向かって突撃しろ!」




