明石の誤算
砦を囲んでいる黒田兵が突然攻撃された。
「ドーン!」
大きな音が何度か鳴り響き、兵が倒れていく。それは井ノ上周辺の十箇所の砦や支城でほぼ同時に起こった。八上城から飛び立ったハンググライダー甲斐紫電マーク2に乗った、特殊部隊ゼットの攻撃だ。甲斐紫電マーク2は2機ずつに分かれて攻撃している。山間にある砦なので、黒田軍側からは飛んでくる姿は確認できない。それに黒田軍は砦を囲んで待っているだけだったので攻撃されるとは考えておらず完全に油断していた。
明石は爆音が聞こえてきて、
「どこだ?」
と山の方を見たが山の向こうは見えなかった。音は一箇所ではなくあちこちから聞こえてくる。後方の陸地からここを攻められる警戒はしていたがまさか囲んでいる方が狙われるとは思っていなかった。
「これが武田のやり方か。だがそんな攻撃がいつまでも続くわけがない」
明石はどうやって攻撃されたのかはわからないが、黒田官兵衛から武田がおかしな武器を使う事は聞いていたのです。そう、弾薬には限りがあり、奇襲は機を突くから成功するのです。物量に優るこちらは焦らなければ自然に勝ちが転がり込むはずなのです。最初は焦ったもののすぐに冷静に指示を出します。
「被害状況を報告させろ。一度下がり陣を立て直せ。包囲は解くなよ。それとどうやって攻撃してきたかもだ」
「始まったな。波多野殿、手筈は?」
直政が待っていたきっかけ。それは空からの奇襲だった。
「音と同時に抜け道から使者が入り込む事になっております」
「殿の読み通りにいけば良いが」
「井伊様は殿のお考えを疑っておいでか?」
「そうではない。そうではないが」
「それがしは八上城での殿のご采配をこの目で見て参りました。あの劣勢の中、こちらの犠牲がほとんどなく敵を撃退したのです。井伊様が現れるという変化点も臨機応変に対応されて」
直政は何か不安を感じていた。それがなんなのかずっとわからなかったが今、わかった気がした。
「まあ俺の動きは読めなかったそうではないか。俺が言いたいのはそこだ」
波多野は井伊直政が何故重宝されているのか初めてわかった。あの聡明な結城信平、武田勝頼の次男の懐刀にしては頼りない感じをうけていたのだ。信平も結構おちょくるような態度が多いのに信頼はされていた。そうか、信平を信じれば大丈夫と思い込むだけでは危ういのだ。直政のような男がいるから信平が輝くのかもしれない。
「先程のたらればですな。どこまで読んでいるのか」
「我らが殿の読みが外れた時にどう動くかで勝敗が動く。前の敵の動きは?」
波多野は物見からの報告を受け、
「警戒を強めているそうでございます」
これでも慌てないのか?殿の読み通りだ。
「仕掛けるぞ!」
八上城から飛び立ったハンググライダー甲斐紫電マーク2が支城出入り口手前に佇んでいる敵兵に、上空から桜花惨劇滅をばら撒いた。桜花惨劇滅は、従来の物より殺傷力を上げるため大きさを2倍にして、中に入っている鉄片を三角形にして角を鋭利にした物だ。火薬量も増えて爆風と共に軽量化された鋭利な鉄片が今までよりも広範囲に飛散し敵を襲う。
敵の頭上2mの位置で次々と爆発する桜花惨劇滅。黒田軍は何が起きたのかわからないまま倒れていく。いきなり50名の兵が倒れて何が起きたかと視確し、空を見ると何かが飛んでいる。指揮官が、
「あ、あれはなんだ。鉄砲隊撃ち落とせ!」
と叫んだもののまだ火種すら準備できていない。そして鉄砲隊めがけて空からの攻撃が続く。鉄砲隊を無力化した後、桜花惨劇滅を温存し砦の様子を見ると脱出の合図が見えた。波多野の使者が上手く入り込めた印だ。その印を見た特殊部隊ゼットの兵は空から相良油田から汲み上げた石油もどきを敵の頭上から散布した。そしてその油は鉄砲隊の火種で引火し兵もろとも山火事を起こしていく。
それを見た甲斐紫電マーク2はその空域を離脱していく。脱出の合図ではなく籠城の合図をした支城もあった。地形と敵の位置から脱出が困難と判断したようだ。その場合は石油もどきは撒かずにそのまま離脱した。油を撒いたところはもう砦としては機能しないだろう。戻るつもりがないなら破壊できる。燃やす事も。
明石は武田がどういう攻撃をしたかが知りたくて指示を出したが、しばらくして山の向こうから煙が上がっているのが見えた。
「使者はどうした?」
「先程出発したばかりなのでまだ到着していないと」
うーむ、何が起きている。そもそも山の中をどうやって攻撃したのだ?長い距離を飛ぶ大筒があるとは聞いたが山をも越えるのだろうか?そうか、空だ!
「鉄砲隊、空を。空を警戒しろ!」
そして空を見ると四方から山の上を飛んでいる何かが近づいてくるのが見えた。




