再び扇風機
それから3日の間、柵の撤去を試みる側と撤去させない側の戦いは続きました。森村は逃げ帰り、小早川秀秋に怒られ、柵があっては勝てないと撤去を命じられたのです。防衛側も準備をしていたため結果として進展なしとなっています。本陣では、
「石にしろ矢にしろ敵の保持数には限界がある。其方は物量で勝つと申したではないか?明日はないと思え!」
と秀秋の檄が飛びました。言ってる事は最もなのですが敵の攻撃が凄まじく上手くいかないのです。ですがそんな言い訳は通りません。
「強行突破しかない」
森村は倒れようが何しようが本丸まで突っ込む作戦を実施することにしました。兵の犠牲は何人出ても構わない、本丸まで突っ込めば一万強対二千、こちらの勝ちです。その様子を信平は上から監視してました。
「いよいよか。遅かったな、最初からそれで来られる事も想定はしていたんだけど大軍を指揮した事がないのだろうからこんなものか。さて、凱。あっ、ちょっと待て。面白いのが来たぞ」
凱が下を見ると戻ってきた井伊直政が敵の元本陣を伺っているのが見えました。この展開は確かに面白いですがどういう指示を出すのだろう。あそこには上の本陣に運べなかった弾薬と銀があるはずだ。
「直政はこっちの状況知らないからなあ。まあ放っておいてもなんとかするだろう」
凱は笑っている。てっきり誰か直政のところへ伝達に行けと言うのかと思えば………。
「凱。心の声が聞こえたぞ。あやつが何をするか見てみたいとは思わんか?なんとなく想像出来ないか?」
「はあ。信平様も人が悪い」
「なんだと!」
凱は笑いながら準備に向かいました。川根の特訓場で子供の頃を過ごした仲です。こんな会話が出来るのですから余裕があるのでしょう。
凱は奥から焙烙玉を10個持って来ました。それと、これは扇風機です。羽の大きな巨大な扇風機を運んできました。
「やっと出番が来ました。これを組み立てるのは大変なのです」
信平はご機嫌です。扇風機にこれまた無理して運んできていた足漕ぎ式動力伝達装置を接続します」
「竹中半兵衛曰く空気より重いので山の上にいればこっちには来ないはずだが念には念を。これを漕げば回るのです」
信平が合図を出すと20人の兵が自転車に乗るが如くペダルを漕ぎ始めました。すると5台の扇風機が音を立てて回り始めます。結構な強さの風が山頂から下の道に向けて吹き始めます。それを見た凱が手筒を使って準備します。
森村は後が無くなりました。
「全軍突撃、何がなんでも本丸へ突入しろ!」
自らも進んでいきます。柵にぶつかりました。また矢と石が飛んできますが気にしてられません。一つ目の柵を避け、二つ目、三つ目と越えていきます。上からの攻撃が続いていますが、敵の弾にも限界があるはずです。倒れる兵が続出しますが進軍は止まりません。
「進めー、進むんだ!」
四つ五つ、もう幾つの柵を越えたのか数えられなくなりました。森村を護衛していた兵は全員倒れましたが、その度に誰かが護衛に入って来ます。森村はこの地では慕われているのです。上を見るとまだ柵は続いていますが柵の向こうに砦と門が見えました。
「本丸はもう直ぐじゃー、怯むな!進めー!」
押し寄せる兵は途切れる事がありません。この狭い山道を何千もの兵が一気に勢いで登ろうとしているのです。柵、マキビシ、油、投石という邪魔物を数の暴力だけで突破しようというのです。
「でも息出来ないと無理なんですよ、それは。凱、やっちまえ!」
凱は手筒を使って焙烙玉を敵の頭上で爆発させました。中から黒い煙が出て下へ降りていきます。そしてそれは扇風機の風によって後方へと進んでいきます。凱は続けて焙烙玉を発射します。この煙は真田信綱が川中島で使った煙幕油の改良版で、目、鼻、喉に大ダメージを与える催涙ガスのようなものでした。扇風機も川中島で使用されたものの改良版です。川中島では柵を燃やして煙を出しましたが、ここで火を使うと山が燃えてしまいます。波多野の城を焼くのは流石にやりたくないのでこの作戦を取ったのです。
煙は森村の後方を進む兵に襲い掛かりました。
「ん、なんだ。目が」
「い、息が………」
斜面に蹲り悶えていますが兵はどんどん下から登って来ます。味方に踏まれ、脚を取られた兵は斜面を滑り落ち、森村の後ろ50m程は戦える兵がいなくなりました。森村が異変に気付き後ろを振り返ると大勢の兵が倒れて蹲っているのにそれを踏み台にして兵が登って来ては倒れてを繰り返しています。命令は何があっても止まるな!でした。
「何があった?」
森村のところには煙が届いていません。前を進んでいた森村と数名は後ろに下り何があったかを見極めようとします。
「おい、どうした」
「グガガガ」
兵の声が出ません。目も開かないようです。そこに矢が降って来て森村は命を落としました。凱は続けて後方に焙烙玉を発射します。煙はどんどん下の方へ降りていき登ってくる兵を苦しめます。少しして、
「波多野殿、出番ですぞ!」
信平は50人の兵を連れて門を抜け苦しんでいる敵兵に斬り込みました。煙はもう下の方へ拡散していますが煙を吸った兵はまだもがき苦しんでいます。止めを刺すのは簡単でした。




