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未来を知った武田勝頼は何を思う  作者: Kくぼ


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クロスボウ

「どこへ行かれるのです、兵部様?」


「穴山の手のものか。そこをどけい!」


「我が主人からは兵部様がきたらそのままお帰りいただくよう申しつかっております」


「なんだと、穴山殿が………『穴山殿、すまない。もう引けないのだ』………、どかねば斬る」


 兵部は槍を振り回して突破しようとする。穴山の配下も兵部の配下も動き始めた。が、攻撃側も防御側もついさっきまで味方だった者達だ。お互いに攻撃に遠慮があり中途半端になってしまっている。そうこうしているうちに穴山が、三郎兵衞が追いついてきた。


「兵部殿!」


「兄上!槍をお納めください。今ならまだ無かった事に」


「ならん。これはわしのけじめぞ、三郎兵衞。邪魔するならお主とて倒す」


「兄上………」


 兵部、三郎兵衞共に泣いている。兵は2人を見て戦闘をやめてしまった。同じ飯富家の家臣であり、2人とも主人のようなものなのだ。穴山も2人を見つめ兄弟愛に見とれていたがこれではいかんと我に帰り、


「飯富兵部を取り押さえよ!」


 と叫んだ。穴山の兵が兵部の馬を囲んだその時、背後からけたたましい人馬の音が響いてきた。


「なんだ?」


 穴山が振り返るとそこには、義信を先頭に200人ほどの兵が現れたのでした。兵部はあわてて馬から降りて義信の乗る馬の前に跪いて土下座します。


「義信様、なぜにございます?この兵部にお任せくださいますとお約束されたはず。お願いでございます。お戻りくださいませ。今回の件はそれがしの一存で起こした事です、何卒、何卒」


「兵部に任せるつもりであったが考えが変わった。これは通常の戦ではない。余が自ら手を下してこそ意味があるのだ。進めー!」


 義信の兵が駆け出し穴山、三郎兵衞、兵部の兵を蹴散らし前へ進んでいった。穴山と三郎兵衞は呆気に取られている間に義信の兵に抑えられて動けなくなってしまった。義信は、


「そこで控えておれ。すぐに終わる」


 と言って足止めに兵50を置いて隠し湯への入り口に向かっていった。穴山と三郎兵衞はなんとかせねばと義信の兵と戦いはじめたがなかなか追いかける事ができない。兵部は座り込んだまま動かない。犠牲を多く出しなんとか隠し湯へ向かおうとすると、300mほど先で義信が足を止めているのが見えた。三郎兵衞は怪我をしていたが構わず、


「追いつかねば。お止めするのだ」


 と、穴山と2人で追いかけていった。







 前を進む義信の兵が足を止めた。後ろから続いていた義信は不審に思い前に出るとそこには予想外の人物が立っていた。


「か、勝頼。貴様そこで何をしている!」


「兄上こそ何をしているのです。そんなに武装までして。この先には父上のいる温泉しかありませんが、はて?」


 勝頼の横では兵が諏訪大明神の旗を掲げている。そう、あの川中島で不死身と言われた諏訪の旗だ。その旗を見て義信の兵はびびってしまって足を止めたのであった。


「兄上。まさか父上を襲おうとしているのではないですよね?」


「そのまさかだ。このままでは武田は衰退する。義は我にある。今川と共に天下をこの手にする………」


 突然、義信が落馬した。勝頼は義信の目を見て話を聞くふりをしながら右手の親指と人差し指でOKサインを出した。それを見た徳が気持ちよくしゃべっている義信の額に石を当てたのだ。小型のクロスボウに矢の代わりに小石をセットした物を使って。義信は額から血を流していて動けない。


「皆に申す。伊那四郎勝頼である。ここにいる太郎義信は謀叛を企て恐れ多くもお屋形様を襲撃しようとした。これに味方するものは大罪人である。よいか、その方らだけではない、家族、親戚含めて重罪に処す。義信に味方するものはかかって参れ。この勝頼がお相手致す」


 勝頼の前に玉井伊織率いる旗本20名が立ち、その後ろに鉄砲隊、弓隊が義信隊を狙っている。義信隊の兵は戦意を失い武器を捨てその場に座り込んだ。そこに三郎兵衞。穴山が追いついてきた。


「伊那殿、どうしてここに?」


「父上と兄上の会談が決裂した事を聞いて万が一に備えておりました。こうならない事を願っておりましたが、残念です。穴山殿、飯富殿、この場をお任せしてもよろしいでしょうか?それがしの兵をお使いください。玉井、お二人に従ってこの場を納めてくれ。俺は父上のところへ行く。半兵衛、付いて参れ」


 勝頼は場を仕切ると隠し湯に向かった。何が起きたかを信玄に報告するためだ。三郎兵衞は勝頼の実力を見た事がなかったので心底驚いた。


「穴山殿、四郎様はまさに大将の器。これほどまでとは」


「そうでしょう。それがしも驚きました」


 だが、穴山には不信感が残っている。勝頼がここにいる事が出来すぎている、勝頼がこうなるように仕組んだのではないか、と。勝頼ならそのくらいやりそうだ。そうだとすると、跡目を狙ったことになる。


『何にせよ、俺がお仕えするのはお屋形様だ。義信でも勝頼でもない』



 三郎兵衞は兵部を縄で縛り付け猿轡をした。


「兄上。自害してはなりませんぞ。お屋形様の沙汰を待つのです」


 兵部の目を見るとホッとしたような顔をしていた。こうなって良かったと言っているようだ。自害しそうな感じが無かったので猿履を取った。


「兄上。先日あそこでお会いしたからこそ防ぐ事が出来ました。あれはそれがしを待っていたのですか?」


「止められなかった、わしには止める事ができなかったのだ。三郎兵衞、兄の最期の頼みだ。わしが腹を切るゆえ、義信様のお命だけは守りたいのだ。頼む、三郎兵衞。お屋形様に、お屋形様に頼んでくれ」


 三郎兵衞は泣き崩れる兄をただ見る事しか出来なかった。






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