攻撃開始
信平は三の丸にいる。こちらは東側ルートであり、敵兵は五千だ。といっても山道は狭く人は横に2人並ぶのがやっとなので敵兵は俗にいう二列縦隊で坂を登ってきている。坂は緩やかなところと急なところがあり、急なところには階段のように斜面に木が埋め込まれていて人が昇り降りできるようになっている。
「三の丸はまだか、ゼーゼーゼー」
「まだ半分くらいしか来ていないぞ。ゼーゼー」
「これでは城を攻める前にくたびれてしまう。どこかで休息を取れないのか?ゼーゼー」
「後ろから兵がどんどん進んでくる。止まれないぞ、ゼーゼー」
山の上にある城を攻めるのは簡単ではない。兵は重い鎧を着て重たい鉄砲や弾薬、槍を担いで急な坂道を登っていく。休息する場所は無くは無いが広場では無く人が一人休めるくらいのスペースしかない。休もうにもしたから兵がどんどん登ってくるので休めないのだ。
そして兵がゼーゼー言いながら急な連続した長い階段を上っていた時にそれは起こった。
『ツルッと』
足を滑らせたのだ。そして俗に言う階段落ちが起きた。先頭の兵が滑り後ろへ倒れるとその後ろの兵がその後ろへ落下するように転がる。それは連鎖し長い階段を上っていた兵全員が転がり落ちた。側面に転がった兵は木や草にしがみついては転がり、真っ直ぐに落ちた兵は階段の始まるところまで落ちるとそのあとは斜面を転がっていく。
死傷者は200名、大惨事だった。そしてそれは西側ルートでも発生した。同じように階段のきついところで足を滑らせたのだ。本陣にいた小早川秀秋と山口宗永はそれが起きたことさえ知らなかった。
そして前方の指揮官は何が起きたか分からずもう一度陣形を立て直して兵を進ませた。ところが再び同じところで兵が落下する事故が起きてしまう。前方にいた森村は慌てて本陣へ戻り報告をした。
「中納言様、全ての道で兵が落下する事故が起きてしまいました。すでに死傷者が千名を越えております。今までの城攻めではこのような事は起きた事がありません」
秀秋はイライラしている。さっさとこんな城は落として武田信勝に戦を仕掛けたいのだ。大阪からも兵がくるだろうし、後ろからは加藤清正が九州勢を連れてくる。そうだ、清正が来る前にこの城を落とさなければまた何を言われるか分からん。
山口宗永は秀秋を見て不味いと思い、進言した。
「森村殿のいう通りであれば慎重に進むべきです。偵察隊を出し何が起きたかを調査させましょう」
秀秋は、
「急げよ!」
それだけ言って寝たふりを始めた。山口は森村と共に本陣を出た。
偵察隊によると、階段の何箇所かに油が塗ってあったという。ちょうど段がキツく足の力を入れて乗るところを選んで油を塗ったようだ。そのことを秀秋に伝えると、
「さっさと油を拭いて兵を進ませろ!」
としか言わない。森村は、
「この先にも新たな罠があるかもしれません。それがしの部隊が先に進みます」
「頼む。だが4方向は無理であろう」
「はい。西側の三つの道に10名づつ先行させます」
「わかった。東側の道はわしが受け持とう」
三の丸にいる信平は兵が転がり落ちて騒ぎになっている様子を上から見ていた。上手く行ったようだ。塗った油は拭き取られたようだが、また塗ればいいだけの事。凱を呼んで隙を見てまた油を塗るように指示して本丸へ戻った。そして西側の曲輪に行きここでも同じように敵に被害が出た事を確認すると波多野を呼び出した。
「波多野殿。油作戦は上手く行った。こちら側でも隙を見て拭いた後にまた油を塗ってやれ。それと、向こうも馬鹿ではないから物見というか先発隊を出すだろうから、そいつらを返さないようにしてくれ」
「承知仕った。敵も対策して押し寄せてきましょう。その時は例の物を使いますがよろしいか?」
「頼みます。無理はしないように。数では不利ですのでそこで勝っても次には負けます。被害が増えそうな場合は本丸まで引き上げてください。敵を本丸まで引き付けてからが本当の勝負です。それまでにどこまで敵を削ることができるか」
「結城様は戦上手に見えますが、お若いのに経験が豊富なのでしょうか?」
「いえ、本格的に戦をするのはここが初めてです。城攻めはした事がありませんし籠城も初めてです。初陣のような物ですよ」
ウッソだろ!波多野は腹の中で呟いた。武田の血筋恐るべし。
そして敵の罠調査が目的の先鋒隊は特殊部隊ゼットのチームAと波多野の配下によって処理された。森村はこれでは不味いと先鋒隊の人数を増やした。そうなると武田側も簡単には処理できず罠の情報は小早川軍に伝わった。小早川軍は犠牲を出しながら本丸へと近づいていった。




