消えた本陣
小早川秀秋の兵は縦長になって山道を下っています。その最後方の兵を矢が襲いました。
「放てえ!」
山を下っていくと木がなく見晴らしのいいところが何箇所かある。そこを通った兵が上方からの矢の攻撃を受けたのだ。
「撃て!」
続いて鉄砲が襲う。太郎と源左衛門が聞いたのはこの銃声だった。
異常を感じた源左衛門は慌てて秀秋の前に出て跪いた。
「申し上げます。後陣が敵に襲われております」
「迎え撃てばよいであろう。城兵は千名と聞く。五百を残し下山する」
「そ、それでは残った兵は?」
「山道だ。兵を展開できないのは敵も同じ事。恐れるでない。其方がしんがりを指揮せよ、頼むぞ!」
源左衛門はそこからしばらく動けなかった。それを無視して秀秋は下山していく。太郎は源左衛門をチラ見してから秀秋について行った。
本丸を飛び出した波多野勢は打ち合わせ通り矢を打ち鉄砲を放ってから、武器を槍刀に持ち直し勢いよく敵に襲いかかりました。木の上からはゼットの面々がボーガンを使って攻撃を支援しています。こういった場合、上からの攻撃の方が有利です。さらに今までの戦で疲弊していた小早川勢と満を辞して飛び出した波多野勢では覇気が違います。その違いは戦局に大きく影響を及ぼしました。
小早川勢の中にも迎え撃つために果敢に戦う者もいますが半数は逃げ腰でした。怪我人を放り出し逃げ出す者もいました。波多野の攻め手は五百名だけですが山道だけでなく道のない木の間を転がる様に走って敵に襲い掛かります。地の利、自分の城なのでどこをどう行けば効果的なのか兵の一人一人がわかっています。
朽木勢は後攻めで、波多野勢が撃ち漏らした敵にとどめを刺しながら下山して行っています。地の利がない為、あそこまで一見無謀に見える攻撃はできなかったので自分達にできる事を行なっています。前をいく波多野勢はもう見えなくなってしまいました。
「急ぐぞ!」
朽木は兵に声をかけて降りるペースを上げました。この勢いでは小早川秀秋にぶつかってしまうかもしれません。
源左衛門は後ろの方から聞こえてくる戦音で我に帰り周囲にいた兵を集めます。
「我らはここで敵を食い止める命を受けました。敵の数は多くはありません。一人一人確実に倒すことだけを考えて行動をしてください」
小姓である源左衛門はここにいる兵よりは格上ですが、源左衛門は言葉を選んで指示をしました。皆疲れているのです。一方的に味方がやられたのを見て生き残った連中なのでどういう態度で話すのがいいかわかりませんでした。ですがその判断は正しかったようです。
兵は列を作り陣形を整えました。元は小早川隆景の兵達です。本来は強者なのです。この場所は斜面が緩やかになっているところでこの周辺では戦いやすくなっています。
小早川秀秋は後ろを気にしないようにして山を下っています。相変わらず怪我人を運びながらなので進行が遅いので先を行くことにしました。後ろから攻めてきている敵がいるのがなんとなく気持ち悪いのです。源左衛門が食い止めるはずだとは頭ではわかっていても嫌な感じが残っています。
「前を開けさせろ。余は先に行くぞ、怪我人を運んでいる者は後からくるが良い。余に続け!」
と偉そうに行って前を開けさせた。怪我人を担いでいた兵は慌てて横に避けて秀秋が通れるようにする。秀秋について行った兵は二百ほどだ。後の者は怪我人を担ぐのを交代するために後からゆっくりと進んでいく。秀秋は歩みを速めた。
東側の山口はやっと中腹まで降りてきたところだ。敵の追撃を警戒して後方を気にしながら降りてきたのと疲れと空腹で進行が遅くなっていた。未だに秀秋からの連絡がないしこちらの連絡兵も戻ってこない。その時遠くの方で銃声が聞こえた。西側で何かが起きている。歩みを早める様に指示をしてみずからが先頭に出た。
小早川秀秋は山を降り終わる前に物見を出しました。周囲の確認をさせたのです。物見は山をおり周りを見ましたが特に何もないと感じそのままを報告します。
秀秋は、進む様に指示をして兵を前方に出します。まずは呉源太右衛門が守っている前の本陣へ向かいます。あそこには運べなかった食糧や武器が残っています。殿下に献上する銀と一緒に。
秀秋達は山を降り終わりました。周囲を見渡してから元の本陣へ向かいます。前を進んでいた兵が駆け寄ってきます。
「殿、何もありません。荷駄も人も」
秀秋はどういう事かと考えた。ここで待っている様に命令したはずだ。まさか山口が先に戻り移動させたのか?ならば行くべきは、
「東へ向かう」
そういって部隊を進めたがそういえば後続が追いついてくる頃だと思い山道入り口で待つ事にした。




