ターゲットが変わった
権左は慌てて隠れた。双眼鏡での監視は信勝周辺に集中していたため、忍びの動きに気付けなかったようだ。味方が大丈夫か気になったが無視して監視場所へ戻った。その味方は数名の犠牲を出したものの素早く応戦した。来ることを想定していたような動きだ。
特殊部隊ゼットのチームAのリーダー凱が手筒で桜花惨劇を発射すると同じタイミングで敵の大砲が発射された。大砲は二門同時に弾が上空に放たれた。凱は焦らずに指示を出す。凱の放った桜花惨劇が炸裂し散弾のように尖った鉄片が敵に降り注ぐ。それと同時にチームAとBが敵に突っ込んでいく。繰り返し訓練してきたパターンだった。ところが敵は大砲の砲撃手を守るように人が盾になっていた。背中を丸め亀のようになり砲撃手を守ったのだ。よく見ると盾になった兵の背中に木でできた盾があり、鉄片の多くはその木に刺さっていた。今まで何度もこの手榴弾に味方がやられてきたのを見て構築した対策だった。
敵は突っ込んでくるのを想定していたようにゼットの面々を迎えうった。ここまでは豊臣側に分があるように見えた。ところがゼットの連中は信勝直轄の手練れだけあって一人一人の力量が上だった。豊臣側の方が人数が多いため何とか互角の戦いになっている。
「2発目を撃たすな!」
「2発目を急げ!」
お互いの目的は明確だ。砲撃手は周囲の戦いを気にせず2発目の準備に集中している。そこに後から進んできていた信平が百名の兵を連れて追いついてきた。
「かかれー!」
信平の掛け声で兵が傾れ込む。砲撃手はそれに目もくれず発射準備を急いでいる。凱含むチームAがボーガンで砲撃手を狙うが兵が盾になって庇う。敵兵は徐々に削られていくがなかなか砲撃手まで攻撃が届かない。信平が銃を使った。
「ダーン!」
銃声が鳴り響き砲撃手の一人が倒れた。それを見た敵兵が一気に信平目掛けて押し出してきた。
「殿をお護りしろ!」
家臣の中野直之が叫ぶと敵を攻撃していた兵が今度は信平の前に人の壁を作った。チームAとBはその隙に残りの砲撃手を倒したが一瞬間に合わず砲弾が発射されてしまう。
権左は監視場所に戻っていた。戦いに夢中になっていた武田の連中には気付かれなかったようだ。最初に放たれた2発の砲弾が武田信勝を襲っているはずだ。息を切らしながら武田陣営を見ると人が慌てて動いているように見えた。双眼鏡を手に持ち信勝を探す。
信勝と思われる武将は馬上にいた。街道に鉄の盾が作られ砲弾を防いだようだ。だがその盾を持っていた兵だろうか、多くの兵が血だらけで倒れている。違う武将が駆け寄って何か話をしたと思ったら信勝の馬が走りだした。話しかけた武将は再び違う兵に盾を持ち直させている。また多くの兵が山肌の途切れたとところから山へ入っていくのが見えた。こちら側だけでなく反対側もだ。
権左はそこまで見て撤収することにした。権左は見た事を伝えるのが任務だ。だが伝えるべき連絡人はさっきの争いで死んだだろう。これだけ敵兵が山に入ってしまっては見つかってしまう。とりあえず獣道すら無い場所の背の高い草が生えているところを探して身を隠そうと思った。その時、再び砲弾の発射音がした。
鉄の盾を用意していたのは真田昌輝だ。真田の兵はよく訓練されていてあっという間に鉄の盾を繋ぎ合わせ大楯とし、信勝周辺を取り囲んだ。上空からの砲弾を防ぐのが目的だが、ここは街道といっても山道。場所が悪く足場が平らではない。その為、人力で重い盾を支えなければならなかった。
敵の砲弾の狙いは正確だった。直撃すれば信勝は擦り傷では済まなかったであろう。真田の兵が命懸けで砲弾から信勝を護ったのだ。真田昌輝は、怪我した兵を下がらせ自らが信勝がさっきまでいた位置に入り交代の兵に盾を用意させていた。信勝には念の為に移動してもらった。敵の狙いが正確なので護る方も的を絞れる。
「次の砲弾に備えよ!急げ」
盾を立ち上げるとほぼ同時に次の砲弾が飛んできた。昌輝も盾を支えに入り何とか堪える事ができた。
「先程は2発、今は1発。油断するな、構えよ」
今回は1発だったので被害は無かったもののいつ次の砲弾が飛んでくるかわからない。ここで待ち構えるしか無かった。
敵は信平を狙ってきた。信平の兜には結城家の紋が入っている。これは自分が武田勝頼の子ではなく一部将であるとのアピールだったが、敵は地龍の子飼いの忍びと兵の混合チーム、武田信平の事を知っていたのだ。砲弾は信勝を殺したか怪我をさせたかはわからないが、砲弾を3発撃てた。これ以上大砲は撃てない。そこに次のターゲットが飛び込んできた。
特殊部隊チームAとBは砲撃手を殲滅する事に集中して何とか敵の大砲を確保したが、その背後では敵の生き残りは途中で大砲や砲撃手を見捨てて信平に狙いを変えていた。凱はその事に気付くのが遅れた。
敵の一人が後退しどこから出したか手筒を使い信平に向かって榴弾を放った。その前方では兵が入り乱れ戦闘中、その事に信平を護る兵は気付いていない。




