井伊直政の葛藤
井伊直政は亀山城に到着するとすぐに、武田信勝に面会を求めた。天海は何かを察したようで信勝に、
「上様。某は丹後へ行って参ります」
と言って直政達に合わないように出て行った。今のところ思惑通りに進んでいるが問題は………。
「上様。お久しゅうございます。井伊直政参上いたしました、こちらは丹波の国衆でお味方いただける波多野宗貞殿でございます」
そう言えばこの間来た時には俺とは会ってなかったな。声がでかいので来たのはわかったが。信勝は直政に頷いてから波多野宗貞を見た。いい若者だ。
「波多野宗貞にございます。お目にかかれまして恐悦至極にございます」
「波多野殿。武田信勝である。お主には期待して良いのか?」
「はい。上様に敵対している国衆の多くは仕方なく豊臣に与している者が多くおります。それらをお味方に引き入れて参ります」
「元々は波多野の下におった者が多いと聞くが」
「はい。ご存知かとは思いますがこの丹波の地は京に近いせいか勢力争いが絶えず、国衆も生き残るために苦心を重ねてきた土地でございます。その中で波多野は大きな勢力でありました。ですがすでに本家は滅び、国衆もそれぞれの考えで生き残りをかけているのです。某は波多野の分家ですが、今は波多野を背負う当主です。生き残るには武田様に従うしかないと言う事を主筋として話して参ります」
宗貞の目には決意が表れていた。ここで失敗すれば一族が滅んでしまう。かつての主筋がどれだけのものかは信勝にはわからなかったが、横にいる直政の目を見れば信用できると言う事なのだろう。
「わかった。早速だが国衆の説得を頼む。小競り合いが多くてな、余はこの地を治められる者を探しておるのだ。皆殺してしまっては誰もいなくなってしまう。それは余が望む未来ではない」
宗貞は深く頭を下げてから出て行った。早速と言われたからにはすぐ動かねばならない。残った直政は報告を始める。
「八上城二千、小早川秀秋の軍勢2万に囲まれておりまする」
「ゼットの連中から報告があった。その後にも九州勢八万が向かって来ているそうだな。信平は何か言っていたか?」
直政は不思議に思った。聞いていて何もしていないのだろうか?
「某に宗貞殿の護衛をと、某が城へ残ると進言したのですが不要と言われました」
「ならばなんとかすると言う事だ」
「ですが、その、援軍を送らないのですか?」
「不要と言われたのであろう?お主は援軍を連れて戻るつもりなのか?」
「お見捨てになるので?」
「そうではない。直政は真っ直ぐすぎると以前幸村が言っておったがこういうところだな。少し冷静に考えてみると良い」
「幸村のやつはあちこちでそのような事を言い触らしておるのですか。上様のお耳にまで。ゆ、許さん!」
「落ち着け。あやつは悪気があって言っているのではない。お主の事を認めておるのだろう。でなければあいつは相手にせんよ」
「わかり申した。考えてみます」
「そうするが良い。敵は小早川秀秋にあらず、そこのところをよく考えてみるが良い」
直政が下がった後、信勝はゼットの阿僧祇を呼び話し合った。阿僧祇はゼットの中では戦闘ではなく情報部隊のトップで普段は天海の下に付いている男だ。信勝が気にしているのは大阪を出て京へも丹波へもいける位置に陣取っている福島正則の2万の兵、九州から進行中の8万の兵、そしてそれ以外の動きだ。それ以外とは何度となく武田を襲った武田の特殊武器を真似て活用している部隊の事だ。こいつらの情報が少ないのが気に入らない。
信平はなんとかするであろう。何かあればすぐに凱をこっちへ寄越すはずだ。直政へはああは言ったが最悪の場合の準備はしてある。だがそうはならないだろう。信勝は京の上杉に文を書いた。尾張の徳にもだ。そして真田を呼び出した。
3日後、敵の攻めが無くなった。丹波の国衆が屈服したのだ。波多野が国衆を5人連れて面会を申し出て来た。
「上様。この者達は武田に従う事を某に誓った連中です。先日までは豊臣に従い武田を攻撃していた者も含まれております。お沙汰をお願い申し上げます」
「武田信勝である。貴様らはどうやって武田への忠誠を証明する?」
皆、無言だったが、小野紋一という者が発言した。
「小野紋一にござりまする。口や形だけの証明になんの意味がありましょう。波多野様によると領地そのままで波多野様の下に付けとの事ですが、ならば囲まれている八上城へ向かい敵兵を蹴散らして見せましょう。戦でしか証明する事ができませぬ故」
「その方の心意気あいわかった。だが敵は八上城を囲む連中ではない。まずは戦の準備を整えるが良い。下がれ」
皆を下がらせた後、井伊直政が面会を申し出て来た。
「上様。上様のお考えをお聞かせくださいませんか?この丹波で加藤清正8万を迎え討つおつもりですか?」
「敵はここには来れまいて」
信勝は地図を持って来させた。地図は真田が持って来た。
「小早川がわざわざ遠回りをして八上城を攻めた。これは想定外だが加藤清正は腑抜けではない。遠回りせずに大阪へ向かうか京へ直接乗り込むだろう。この亀山は京からは大軍が進みやすいが山を越えてくるには厳しい。今日来た国衆に主要な山道を見張らせ、敵の動きを監視する。例の大砲を使った連中のような奴らが潜んでいると対処が出来ない。遠距離攻撃を防ぐには弾を撃てなくするしかないのだから」
直政は、
「上様がここにいらっしゃるのはなぜですか?敵を引き付けようとしているとしか思えません」
「敵もそう思うだろう。だからここには攻めて来ない。直ぐにはだがな」
真田は幸村が迷惑かけているようですまん、と言ってから説明を始めた。直政はその話を聞いてから国衆を中心とした五百の兵を借りて八上城へ向かった。京には幸村がいる。ならば俺の働き場所は殿のいるところだ。




