八上城
信平は着々と籠城の準備を進めている。波多野によれば今までも何度か籠城の経験があり、備えは万全という事だが、信平はそれを一つ一つ確認して修正の指示を出した。それを見ていた波多野は、将軍の弟というから飾りだけの男ではという疑いも持っていたのだがそれが間違いで一人の優秀な武将だと認識した。その話を朽木元綱にしたら、我らがお仕えするお方として申し分あるまい、と冷静に返された。
朽木はこの数日信平と共に行動してきたが、感心することばかりだった。今まで六角、三好、蒲生、明智、細川と拠り所を変えてきた。時には敵対することもあった。浅井や朝倉とも領地争いをしたこともある。その弱小国衆として生き残ってきた朽木の言葉が重かった。
波多野は信平の指示に従い、時には意見し籠城の準備を進めた。敵がここを攻めるには山道を登らなければならない。
「上にいる方が有利だからそれを利用しない手はない。凱、大急ぎで運ばせろ。のろまな小早川軍でもいい加減に攻めてくるだろうよ」
「はっ、途中で邪魔もできますがどうされますか?」
「そうだな。組み立てが間に合うようにしろ。だが、そこまで早くはあるまい」
5日経った。小早川軍の動きは上から丸見えだ。信平は以前気球に乗って敵の動きを見た事があり、上にいる価値を経験している。
「そろそろ来そうだ。準備を抜かるな!」
その頃小早川軍は城の図面を見ながら軍議を行なっていた。
「城を攻めるには四つの道があり、どこからも攻める事が可能です。ただ、道は狭く傾斜も急なため敵の罠があると思われます」
「そんな事はわかっている。だからどうするのかを聞いている」
小早川秀秋は偉そうに言う。家老の山口宗永は困った物だと思いながら口を挟む事にした。山口は秀吉が付けたお守り役な立場の為、秀秋に失敗されると困るのだ。
「殿、以前この城を攻めた事がある者に話を聞くのは如何でしょう?」
「そ、それじゃ。早速呼んで参れ」
山口は士豪の森村左衛門助を呼んだ。秀秋が八上城を攻める方針を変えないので事前に調べていたのだ。森村は波多野に敵対していてハ上城攻めの経験があった。
「森村左衛門助でござる」
秀秋は焦り気味に
「どう攻める?」
と短絡的に聞いた。森村は山口から事前に聞いていたので直ぐに答える事ができた。
「四つの攻め口がありますが、こちら側からは三つございます。この三つは本丸手前で合流しますが、その手前に各々難所があります。家臣の屋敷も途中にありそこも要害となっております。もう一つはここから半里ほど東へ行った神社から攻める道でその場合三の丸、二の丸と攻める事になります。どちらの道も狭く大軍で押し寄せても展開できる兵は限られます」
秀秋はイライラしている。だからどうするんだよ!それが思いっ切り顔に出ている。森村は山口から小早川秀秋がどういう男かを聞いていたのですが、まさかこれほどとは考えておらず焦りました。これで大将とは!
「どこも敵が待ち構えているでしょうがこちらは2万の大軍です。攻め続ければどんな要害も保ちません。向こうは二千足らずと伺いました。昼夜構わず攻撃すれば敵は疲れます。こちらは兵を交代させて攻め続けるのです」
それしかないと森村は考えていた。今までの戦では攻める側の体力が続かなかった。物量が少なくどれだけ悔しい思いをしたことか。ここにはそれがある。山口は、
「殿。森村殿の策に乗り四方向から昼夜休まず攻め続ければ良いと思います」
「わかった。その策でいこう。森村殿、うまくいった暁には褒美を取らす」
だがこの策は当然信平も呼んでいた。しかも上から小早川の動きは丸見えだ。
小早川の兵は四つに分かれた。山の入り口に荷駄が固まって置かれている。火薬だろうか?神社側に五千ほど兵が集まっていて城に向かって坂を登り始めた。それとほぼ同じくらいに西側の入り口からの兵も動く。
「さて、どいつが中納言なのか」
信平は徳考案の望遠鏡 見えるんです で秀秋を探している。
「あいつだな。西側にあるのが本陣、周囲には、あれは銀かな?軍資金を運んできているのか。おかしなやつだ」
波多野は何がおかしいのか分からなかった。
「なぜでございます。秀吉は石見銀山からの銀を使っていると聞きます。運んでいるだけではありませんか?」
「それならば戦にならぬよう慎重に運ぶだろう。まるで俺にくれると言っているみたいだ。波多野殿。あの銀はいただく事にしよう」
「なんですと。こちらは籠城するのではないのですか?」
「籠城はするぞ。見ておれ。波多野殿は手筈通りに頼む」
波多野は承知仕ったと言って各砦に指示に行った。波多野は敵を最前線で食い止めるという。信平はそれを聞いて頼もしく思った。後ろでふんぞり返っているのも前線に出るのもどちらが正解というわけではないが、兵の士気を考えれば好ましい。




