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未来を知った武田勝頼は何を思う  作者: Kくぼ


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朽木元綱

 武田信勝はゆっくりと琵琶湖畔を北上している。横には天海と旗本衆五百が囲みその中や周囲には護衛の忍びが紛れ込んでいる。信勝直轄の特殊部隊ゼットのAチームとBチームだ。信勝は子供の頃から勝頼が作ったアスレチックで身体を鍛え、駿河へ引っ越してからは川根の秘密訓練場に入り浸っていた。目的は自身の鍛錬でもあるが将来自分を守る連中を見極めることだった。今回同行しているチームAとBは同じ釜の飯を食った仲で気心も知れている。その他にも武田忍びが広い範囲で暗躍している。


 先鋒は細川忠興が三千の兵を連れて進んでいる。その後ろに本多忠勝三千、真田昌輝二千、結城信平五百と続き、総勢五万の軍だ。駿河、甲斐、信濃からも出兵している。ゆっくりと進んでいるのは訳があった。


「天海、来るかな?」


「来ます、必ず動きます。狙うは上杉と見せかけてこちらでしょう」


「だが秀吉本人が出てこない限り大阪城を攻めることになる。あの城を攻めるのは避けたい」


「水運を抑えたとしてもあの大きさですから何年もかかるでしょう」


 天海は大阪城の蓄えを気にしている。攻める方も消耗するという事だ。武田は勝頼が幼い頃から食事の改善を行い他の大名と比べるとかなりの贅沢をしている。だが、味方が増えてくるに伴い供給が追いつかなくなっている。戦がない時に備蓄をしてはいるものの大阪城を攻めるとなると足りないだろう。


「そうだろうか?小田原城攻めでは難攻不落と言われた城を一日で落としたではないか?」


 同じようにすれば。信勝はそう言いかけてやめた。同じ手は通じない。秀吉はそんなに甘くない。天海はそれを見て頷いている。そこに真田昌輝が面会を申し出てきた。


「真田か、どうした?」


「上様、武藤喜兵衛より文が届きましてございます。これを」


「余にではなく其方への文であろう。良いのか?」


 昌輝は、


「弟からの文ですがこれは上様にお見せすべきと思いまして」


「わかった。読もう」


 父、勝頼が信頼している武将、武藤喜兵衛。徳の信頼も厚いというが、信勝自身は直接見た事がない。信勝は黙って文を読み始めたが途中で真田を睨む。


「おい、これは?」


「恐らくはいくつかの案の一つかと」


「お主はどう思う」


「それがしは上様に従うのみにございます。ただ、」


「続けよ」


「愚弟は信豊様を亡くした事で少し疲れているように感じます。それゆえに少し過剰になっているかと」


「うむ、だが喜兵衛の言うこともわかる。用心しよう。で、これを持ってきたのは例の与助か?」


「そうでございます。与助をご存知でしたか?」


「父上から度々な。真田はいい忍びを持っていると言っておった。会えるか?」


 その夜、与助は信勝に一晩中付き合わされた。今まで与助が経験してきたことを事細かく聞かれたのだった。その間、天海はチームAとBを集めて指示をしていた。信勝の邪魔をしないように、かつ喜兵衛の心配を気にしてだ。




 先を行く細川忠興の軍勢はすでに若狭へ入ろうとしている。若狭は丹羽長秀が一時期国半分を抑えていたのだが、前の戦で手薄になったところを丹後勢に攻め込まれて奪われている。越前を守る武田方の菅原がそれ以上の進軍は許してはいないが、攻め入る許可は出ていないので防戦に努めている。その菅原も徳に呼ばれて三千の兵と共に尾張へ向かっている。三千に兵を抑えたのは若狭の件があったからだ。敵国が境にあるとどうしてもそうなる。


 信勝のところへ近江の国衆の朽木元綱が嫡男の宣綱を連れてやってきた。服従並びに人質という事だ。朽木家は六角の時代から駆け引きで生き残ってきた強者だ。昨夜、与助からこの辺りの話を聞いて情報を得ていたのが役立った。朽木は味方にして損はないと聞いていたのだ。


「朽木殿、細川に加わり若狭攻めを頼む。宣綱殿も連れて行って構わん」


 朽木は驚いた。人質は戦後という意味と直ぐに気付き、


「承知仕りました」


 と千名の兵を連れて前線へと向かって行った。近くの国衆の説得も頼んだ。この地域は六角、浅井が越前朝倉と微妙な勢力争いを繰り広げていた地域だ。この数十年で六角も朝倉も浅井も滅んでごちゃごちゃしている中で生き残っている国衆は強者揃いだと言える。この地を治めるには朽木はいい人材だった。


 その様子を信平が見ていた。信平は一家臣としての振る舞いをしているが、兄の将軍振りはやっぱり気になる。だが、自分は出しゃばる立場ではない。こんな時、井伊直政がいれば色々と話ができるのだがいないものは仕方がない。軍は再び若狭に向けて進んでいく。


「やはり兄上こそが将軍に相応しい」


 信平は心でつぶやいて自陣に戻りかけた。なんだろう、この不安感は。その時ふと何かの気配を感じた。信平は側に付いていた家臣の中野直之に


「なんだ、何か感じなかったか?」


「拙者は何も?念の為見て参ります。おい、ついてこい」


 中野は10名の兵を連れて山に入っていく。中野直之は井伊直政の縁者で智慧者だ。ここは、近江高島郡を抜けたあたり、琵琶の海から離れた山岳地帯だ。街道は狭く武田軍は縦長になっている。当然信勝の通る山の両側斜面には護衛の忍びが進み敵が近づけないようにしている。中野はその警戒網の外へ出た。


 信平は警戒を緩めず再び信勝の方へ近づく。



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