終戦
信豊を護ろうと兵がどんどん前に出ていく。信豊の前に兵の壁ができた。敵も動かなくなったからくり人形を無視して攻め上がってきた。その後ろには前田利家がいる。利家は、
「攻め上がれ!信忠の首を取れ!取った者には恩賞は何でもくれてやる」
利家はここまでの戦にするつもりは無かったが、利長を失って半分自棄になっている。それは武田信豊も同じで本当は小競り合いだけで引き上げるつもりだった。どこでどう狂ったのか?戦は水物とは言うがここまでお互いの思惑が外れるのは珍しいだろう。
後に、武田勝頼と豊臣秀吉が場所は違えど同時にこう呟いたと言う。
「焦りおって」
陣形も何もない。至る所で兵が争っている。武藤喜兵衛のところの弓隊が追いついてきて味方兵がやられそうな場面を狙って敵を矢で攻撃し始めた。こういう時にこの時代の銃は使えない。命中精度が低く味方に弾が当たってしまうからだ。弓、ボーガンの方が命中精度が高く援護射矢を行っていく。だが、それを見つけた前田兵が弓隊に斬り込んでいく。弓隊は崩れたが、そこに槍隊が現れ前田兵を薙ぎ倒していく。激闘が続く中、みれいは望遠鏡 見えるんです を使って前田利家を探していた。こいつさえ倒せばこの戦は勝ちだ。そしてついにその姿を捉えた。
すでに怒崙改は空中で待機させている。電池が無くなる前に仕掛けなければ全てが無駄になる。みれいは怒崙改を利家へ向かわせる。だがまた、兵が邪魔をして利家が見えなくなる。みれいは焦った。
「ごめん、肩を貸して」
護衛兵の一人に肩車をしてもらう。利家はどこだ。土煙がひどい中、再び利家を見つけることができた。
「やった。これで、うわっ!」
みれいの肩に敵の矢が刺さった。みれいは操縦桿を放り出してしまう。それを側にいたりこが拾った。みれいはまだ肩の上で堪えている。
「みれい、そこはいい的だよ。降りて狙った方が良くない?」
「降りたら狙えない。いいからそれを渡して」
さらに矢がみれいに刺さる。みれいは肩の上から落ちてしまった。敵からすれば怪しい女が変な動きをしているのだから狙うのは当たり前だ。武田の女は一流の兵だというのは有名なのだから。それを見たりこがすぐさま肩に乗った。
「利家はどこ?」
みれいは南の方向を指差す。あれか、あの爺さんが前田利家。偉そうな兜を被っている。りこはすぐに怒崙改を降下させて矢を発射した。
「いた、何だ?どこから矢が飛んできた?」
その矢は利家の肩に刺さった。利家は周囲を見渡すが矢の飛んできた方向には何もいない。流れ矢がここまで飛んできた?いや、敵とはまだ距離がある。たまたまか?そう思って矢を肩から抜こうとすると何やら蚊が飛んでいるような音がしてきた。
「何だ?」
音はだんだん大きくなっていく。初矢が肩に刺さったのを見たりこはもっと近づかないと上手く狙えないことに気づき怒崙改を利家の近くまで寄せていたのだ。利家の護衛の兵が怒崙改に気づいた。だが、初めて見るおかしな物体に固まってしまう。だが、その宙に浮かぶ物体に矢が付いている事を見た瞬間、槍を振り回し怒崙改を落とそうとするが槍が届かない。その物体は槍を避けたように見えた。虫を払うように槍を振り回す護衛兵だが、怒崙改は一度高度を取り旋回した後、利家の正面にきて残りの矢を発射した。
矢は最初2本放たれたが利家は槍を振り回し矢を薙ぎ落とした。ところが時間差でさらに2本の矢が飛んできて槍を大振りしていた利家はそれをそのまま額に受けてしまう。
武田信豊は肩の上に乗っている女を見た。りこだった。みれいはどうした?護衛兵が止めるのも聞かずりこのもとへ走っていく。ちょうどりこを目掛けて敵兵も進んできていた。りこが敵兵の攻撃を受けたのが見えた。敵が押し寄せてきている。
「みれいはどこだ?」
信豊はさらに前へ行こうとするが兵に止められてしまう。そこにも敵兵が押し寄せる。もみくちゃになる。少しして、
「前田利家討死、前田利家討死!」
と大声をあげて戦場を駆け巡る連中が現れた。与助とその配下達だ。前田兵が慌て始め、一部の兵が利家の安否を確認しようと下がっていく。前方の兵達は戦を止めない。デマかもしれないのだ。そして前田兵が下がり始めた。武藤喜兵衛はやっと追いつき織田信忠と一緒にいた武藤信之に戦況を聞いた。
「バッカモン!殿を護らずに何をしている!」
「戦で消耗し、殿の命令で織田様を護っておりました。何としても織田様をお守りしろと」
「だからと言って殿を放り出してどうする!殿はご無事なのか?影武者は殺されているのだぞ」
そうなのだ。武田信豊は自分を襲ってくる可能性から影武者を武藤喜兵衛に護らせた。その作戦は上手くいったのだが影武者は殺されてしまったのだ。そこに与助が現れた。
「りこが前田利家を怒崙改で仕留めましたが、りこ、みれいは討死です」
「殿はどうした?」
「信豊様?お姿を見ておりません」
前田兵は利家の遺体と共に川を渡り向こう岸へ去った。平野には敵味方の死体がゴロゴロしている。倒れている女がいた。みれいだ。その横に寄り添うように座っている男がいた。その男の胸には槍が刺さっている。みれいを見下ろすようにしているその男の息はもうない。




