金吾 暴走モード突入
「殿、兵が進んできております」
外で大声がした。凱はその瞬間外に向かって走り出す。波多野宗長は、
「どこの者だ?」
「旗印は小早川の物です」
「なんだと!結城様、小早川は最近当主が変わり大人しくしていたのですが、こちらが武田に付いた事を知ったのでしょうか?」
「さて、直政。どう思う」
信平はまず直政の意見を聞く事にした。やっと側に来たのだから使わないとなのです。
「小早川の跡目は秀吉の甥、噂通りであればそこまで賢くはないでしょう。九州から八万の大軍が大阪へ向かって進んできています。先に道を整備しておきたいというところでは」
噂と言ったのは徳から聞いた話の事だ。九州からの大軍と合流してくるかと思えばやれやれ。格好つけたいのかねえ?
「そんなところだろう。やり過ごす事もできるが亀山には上様もいる。波多野殿、籠城はできますかな?」
「蓄えは半年程ございます」
「わかり申した。では籠城の準備を。それと宗貞殿には丹波国衆の説得に出かけていただきたい。直政、宗貞殿に同行せい」
「それでは殿の護衛はどうなさるのですか?」
「お前今までずーーーっと居なかったであろう。何を今更」
「それとこれとは違いまする」
「凱もいるしなんとかなる。京には幸村も来ているのであろう。あいつにも手柄を立てさせてやらんとな」
直政は幸村に手柄ってなんで?と思ったが信平が譲らないのと国衆の説得が重要任務であるので渋々納得した。信平にはある事を耳打ちしておいた。信平はうむとうなづいてから直政を追い出した。
朽木元綱は連れてきていた兵を城に入れ、朽木宣綱は波多野宗貞と共に城を出て行った。凱が戻ってくると尾張と信勝に使者を出すように言って自分も籠城の準備を手伝った。城の防備を固めないといくら山城でも長くは持たない。
小早川軍は総勢2万の大軍だ。ほぼ全部の兵を連れてきた。これは金吾中納言こと小早川秀秋の指示だった。
「加藤清正は到着するまで待っていろと言ったがそれでは何もいいところはないではないか」
九州の兵がすぐ近くまで来ている事を聞いた瞬間に兵を出す事を閃いた。この間、清正が来た時に浴びた屈辱、あのまんま一緒に大阪へ行くなどあり得なかった。秀秋はボンボンだ。怖いのは秀吉だけのはずなのになんで、という思いが強かった。黒田官兵衛への感謝もすっかりどっかへ行ってしまっている。そこで先んじてやろうと思ったのだ。廣島から大阪までは豊臣の領地だ。そう思い、大した準備もないままに出陣している。家臣の反対にもあったが、食糧は途中で調達すればいい。ありったけの鉄砲と火薬、それと石見銀山で取れた銀を運んできている。戦争には金がいる。ついでに運んでやろうという思いつきだ。それ故に足取りは重く思ったように進軍できていない。秀秋はイライラしている。
「これでは清正に追いつかれてしまうぞ。もっと急げないのか?」
「荷駄が多く食糧も十分ではありませんのでこれが精一杯でございます」
「食糧などそこらの城から徴収すればいいではないか?」
「それが………」
「どうした。ここいらは秀吉様の領地であろう。なんの問題がある?」
「上様の軍がすぐそばに来ているようで、備蓄はそちらに回っているそうです」
上様?武田信勝が丹波に来ているのか。そういえば尾張まで来ていると言っていたがそうか、丹波に」
「ウォ、ウァ、ハ」
「どうされました?」
「すぐに大阪へ知らせろ!大阪の兵と挟み撃ちにしてくれようぞ」
「はっ」
いい案ではあったが、自陣の食糧が乏しいという大事なところが補填できていなかった。秀秋は物心ついた頃はもう裕福だった。それは全て秀吉のおかげなのだが、その分ひもじい思いをしたことがない。ちなみに大阪への使者は届かなかった。特殊部隊ゼットのチームAが全て排除している。
秀秋はたとえ将軍が来ていようとこの土地は秀吉の物なのだからこちらに食糧を分けるべきだという使者を近くの城や砦へ送った。ところが砦はもぬけの殻でどうやら全て八上城に集まっているらしい。それを聞いた秀秋は迷わず、
「八上城へ向かうぞ!」
家臣は驚いた。
「このまま大阪へ向かうのがよろしいかと。兵糧もありませんし、その方が近いですので。わざわざ遠回りなど………」
「うるさい!余に従え!せっかく将軍を挟み撃ちにできるのに大阪へ行ってしまってはまたあの清正にでかい顔をされるではないか!すぐそこに武田がいるのに素通り出来るわけが無かろう!」
渋々兵を海沿いの道から山に向かって進ませた。
八上城。ここは山城だ。城から街道が見渡せるので敵の動きが良く見える。信平は朽木元綱と物見台に登り敵の様子を見ていた。
「だけどなぜわざわざ直接大阪へ行かなかったのだろう?あんな大勢連れて山を通って来たとは目的は上様か?」
朽木は、
「上様の動きを見過ごせなかったのではないでしょうか?上様の狙いもそこでは?」
「わざわざ丹波まで来ているくらいだからな。だが、八万の大軍が来たら困るけどな」
「そのための丹波、丹後でしょう」
ほう、信平は感心した。朽木元綱、流石に生き残ってきた国衆だけの事はある。八上城を攻めるには山道が四つあるが、どれも途中に曲輪が設けられ防御しやすくなっている。その上山道は狭く大軍が押し寄せる事も、途中で休むところもない。籠城しているのは千五百名程だが、二万の小早川を同時に相手するわけではない。信平は敵兵がまだ攻めの準備ができていないのを確認した後、各曲輪や砦を周り細かい指示を出した。
新作 水の道 迷い込んだ大江戸に水を持ってくる物語 の連載を開始しました。そちらもお読みいただけると嬉しいです。よろしくお願いします。




