清正海へ
加藤清正は前田利家の軍に参加するところを秀吉に呼び止められた。
「すまんな。廣島へ行ってくれ」
武田が攻めてきている。実際はよくわからない進軍ではあるが放ってはおけない。それよりも大事という事なのだろうか?清正はまず聞いた。
「殿下、前田様のところは?」
「あっちは大した戦にはならんて。向こうも様子見、こっちも様子見。仕掛けてくりゃーわからんがそうはなるまいて。それよりも秀秋が武田の船を沈めたというのだが、官兵衛が死んだらしい」
どういう事だ。黒田官兵衛は秀吉の軍師で今までそばに付き添っていたはずだ。
「黒田殿が?なぜ廣島に?」
「わしを避けた。三成の事で意見しおったのでな。まずいと思ったのであろう。身の引き際の見事な事よ。そんな振る舞いができる男が簡単に死ぬとは思えん」
「承知!」
三成の事は清正としても面白くはない。秀吉が殺したという噂も大阪の街では聞こえてくるほど、あの時期に事件が起きるのが不思議だ。自殺ではないという確信が清正にはあった。だが、だからと言って秀吉に対する忠義は変わらない。ただの力自慢の子供だった自分がこの地位まで来れたのは秀吉のおかげだ。腹が減って動けない時に動けなくなるほど飯を食わせてくれたのだ。恩しかない。
そして前田利長には使いを出し、急ぎ廣島へ向かったのだった。
「小早川秀秋殿、加藤清正でござる。家督を継がれたとは聞いておったがいきなり武田の船と戦とは。勝ったそうだが?」
秀秋は加藤清正が苦手だった。子供の頃から秀吉に仕えていたのでよく知っているのだが清正は力自慢で怖い存在だった。秀秋は子供の時から怖いおじさんというのが心に植え付けられている。清正のいきなりの大声挨拶にビビってしまう。とはいえ今は中納言だ。
「加藤殿。殿下に聞かれたのであろう。いかにも勝ち申した。だが、小早川の戦船の大半がやられてしまった。あの大砲とはすごい物だ。小早川の最新の船にも武田に似た大砲があったが沈んでしまった」
「それでは勝ったとはいえますまい。急ぎ船を作らなければ。武田の船は他にもあるはず」
「黒田殿が武田に潜り込ませていた者が戻っている。この男のおかげで勝ったようなものだ。彼奴が途中で武田の船を背後から攻撃したので勝つ事ができた」
そのような者がいたのか?黒田官兵衛、恐るべしだが本当に死んだのか?
「黒田殿がなぜ小早川に?」
「父上、隆景様に頼まれたそうだ。たまたま船に乗っていて戦に巻き込まれたと言っていた」
「その黒田殿はどこに?」
「殿下には亡くなったと報告したのだが、武田の最後の攻撃で海に消えたのだ。生きてはおるまい」
秀秋は武田の攻撃について見た事を話した。小舟が突然爆発して周囲の小舟も余波で転覆した事を。運良く秀秋は武田から来たモーターボートによって助けられたがその時に黒田官兵衛はいなかった、と。
清正は確かにその状況では死んだと見るべきだ。だが、そのモーターボートとは何なのだ?
「その武田から来た男の名は?」
「確か、佐々木と言っていた。今は造船所で指揮をさせている。武田の船の知識を活かしてもらおうと思っている」
佐々木?加藤清正も元々は近江の佐々木氏の流れだ。清正自身は先祖には興味がなく話に聞いた事があるだけだったが、ふとそういえば黒田官兵衛も佐々木氏の流れだと思い出した。そしてその佐々木という男に会って見たくなった。
清正は秀秋にしばらく廣島に滞在する事を伝え領内を自由に行動できるように依頼した。依頼というより恐喝に近かったが。仕方なく、家老の清水をつけることにした。
「清水殿、すまんが小早川の造船所が見たい」
「承知仕りました。造船所は瀬戸内海の島にあります。そこまでは船での移動になりますが、今ちょうど船が出払っております。明日でもよろしいでしょうか?」
「そういう事なら致し方ないが、なぜ島に?」
「はい。敵の目から逃れる為です。近くに殿下の配下と思われる忍びの村があり余所者は近づけなくなっております」
そうか、例の風魔はここにいるのか。清正も甲賀の忍びを使っているので多少の情報は持っていた。水軍は戦には必須だ。特に大阪も駿河も海に面している。あの有名な小田原城でさえ武田の船からの攻撃で落ちたという。陸から上杉謙信が10万の兵で攻めても落ちなかったというのにだ。
清正も水軍を持っている。清正の領地は肥後だ。九州は船がないと商いも戦もできない。南蛮と直接貿易もしており軍船を手に入れている。値は張るが最新鋭という事だった。だが、武田の船には勝てるのか?それを知るには小早川の船の情報がいる。話を良く聞くと小早川が勝ったのは船の性能ではなく、武田の船が裏切ったからだ。武田の船は皆沈んだというがあとどのくらい残っているのか調べる必要がある。それにその佐々木という男が気になった。佐々木源氏繋がりならなぜ黒田官兵衛を助けなかったのか?
そして翌日船に乗ったところで事件が起きた。




