波多野の決意
ハンググライダー隊、甲斐紫電マーク2に乗る部隊は八上城を飛び立つ時に特殊部隊ゼットのAチームのリーダー凱から
「戻らなくていい。作戦決行後は辿り着ければ亀山の上様の下へ。だが、」
「その可能性は少ないですね。我々がいなくなって凱様は大丈夫ですか?」
「俺の心配か。全くお前達は」
ここにはAチームとBチームが来ている。信平に付くように命令された時に川根からCチームを呼んで上様の護衛に付くようにしていて到着したと報告もあった。Cチームはまだ実戦経験がないのが若干不安ではあるが訓練は十分にしている。尾張にも連絡はしているので武藤様も動いているだろう。
「砦を囲んでいる敵を攻撃した後、黒田軍最後尾を撹乱、そして黒田官兵衛を狙え。仕留められなくても構わん」
空からの攻撃は無敵ではない。小田原城攻めでは過去最高レベルの空隙隊が敵の迎撃にあって成果を上げられなかったと聞く。この部隊は全滅するだろう。それでも皆やる気満々だ。特殊部隊ゼットに入った時から命は捨てている。先輩方は八割以上が亡くなっている命懸けのチームなのだ。
甲斐紫電マーク2が飛び立ったのを見送った後、凱は猛ダッシュで信平を追いかけた。
そのハンググライダー隊は明石の兵を撹乱した後、ゼンマイブースターを使って加速をかけた。上から見ると敵がこちらを見上げているのがわかる。その動きはどんどん人伝いに黒田官兵衛らしき武将ののところまであっという間に伝わっていくのが見えた。それは正解だった。官兵衛も空を見上げて怪しげな飛行物体を視認した。
「鉄砲隊は空の敵を狙え。上から何か落ちてくるかもしれん。防ぐ用意を」
武田のおかしな武器の情報は大阪城にいた時に入手済みだ。武田を攻めるのだから当然備えもしてある。ただここで空からの攻撃が来るとは思っていなかった。亀山まで行けばあるだろうがここでとは。つまり八上城を守っていたのは武田の重鎮ということになる。となればそいつの顔が見たくなる。官兵衛は笑った。早くも海での仕返しができそうだ。
官兵衛は前方日いる部隊に連絡して鉄砲隊に戻るように指示をした。空の敵にのさばられては厄介だ。空を気にしながらでは戦いづらい。
波多野に加わった朽木隊の活躍は凄まじかった。それに山の側面から次から次へと支城から脱出した兵が敵のあちこちに襲いかかっている。空を気にしつつ側面からの攻撃に不意を突かれ後方からも兵が突っ込んでくる。波多野、朽木合わせて1500名の兵の攻撃を迎撃しようと待ち構えているところに側面から数十から数百の兵がバラバラに敵に突っ込み、攻撃しては山に戻っていく。山に追いかけようとすると反対側の山から兵が攻めてくる。見事な連携だった。明石は討ち取られ兵は下がろうとしたが、官兵衛本隊が進んできていて下がれない。そこに鉄砲音が鳴り響いた。波多野、朽木以外の者は動きを止めてしまう。
「止まるな、かかれ!」
動きを止めたのは官兵衛の兵も同じだった。そこに間ができた。官兵衛の指示が飛ぶ。
「慌てるな。一人づつ仕留めるのだ。数はこちらが多い。敵の将を捕えよ!」
官兵衛は明石が討たれた事をまだ知らない。鉄砲は空の敵の牽制だが先程の間を作りたかったのだ。後方から見ているとやられっぱなしに見えたのだ。官兵衛の兵はその間で持ち直した。そして向かってくる波多野兵に立ち向かう。
波多野は朽木勢の応援を得て勢いに乗っていたが銃声で兵が戸惑うのを見た。敵は一斉に鉄砲を撃ったようだ。戦場でうるさい中でも兵が驚くほどの響き渡る銃声だった。後ろから朽木の声がした。
「波多野殿!敵の策です」
それを聞いて、波多野は自らが前に出た。
「止まるな、続けー!」
敵は明らかに持ち直した。だからどうした、行くしかないのだ。波多野にも丹波の国衆にも後はないのだ。この戦の前に波多野は支城を守る味方やそれ以外の国衆に連絡をしている。この戦に負ければ先祖由来の土地を失う事になると。
波多野の気持ちが伝わったのかそこに官兵衛の後ろ側、波多野達とは反対側から兵が現れ矢を射ち逃げていく。兵は近づかず矢を射っては山間へ逃げていくを繰り返す。大した効果はないのだが官兵衛の兵としてはうざくて仕方がない。頭に来た兵が山の中へ追いかけるとそこで仕留められてしまう。何度か続くと大勢で行けばすぐに倒せるぞという輩が出てきて、放っておけという命令だったが知り合いが矢で攻撃されて頭に来た兵が50名程連れて山に入っていってしまった。そしてそいつらは戻ってこなかった。
そういった小競り合いがあちこちで起きているが官兵衛は仕方がないと気にしていない。この狭い山の間での戦だからあり得る話だ。というよりそれが嫌だったから支城を囲ませたのだが敵の方が上手だっただけだ。今の官兵衛の興味はここにいる敵将を捕まえること、それだけだった。官兵衛は空を気にしつつ後方の敵に集中した。
そして波多野の兵が劣勢になっていった。それを空から見たハンググライダー隊は次の作戦に移ろうとしていた。




