攻撃
影猫は後藤信尹のところへ来ている。後藤は福島正則と共に前田利家が死んだ場所に陣を敷いていたが、福島は使者が来て大阪城へ戻って行ってしまった。ここにいるのは兵一万、大将が後藤信尹となっている。
後藤の役目は上杉の抑えだ。上杉が動いたら背後を突いて信勝の支援ができないようにするという単純な策である。秀吉は上杉が動かないと見ているのか?自分なら京へ仕掛けて上杉を退散させてから信勝を攻める。上杉は動くだろうし、こっちの策はお見通しだろう。
「後藤様、殿よりの伝言でございます。徳様に後藤様のことをお話ししたそうです」
「そうか。徳様は何と?」
「会った事もない人を信用はできないだわさ。真田の名に恥じぬ実績をとのことでございます」
少しだけ真似をして話をする影猫。後藤は徳に会った事はないが影猫と与助からどういう人なのか聞いている。
「そうか。立派なお方なのだな。兄上が師匠と呼ぶだけの事はある」
「上杉様は動くようです。どうされますか?」
「見過ごすわけにはいかない。一万の兵がいて何もしなければ疑われる。預かった兵は豊臣方だしな」
そのまま合流する作戦もあったが徳の伝言でそれは消えた。それはそうだろう、いくら真田の身内とはいえずっと敵方にいた男をそのまま信用できるはずはないのだ。とはいえさて。
加藤清正は10万の大軍を亀山城へ向けて出陣させた。この亀山城は明智光秀が建てた城ではない。この物語の明智光秀は丹波には住んでいないのだ。光秀が京を支配している時、丹後、丹波は光秀が支配していたのだが、居城は坂本城で現代に伝わる亀山城はない。亀山城は城というより大きな屋形がありその周りを石垣や砦が囲んでいる丘の上にあった。八上城のような山上の城ではない。武田信勝はこの城へ入ってから周囲の改修を始めて今では別の要塞になっている。厳密にいうと丹波の国衆の夜討ちが続いたので仕方なく補強しているうちに色々とやりたくなったので風変わりしている。その姿を加藤清正達豊臣軍は知らない。
清正は島津、福島と共に大阪から山を越えて亀山を目指している。亀山は京から行くのが進みやすいのだがそこには上杉が陣取っている。それに京から尾張までの道は武田の支配地だ。清正は信勝の情報を取るのに必死だ。将軍を攻めるのに無策で望むわけにはいかない。前田利家でさえ武田に敗れた。敵を知らずして戦には勝てない。
清正は丹波から逃げ出した者達を集めるように指示している。武田に従った者も多いだろうが、そうでない者もいるはずだ。
清正は島津と共にそいつらと面会した。そこで得た情報は、
・亀山城は日々工事をしていて近づけ無くなっているので昔の姿は参考にはならない
・城下には武田兵が多く、忍び込むのは難しいだろう。寝返った丹波勢が巡回をしている
・周辺の城も防備をしている様子があった
・寝返った者達からは不満は聞こえない
「そうか。お主らも寝返った方が良かったのではないか?」
何名かは確かに、という顔をしたが、兵庫兼光という男は
「我らにも矜持がござる。命欲しさに簡単に寝返り、敵に与した者どもと一緒にしないでいただきたい」
と声を荒目に答えた。清正はこの男を気に入った。
「兵庫と言ったな。丹波は詳しいか?」
「庭でござる」
「道案内を頼めるか。報酬は自領を戻す」
「勝てばでござるな、承知仕った」
そう、勝てば、だ。
ここにいない福島正則はどうしていたか。この男はずーーと待機を命じられていて鬱憤が溜まって溜まって溜まりまくっている。
「さっさと進むぞ」
と言って摂津から丹波に入ると目先の城から攻め始めた。
「途中の城を無視しては背後を突かれるかもしれん。まだ亀山まではだいぶあるが一つづつ占拠していくぞ」
福島正則はまずは周辺の摂津の国衆に連絡を取るが、武田側に懐柔されているようで出頭してこない。こちらに敵対もしないが味方もしないという返事が来た。それを聞いて我慢してきた不満が爆発してしまう。
「兵を分けよ。犬甘野城と杉原城を囲め!」
この2つの城は摂津と丹波の国境にあって長年どっちつかずの関係だった。敵対する事も多かったが今となっては協力して生き残る方が得だとこっそり同盟を結んでいた。福島はそんな事はどうでもいい。先鋒を進んでいるというか、勝手に先に進んでいるのだがまずは勝鬨だと考えていた。兵の士気を上げるには勝つ事だ。
犬甘野城から直ぐに伝令が吉野城へ飛んだ。そしてそこから周辺に無数にある城、砦に連絡がいく。武田軍は敵が攻めてくる事を察知して待ち構えていた、だが、ここは山だ。地の利はこちらにある。大軍が一気に攻めれるわけではないので福島正則の一つ一つ城を落としていく策はまともだ。
そして上杉景勝は京を出て亀山へ向かう。京から亀山までは街道で兵が移動しやすいのに対し、豊臣軍は山道を無数の城を攻略しないと亀山まで辿り着かない。だが豊臣軍はこの道を進んだ。それには理由があった。




