どうする?直政
信平は本丸へ戻り勝鬨を上げました。
「えい、えい、おー!えい、えい、おー!」
その声は敵本陣にも聞こえました。小早川秀秋は味方が本丸に攻め込んで制圧したと思い、自分も本丸へ行こうと屋敷を出ました。そこにはまだ順番に攻めあがろうとしている兵達が残っています。
「そこを退け、余が先に行く」
信平は波多野から勝利の祝いの言葉を受け、
「まだだ。気が早いな波多野殿は。油断してはならん」
「はい。敵の次の動きが読めませぬ。このような無様な負け方、見た事がありませんゆえ」
「これは真田信綱殿が川中島で北条を退けた時に使った策の応用だ。俺の発案ではないのだよ。あの一族が味方で本当に良かった。無様な負け方と申したが、小早川秀秋はどう思うかな?」
その秀秋は勝ったと思い込んでいます。そこのけそこのけと山道を登り別ルートとの合流地点を過ぎた頃、異変に気付きます。上から兵が滑り落ちてくるのは見えたのです。
「何事だ?足でも滑らせたのか?」
秀秋は勝ったと思い込んでいるので呑気です。そしてさらに進んでいくと前方の兵が皆蹲っているのが見えました。そこからまた兵が転げ落ちて来ます。流石の秀秋も何かおかしいと感じ、
「森村を呼べ」
と叫びます。伝令係が森村を探そうと前へ出ますが進む事ができません。そして上から黒い煙が向かって来るのが見えました。煙が通ったところの兵は蹲り呻いているようです。それでも伝令係はなんとか森村を探そうとしています。やらないと秀秋に怒られるのです。秀秋は直ぐ下で見ているのです。
「ぐあああああ」
伝令係は黒い煙を吸った瞬間に目の前が真っ暗になりました。涙が出て息が苦しく倒れ込むしかありませんでした。それを見た秀秋は異常にやっと気付き、慌てて逃げ出します。
「ひ、引けい。引くのだ。そこを退け!」
上へ行こうとする兵を押し除けて前に出た秀秋が今度は登って来ようとする兵に向かって下がろうとしています。兵達は何が起きたかはわかっていませんでしたが、秀秋の後を追うように下がりました。結局秀秋はなんとか本陣まで戻る事ができました。その時、下の方からも勝鬨の声が聞こえました。
「えい、えい、おー!」
信平は秀秋が逃げ戻ったのを上から見ていました。
「あやつも倒してしまいたいところだが、深追いはできん。兵力では圧倒的に劣るのだ。このくらい痛めつけておけば上様に向かう事も出来まいて。おお、直政め。下の敵を倒したか。荷駄を見ているな、ようし、それを持って上様のところへ行け、行くのだ直政」
ところが直政は荷駄を30名ほどで運ばせて直政は元の本陣に座っています。
「なんだあいつ、こっちに来たいと見える。荷駄は奪ったようだしまあ放っておこう。凱、しばし様子を見る。少しの間休んでおけ。扇風機隊は交代で足漕ぎを続けてくれ。万が一こっち向きの風が吹いてはたまらんのでな。波多野殿、敵は次にどう出ると思う」
「さっきの勝鬨が井伊殿であればそちらに向かう事もあり得るかと」
「そうかもな。だが、まずは被害の確認だろう。今の戦いで懲りてくれればいいのだが」
実際、凱の持つ催涙弾式の焙烙玉はあと5個しか残っていない。しつこく攻撃されれば最後は物量が勝つのだ。だが、兵の気力が持つかどうか。信平は味方があんなやられ方をしたら攻める気無くすんじゃね、と期待している。
秀秋は偵察隊を上にも下にも出しました。たかが山城一つ攻めるだけなのになんでこんなに上手くいかないのか分からずイライラしています。上から戻ってきた偵察隊は、
「味方が皆蹲り動けなくなっています。毒を撒かれたのではないでしょうか?」
「ど、毒だと。ここまで毒は来るのか?」
「わかりませぬ。兵に聞いたのですが黒い煙を吸ってから息が苦しく目も開かなくなったと申しておりました。某が行った時には黒い煙は確認できませんでした」
「森村はどうした。何処にいるのだ?」
「申し訳ありませぬ。毒があるとすると近づけず森村様は見える範囲にはいらっしゃいませんでした。ただ、前の方にいたとの事なのでおそらくは」
秀秋は爪を噛み始めた。イライラすると出る癖だ。全く使えない奴らだ。森村の代わりを探さねば、面倒くさい。
「誰か将を連れて来い。使える奴をだ」
そう指示されたのは先程の偵察員だった。そんな事を言われても、とは言えそうもない。仕方なく誰か偉そうな人を探しに本陣を出ると下を偵察に行った兵とすれ違った。
「上はダメだ」
「下は味方は誰もいない」
「逃げるか?ここにいても死ぬだけだ。森村様は亡くなられたようだしあのうつけの下にいてもいい事はない」
そう話すと森村に従ってこの戦に参戦していた者達が山を降りていく。秀秋はそれに気付いていない。
井伊直政は敵の荷駄を奪った。しばらく警戒していたのだがこいつらの他に兵は居ないようだった。残っていた兵は全く警戒をしてなく奇襲をかけると脆かった。ある程度の兵を倒すと途中で敵兵は逃げ出してしまい、まんまと荷駄をぶんどった。荷駄は大量の銀と鉄砲、弾薬でなんでここにこんな無防備でお宝が?と思ったがここにいてまた奪われてはいけないので急いで一部の兵を使って亀山まで運ばせることにした。直政はここまできて信平に合流しない事はあり得ず、どうやって合流しようか考えながら山の上を見上げた。上では戦が行われているのだろうが下からでは見えなかった。
ルートは2つだ。目の前の山を登るか別方向から進むか。敵の位置がわからない以上無闇に進むわけにもいかず、と言って戻るわけにもいかず困っていた。
「こういう時あの幸村ならどうする?あの男は悪知恵が働くからな、考えろ、何かあるはずだ」
信平からの連絡もなかった。凱でもよこしそうなものなのに何故だ?まさか殿の身に何か?と思っていると勝鬨の声が聞こえてきた。
「えい、えい、おー!」
直政は山の上をもう一度みた。まさか城が落とされたか?もしくは信平様の合図では?ならばここで何かやれる事はないか?そして、こちらでも勝鬨の声を上げることにした。
「えい、えい、おー」
これで何かが起きるだろう。何が起きても対処するだけだ。




